侍ジャパンの命運握る機動力 元盗塁王・高木豊氏が語る盗塁・走塁の重要性

2016.8.29

現役時代に通算321盗塁を記録し、大洋時代は故・加藤博一氏、屋敷要氏と“スーパーカートリオ”と呼ばれ、俊足で球界にその名を轟かせた高木豊氏は、野球における盗塁や走塁の重要性をどう考えるのか。古巣・横浜DeNA(01年は横浜)で2度コーチを経験、さらにアテネ五輪日本代表チームでのコーチ経験を持つ高木氏が考える、盗塁や走塁のポイントとは何か。走塁のスペシャリストに、思いの丈を語ってもらった。

写真提供=Full-Count

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今季好調・広島東洋カープに見る機動力の重要性「軽視するとパワーに屈する」

 今季のセ・リーグは、25年ぶりの日本一を目指す広島東洋カープが、開幕以来好調を維持する。本拠地に限らず遠征地にもファンが大挙する広島東洋だが、観る者を引きつける魅力の1つが機動力を生かしたスピーディな野球だ。8月23日現在、広島東洋のチーム盗塁数は100に達し、2位・東京ヤクルト(66盗塁)に大きく差をつけている。併殺打の数も68とセ・リーグでは最も少なく、足を生かした走塁で余分なアウトを出さないスタイルが伺える。

 野球と言えば、投手力や打撃力が注目されがちだが、今季の広島東洋のように盗塁や走塁を代表する機動力も勝敗を分ける大きなカギとなる。それは国際大会でも同様。2017年に世界一奪還を目指す野球日本代表「侍ジャパン」でも、決して軽視してはいけないポイントの1つだろう。

 現役時代に通算321盗塁を記録し、大洋時代は故・加藤博一氏、屋敷要氏と“スーパーカートリオ”と呼ばれ、俊足で球界にその名を轟かせた高木豊氏は、野球における盗塁や走塁の重要性をどう考えるのか。古巣・横浜DeNA(01年は横浜)で2度コーチを経験、さらにアテネ五輪日本代表チームでのコーチ経験を持つ高木氏が考える、盗塁や走塁のポイントとは何か。走塁のスペシャリストに、思いの丈を語ってもらった。

――1つのチームを評価する時、投手力や打撃力に目が行きがちですが、走塁は決して軽視してはいけない項目だと思います。

「韓国を含め外国に対抗する国際大会では、日本はどうしてもパワー不足になってしまう。そこを補うには、バントなどの小技だったり、走塁ってすごく重要だと思うんですよね。それを軽視する形になると、おそらくパワーに屈することになるんじゃないですかね」

アメリカの広い球場には、守備範囲の広い機動力ある選手を

――日本が勝機を見出せるのは機動力にある、と。

「それだけではないけど、1つの方法。今年、なぜ広島東洋があそこまでいけるかというと、やっぱり軽快さなんですよね。機動力を上げるのは地道な作業で、長期展望に立った時にはチームとして取り組むことができるけれど、代表チームとなった場合、盗塁や走塁の技術を持った選手を選んだ方がいいですよ」

――スペシャリストが必要だということですね。

「はい。あとアメリカの球場って広いから、守備範囲も変わってくる。例えば、狭い横浜スタジアムで国際大会をするんだったら、日本もパワー打者を揃えなければいけない。でも、アメリカの球場は広いし、ボールも飛ばない。そうなると、走塁で1つでも先の塁を狙う作業が有効だと思います。柳田(悠岐・福岡ソフトバンク)みたいな選手がいるから必ずしもイコールではないけれど、パワーを取ると守備範囲は狭まり、スピードを取ると守備範囲は広いがパワーが少ないことが多い。選手選考の段階から意識するべきことでしょうね」

――高木さんが監督・コーチだったら、侍ジャパンで生かしたい機動力ある選手はいますか?

「片岡(治大・読売)が元気だったら片岡とか。やっぱり盗塁の技術に関してはNo.1だと思うんですよ。スペシャリストとして、選手枠に余裕があるなら鈴木尚広(読売)とかね。理想は、4番以外は(走攻守)3拍子揃った選手を集めたい。山田(哲人・東京ヤクルト)なんか最高ですよね。パワーはある、ヒットも打てる、足も使える、守備は…上手くなりましたよね(笑)。ああいった選手を何人集められるか」

盗塁に必要なものは「勇気」 勝算を裏付けるスカウティングリポートの存在

――足の速い選手が揃いがちなポジションはありますが、侍ジャパンの外野陣は中田翔選手(北海道日本ハム)や筒香嘉智選手(横浜DeNA)などパワー打者が増えそうです。

「筒香は決して足が遅いわけではないんですよ(笑)。使わないだけで、使おうと思えば使える足は持っている。メジャーを見ていると、牽制が雑ですよね。そういった意味では隙だらけ。相手投手が警戒せず、クイックモーションでも大きく足を上げるところで、筒香や中田のような選手がスッと行けば成功しますよ。そういう隙でサインが出なくても走れるか、またそういう話し合いができているかですね」

――相手投手の傾向を読む意味でも、スカウティングリポートは重要ですね。

「盗塁って、絶対的に必要なものは勇気なんですよね。日本のお家芸が足だとなっても、国際大会で競った場面になると、失敗を恐れてベンチからなかなかサインが出なかったり、サインが出ても走者に勇気がなくてスタートが切れなくなる。その勇気を持つためにも、しっかりとしたスカウティングリポートがあるかどうかが大切。勝算を見つけながら戦うのでは一手遅れる。勝負をする前に勝算を持って戦ってほしいですし、そのためにはスカウティングリポートは重要な作業になると思います」

――国際大会での「盗塁を失敗してはいけない」というプレッシャーは、とてつもなく大きいでしょうね。

「勝負の流れが変わることもあるし、失敗は嫌ですね。サインを出す側は失敗するリスクも考えて出しているけど、走り手は失敗のリスクは考えられない。100パーセント絶対ってならないと、スタートは切れない。なかなか勇気がいりますよ」

日本の盗塁王・福本豊氏に受けたアドバイス「目ん玉を見たら分かるだろ」

――高木さんは現役時、投手のクセを盗んだり、スタートを切るタイミングを取ったりするために、どんな工夫をなさっていましたか?

「投手の第1動作を早く見つけることですね。最初に足が動いているように見えるけど、実は手が先に動いているとか、アゴでリズムを取って、アゴが上がった瞬間に足が少し遅れて上がるとか。いろいろな第1動作があるんですけど、そこを見抜くこと。でも、走者にもクセがあって、アゴではタイミングが取れないって選手もいるんですよ。その場合は、第2動作がどこなのかを見抜けるかですね。

 これは福本(豊・元阪急で通算1065盗塁は日本記録)さんが言ってたんですけどね。『クセがない投手にはどう盗塁したらいいんですか?』って聞いたら『目ん玉見たら分かるだろ』って。要は、牽制の時、投手は走者を見るから黒目が走者の方向を向いているけど、黒目が外れた瞬間にホームに投げるって言うんですよ。でも、目ん玉!?(笑)。僕は『さすがにそれはできません』って言いましたね。投手の目ん玉が見えるか、あの距離で?って(笑)。それでも福本さんは見てたみたいです。すごいですよね。動物的ですよ(笑)」

――機動力と一言で言っても、盗塁と走塁は似て非なるもの。選手によって、得手不得手はありますね。

「ありますね。走塁で大切なのは判断力なんです。走塁の上手い選手は、三塁コーチに頼らないって言われてるんですよ。例えば、一塁から三塁、二塁からホームまで、コーチの指示がなくても走れる選手は優秀です。実は、三塁コーチはライトに打球が飛ぶと、どのくらい奥まで飛んだか、その距離感がつかみづらい時がある。レフトやセンターは問題なんですけどね。だから、走りながら打球の距離感を見て、自分で判断できるランナーは優秀。判断力がある走者だと、三塁コーチは楽できます(笑)。判断力はもちろん、大回りしないでベースを回るといった走塁技術も大切。センスもありますけど、アウトになるかセーフになるかを一瞬で判断する力。これは教えられるものではないし、性格的なものもありますね」

王ジャパン成功の背景には、パワー重視からのシフトチェンジがあった

――小久保裕紀氏の監督就任以来、侍ジャパンの強化試合を見ると、機動力よりも打撃力を重視したチーム作りに見えますが、どう思われますか?

「小久保監督自身が4番バッターで、4番が長打で返すぞって野球をやってきたからでしょうね。僕は王(貞治・侍ジャパン初代監督)さんがすごく立派だったと思うのは、チーム結成当初は(パワーある)外国と四つ相撲を組もうと思っていたんですよね。でも、対戦を重ねて『これじゃ勝てない』と思ったんでしょう。バントをやり始めましたよ。パワー重視から、細かい作業にシフトしていった。王さんもホームラン868号打ってて、4番が(走者を)返さないといけないという野球だったのが、うまくシフトチェンジをして世界一になり、『日本の野球はスモールベースボールだ』と言われた。もしかしたら、王さんにとっては屈辱的な名前をつけられたかもしれないけど、代わりに栄光を手に入れた。途中でシフトチェンジできた王さんは素晴らしかったと思います」

――小久保監督にもシフトチェンジする時がくるかもしれない…。

「小久保監督は人柄もいいですし、熱心だし、期待するところは多くあります。ただ監督やコーチを経験していないところで、代表監督に指名された。侍ジャパンの監督は、日本で一番失敗ができないポジション。小久保監督自身も大変だと思いますが、世界一奪還に向けて頑張ってほしいですね」

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