U-12代表・仁志敏久監督が伝えたい「半分だけ」の法則と「チャレンジ」の勧め

2020.4.27

野球日本代表「侍ジャパン」には、トップチーム、社会人、U-23、大学、U-18、U-15、U-12、女子と8つのカテゴリーがある。2013年からプロとアマチュアを「結束」する象徴として全カテゴリーが同じデザインのユニホームを着用。各カテゴリーで「世界最強」を目指して戦っている。

写真提供=Getty Images

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2014年からU-12代表を指揮、代表メンバーに必ず伝える言葉とは…

 野球日本代表「侍ジャパン」には、トップチーム、社会人、U-23、大学、U-18、U-15、U-12、女子と8つのカテゴリーがある。2013年からプロとアマチュアを「結束」する象徴として全カテゴリーが同じデザインのユニホームを着用。各カテゴリーで「世界最強」を目指して戦っている。

 2014年から6年にわたり、U-12世代の監督を務めるのが、読売、横浜(現横浜DeNA)で活躍した仁志敏久氏だ。現役時代は二塁手としてゴールデングラブ賞に4度輝いた守備の名手で、打席ではシュアな打撃でチームに貢献。米独立リーグを経て、指導者に転身した仁志監督が考える「U-12世代に大切にしてほしいこと」、そして「侍ジャパンとして取り組むアンダー世代の育成」について語ってもらった。2週にわたる前後編でお届けする。まずは前編から。

 U-12代表での初采配は、2014年に開催された「第8回 BFA 12Uアジア選手権」だった。以来、軟式野球の「アジア選手権」と、硬式野球の「ワールドカップ」を毎年交互に指揮してきた仁志監督は、代表メンバーとして集まった選手たちに必ず伝えていることがあるという。それが「批判も称賛も半分だけ聞いておきなさい」ということだ。

「U-12代表には地元でスーパースターのような子もいれば、大抜擢となった子もいます。ただ、一度でも侍ジャパンのユニホームを着ると、いろいろな場所で『あの子は侍ジャパンだ』と言われる。『すごいね、将来はプロだね』と褒めてくれる人もいるけれど、褒め言葉を鵜呑みにして『僕ってすごいんだ』と自惚れるのは良くない。ただ、せっかく褒めてくれているので、半分だけいただいておきなさい、と。逆に、批判する声も聞こえてくると思います。三振したら相手のピッチャーに『あれでジャパンか? 僕の方が上だ』と言われるかもしれない。批判は批判で周りの自然な意見でもあるけれど、それを全面的に受け取ると今度は自分の心が辛くなってしまう。だから、批判も周りの意見として、半分だけ聞いておきなさい、と伝えています」

「子どもだから、大人だから、という解釈で話をしているつもりはありません」

 大人にも通じる教訓を、あえてU-12代表選手たちに授けるのは「子どもたちが大人になっても生きる言葉を伝えたい」という親心でもある。仁志監督は「子どもだから、大人だから、という解釈で話をしているつもりはありません」と続ける。

「ある部分は子どもですが、ある部分はしっかり形成された人格を持った人間だと思って接しています。代表になった子どもたちが、全員そのまま野球選手として育ってプロになるわけではない。プロになってほしいと思いながら指導していますが、どちらかといえば、野球を長く続けても最終的には社会に出る子たちが圧倒的に多いわけです。なので、社会に出てからしっかりとした大人でいられるように声掛けをしています」

 日本全国から選ばれた代表選手たちが、実際にチームとして活動するのは、事前合宿、大会を通じて2週間ほどだ。短期間ではあるが、それぞれ家に帰った時に「監督にこんなことを教えてもらったんだよ」と1つでも伝えられるように、毎日全員に声を掛けることを意識しているという。だが、そこで指導するのは細かい打撃や投球の技術ではなく、タイミングの取り方や自然体であることだ。

「子どもたちはみんな、試合が終わると大体素振りをしたがるんですよ。ただ、それぞれ普段指導なさっている監督やコーチ、お父さんがいるので、僕はフォームについてはあまり言わずに、タイミングの取り方などをアドバイスします。普段と違うことを言って、子どもたちを混乱させるといけないので。ただ、自分の体に合わない動きを無理矢理している子には、一番振りやすい自然の形がいいよというアドバイスはします」

 どの時代でも、子どもたちは憧れの野球選手の真似をしたがるものだ。仁志監督が就任当初は「スモールベースボール」を意識し、追い込まれたら逆方向に打つ子どもが多かったというが、最近は「フライボール革命」の影響を受け、体格に関係なく「メジャーのホームラン打者みたいなスイングをする子が増えていますね」と話す。

指揮官がU-12世代に勧めたい「何でもやりたいと思ったらチャレンジする」こと

 多くの子どもが本気でプロ野球選手を目指すU-12世代。仁志監督が大志を抱く子どもたちに最も大切にしてほしいことは、意外にも「野球ばかりに囚われないこと」だ。

「やっぱりまだ12歳なので、体もぐんぐん成長しますし、知識もどんどん増えていきます。だからこそ、この年代から野球だけに囚われず、勉強はもちろん、他のスポーツや遊びにチャレンジしてほしいですね。そういった経験は全部、その後で野球をする時に役立つと思うので。逆に、野球しか選ばせないのは、野球嫌いに繋がりかねない。そもそも12歳の子どもに好きなことを1つ選ばせるのは、かなり酷ですよね。大人でも難しいくらいですから。だから、何でもやりたいと思ったらチャレンジするのがいいと思います」

 野球以外のスポーツや遊びを通じて、いろいろな体の動きを経験することは、後に野球選手としての可能性を広げることにも繋がるという。

「基本的に運動神経のいい子がプロ野球選手になることが多いんですが、野球しかやったことがないのに、野球が上手くできるというのは、僕は偶然だと思っています。他のスポーツの動きが野球に生かされることは結構あって、本当は能力があるのに、野球しかやっていないから野球の発想しかできず、新しいアイディアが浮かばなくて上手くいかない子も多いんですよね。例えば、サッカーやバスケのように人を相手にするスポーツの場合、自分の体を自由に理想的に操作しないといけませんが、野球は左右どちらかに偏るなどかなり特殊な動きが多い。だから、理想的な体の動かし方を知った上で、特殊な動きをすると上手くできることがあるんですよ」

 体の動きのみならず、考え方の可能性を広げる意味でも、あえてU-12世代にはいろいろなことにチャレンジしてほしいと願う仁志監督。野球だけに縛られない懐の深い考え方が、ひいては子どもたちの野球離れを食い止めることに繋がるのかもしれない。

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