大倉前監督が語る、侍ジャパン女子代表の今後 そして、自身が手にした“財産”

2017.7.3

WBSC女子野球ランキングで不動の1位に座る侍ジャパン女子代表。昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)では5連覇を達成し、「世界最強」の実力をあらためて証明した。この5度のワールドカップ優勝のうち、第5回大会を除く4大会で日本を世界一に導いたのが大倉孝一氏だ。大倉氏の退任後、侍ジャパン女子代表には橘田恵新監督が就任。来年開催予定の第8回ワールドカップでの優勝を目指すことになる。では、日本はどのようにして「世界最強」の座を守っていけばいいのか。

写真提供=Getty Images

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橘田新監督が就任、W杯5連覇中の侍ジャパン女子代表が進むべき道とは…

 WBSC女子野球ランキングで不動の1位に座る侍ジャパン女子代表。昨年9月の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)では5連覇を達成し、「世界最強」の実力をあらためて証明した。

 この5度のワールドカップ優勝のうち、第5回大会を除く4大会で日本を世界一に導いたのが大倉孝一氏だ。女子代表監督を退任し、今年2月に母校・駒澤大学硬式野球部の監督の就任した名将は、周到な準備、緻密な戦術、そして計算し尽されたチーム作りで、日本の野球を強化してきた。

 大倉氏の退任後、侍ジャパン女子代表には橘田恵新監督が就任。史上初の女性監督として、初開催となる今年9月の「第1回BFA女子野球アジアカップ」、そして来年開催予定の第8回ワールドカップでの優勝を目指すことになる。では、日本はどのようにして「世界最強」の座を守っていけばいいのか。

 大倉氏は、橘田新監督を全面的に信頼することが大切だと強調する。生まれ変わる侍ジャパン女子代表の課題について問われると、「メンバーも変わるし、監督が変われば野球観も十人十色ですからね。僕が課題を挙げることが出来るとすれば、それは自分が監督を務めての課題であって、橘田監督の課題ではないので」と断言。そして、「全員を若手にするかもしれないし、ガンガン打つ野球にするかもしれないし。どんな野球がいいなんて、誰も言えないはずです」と続けた。

 極論では、必ずしも来年のワールドカップで6連覇を目指す必要もない。新監督を信頼すべきであって、外野が余計なことを言う必要はないというのだ。

「もしかしたら、勝ち続けることに重きを置かないかもしれない。監督というのは自分が思うことをやる。それが選ばれた監督じゃないかなと思います。僕は途中でだんだんそういう感覚になっていったんです。なぜなら、『大倉孝一は大倉孝一だから』と。そのために自分がここにいるんだ、と。それをやって出た結果の責任を負うのが、代表監督の意義ではないのかと」

 実は、大倉氏の元には、橘田新監督からも電話がかかってきたという。そこで伝えたメッセージは『自分の野球をするために監督になったんだから、思うようにやれ」。大倉氏のもとで「失点を計算できる野球」を徹底し、世界の頂点に立ち続けてきた日本。現時点では、海外のライバル国にとっては、「日本の野球=大倉監督の野球」となっている。ただ、橘田新監督のもとで新たな「日本の野球」を作っていくべきだというのだ。

「僕が日本の野球をこの後どう進めたらいいかっていうのは、発言するに値しない」

 ワールドカップ5連覇を達成しているとはいえ、当然、これまでも簡単に勝ってきたわけではない。毎回、険しい道のりを力強く進み、世界の頂点へとたどり着いてきた。ただ、大倉氏にとっては、日本を初の世界一に導くまでの戦いが、最も難しかったという。

「それは1回目(の優勝)ですよね。1回目の扉をこじ開けるのはやっぱりしんどかった。監督業としての自分もしんどかったですよ、12年前は。チームをどのようにして作っていくかというのが見えて『ミスが出ない野球をしよう』として、そのための準備をして、やっと決勝戦にいったけど、やっぱりエラーが出て、先行されて…というゲームで。中盤に逆転して初めて(W杯を)勝てたんですけど、あの試合はしんどかったです」

 その後は、世界で勝ち続けた大倉ジャパン。「勝って当たり前」と思われることの難しさ、重圧を感じてしまいそうだが、名将は毎回“リセット”することで、乗り越えてきた。

「いや、僕はもう仕切っていました。1回ごとの大会で、メンバーも変わりますから。例えば、第4回大会の監督をしたときに、前の3度の大会(の結果)を新しい選手たちに背負わす必要はない、背負うことでプラスになることも何もない、と思っていたので。だから、前回は2016年バージョンのジャパン。その前は2014年バージョンのジャパン。自分たちが今やろうとしている野球を今大会で発表することだけに集中しよう、と。

 その結果、何連覇で切れても、それは別。だから、我々はこのメンバーで最初の最後の大会なんだから、あえて仕切って整理するという方法を取るんです。すべて、結果はあと。『このメンバーで、この大会で、自分のマックスを表現する』ということは言い続けるんです。それでいいんだと。何連覇できなかったということを選手が責任負うことは一切ないから、と。それをずっと話してきました。そして、実際に(勝って)終わって僕はホッとする。選手は『やったー』。それでいいんです」

 指揮官が変わり、生まれ変わる侍ジャパン女子代表も、5連覇中という事実を背負って戦う必要はない。“橘田新監督バージョン”のジャパンで、新たな歴史を作っていけばいいと、大倉氏は考えている。「だから、僕が日本の野球をこの後どう進めたらいいかっていうのは、まったく発言するに値しない」。駒澤大学硬式野球部の監督として胸の内を明かした。

 今年9月には、「第1回BFA女子野球アジアカップ」が初めて開催される。大倉氏は「すごくいいことだと思います」と話す。日本は18歳以下の選手で望むことが決まっており、すでにメンバーも発表済み。「有意義だと思います。(国際大会を)経験する、見る、ということはものすごい成長につながります。いいことだと思いますね」。来年のワールドカップへ向けて、実のある大会にしたいところだ。

大倉氏が抱く女子野球への思い、「ほとんどのことを教わった」

 まさに、日本女子野球の歴史を作り上げてきた名将。大倉氏は最後に女子野球への感謝の気持ちを明かした。

「僕はほとんどのことを女子野球から教わったといってもいいくらい。今こうやって大学生を指導してますが、この10年以上、女子野球選手と一緒にチームを作ってやってきたということは、ものすごく勉強になっていますよ。

 選手に対するアプローチ方法は、180度とは言わないですけど、37歳までの自分とは大きく変わりました。『何回言えば分かるんだ』とか『そのままのお前じゃ使えないよ』とか、そういうことでは彼女たちには何も響かない。僕に対して『大倉さん嫌い』という感情しか生まれない。そういう選手が目の前に何人かいたりしたときに『なんだこれ』というのが最初でした。

 でも、コーチというのは、この選手たちが伸びるとか、この選手たちのパフォーマンスを発揮させる、というのが仕事です。なので、『自分の言葉を変える。アプローチを変える。それでこの選手たちが伸びるなら、それをしないといけない。じゃあ、どうしたらいいのかな』というのが入り口でした。その結果として、とてもスキルアップさせられたんです。『選手たちに(スキルアップ)させてもらった』という思いはすごくありますよね。

 今、自分が(駒澤大学で)使っている手法は、『とにかく選手の話を聞く。選手がこっちを振り向いてくれる。振り向いたら初めて指導とかアドバイスをする』という形です。女子野球では、そうやって彼女たちに(指導が)落ちていく。そして、選手が頑張ろうとする。今も、大学生たちにそういう手順で接しています。選手に対するアプローチ方法は、女子野球でものすごく教わりましたね」

 女子野球を成長させ、そして自らも成長してきた大倉氏。今後も女子野球界に温かい視線を送り続け、遠くからさらなる躍進を願うことになる。

【了】

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