今夏W杯開催のU-15は「最も指導が難しい世代」 専門家が重視するポイントは?

2016.5.30

心と身体が大きく変わり始めるU-15の年代は、指導が難しいとされる。では、いったい何を重視して、選手の成長を手助けするべきなのか。小学生以上の幅広い年代を指導している元プロ野球選手の野球解説者・野口寿浩氏に、そのコツを説明してもらった。

写真提供=Getty Images

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鹿取監督率いる侍ジャパンU-15代表、今夏は福島でW杯も開催

 今年7月29日から8月7日、福島県いわき市で「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ 2016 inいわき」が開催される。日本は2012年の第1回大会(メキシコ)は出場を辞退。14年の第2回大会(メキシコ)では7位に終わっており、鹿取義隆監督率いる侍ジャパンU-15代表は今夏、地元開催で大会初優勝を目指す。

 心と身体が大きく変わり始めるU-15の年代は、指導が難しいとされる。では、いったい何を重視して、選手の成長を手助けするべきなのか。自身が開校する野球スクールで小学生以上の幅広い年代を指導している元プロ野球選手の野球解説者・野口寿浩氏に、そのコツを説明してもらった。

 野口氏はまず、U-15世代について「特に指導が難しい。体の部分ですごく難しい世代です。色々と変わるので、体力に合った技術指導が必要になります。筋力的、技術的なものを連動させる必要がある世代。高校生になれば、筋力も出来上がってくるから教えることもできてくるのですが」と指摘した。

 野手出身の野口氏が特に重視するべきだとするのが、野球の基本中の基本の部分。「バットスイングとボールの投げ方」だ。

「例えばゴロの捕り方は、(体が成長してからも)分かっていけば、形はどんどん直っていく。でも、スイングとボールの投げ方は、1度変な癖がつくと取れません。しかも、U-15世代では、体が成長していく中で技術を身につける必要がある。選手を春休みに指導して、夏休みに久しぶりに見ると、スイングが変わってしまっていた、ということはよくあります。体が大きくなったから、さぞかし飛ぶようになっただろうと思って打ってもらうと、変な打ち方をしてゴロばかり――。こういうことがよくあるのです。なので、体の成長にあった技術指導が必要になります」

 小学校を卒業してから、高校に入るまでの間で、体は大きく成長する。パワーが伴い、スイングの力強さも増す。選手本人も、それを実感するようになる。ただ、そこに落とし穴がある。

「体が大きくなるほど、しっかりとしたスイングをした方が打球は飛ぶ」

「(筋力がなくて)バットを振れなかったはずが、(体が成長して)振れるようになると、子供は大振りする。無茶して振るようになります。振れるようになったら『遠くに飛ばしたい』となるので。そうすると、変な振り方になってしまいます。後ろ(テークバック)を大きくして、(体を)反り返らせて振るような選手が多いですね。

 でも、それではダメなんです。『体が大きくなったのだから、振らなくても飛ぶんだ』というのが、このくらいの世代の選手には分からない。フルスイングと大振りは違います。でも、体が大きくなると大振りしたくなるものなのです。体が大きくなるほど、しっかりとしたスイングをした方が打球は飛びます。しっかりしたスイングのほうが、持っている力が伝わるわけですから。しっかり振れるようになったら、思い切り振りたくなるのが心理というものです。やはり遠くに飛ばしたいので。

 でも、正しく(ボールを)打ちさえすれば、(打球は)飛ぶのだということを分かるようになるべきなのが、U-15世代です。体ができれば、正しく打ったほうが打球は飛ぶ。逆に、滅茶苦茶に振ったら飛ばない。ということをこの世代のうちから覚えたほうがいい。大事なのは、トップを作ってからインパクト直後くらいまでの間。そこで悪い癖があれば、それはなくしたほうがいい」

 U-15世代の指導者には、このことを選手に理解させる必要があるという。体が大きくなり始める年代でこそ、基本が大事になる。それは、打つことも投げることも同じだ。プロ野球選手の中に、いいお手本がいると野口氏は説明する。

目指すべき理想の打者は? 「そのようなスイングを目指してほしい」

「(6度の本塁打王に輝いている)西武の中村剛也選手には、(スイングに)全く力みがありませんよね。だから、(2011年に)『飛ばないボール』になった時も、1人だけ40本以上(48本)のホームランを打ちました。この世代の選手には、中村選手やヤクルトの山田哲人選手のようなスイングを目指してほしいですね。ピッチングも全く一緒です。体が大きくなり始めると、思い切り振りかぶって、体を振って投げる選手が出てくる。でも、『日本ハムの大谷翔平選手はそんな投げ方してますか?』ということなんです」

 そして、この技術指導とともに、体の成長に合わせた筋力トレーニングも、U-15世代でやっておくべきだという。ここにも適度なバランスが必要となってくる。

「筋力トレーニングは成長を妨げるとされていますが、やらないと故障の原因にもなります。だから、U-15世代ではインナーマッスルのトレーニングはガンガンやればいい。(筋肉の)下地にはしっかりとしたものを作っていったほうがいい。ベースになるものは、少しずつつけていったほうがいいということですね。ほぼゼロの状態から(高校に入って)いきなり(筋力を)上げられることはない。少しずつ上がっていったほうがいい。その方が骨格の成長に合わせて筋力を付けていける」

 基本の徹底と筋力の強化。これをバランスよくミックスさせ、指導していくことが、この世代には必要だと野口氏は分析する。「最も難しい世代」だけに、指導者も繊細な感覚を持ち続け、一人一人の選手にしっかりと気を配ることが今後も求められる。そして、日本ならではの細やかな指導こそが、U-15世代を世界一にするために、重要な要素となりそうだ。

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