前人未到のW杯30連勝&6連覇 侍ジャパン女子代表を重圧から開放した橘田監督の言葉

2018.9.10

8月22日からアメリカ・フロリダで行われた「第8回WBSC 女子野球ワールドカップ」で、侍ジャパン女子代表が前人未到のワールドカップ30連勝と6連覇を達成した。

写真提供=Getty Images

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侍ジャパン初の女性監督で頂点へ、橘田監督は「一人一人が役割を果たしました」

 8月22日からアメリカ・フロリダで行われた「第8回WBSC 女子野球ワールドカップ」で、侍ジャパン女子代表が前人未到のワールドカップ30連勝と6連覇を達成した。

 決勝でチャイニーズ・タイペイに6-0と完勝し、侍ジャパン初の女性監督として3度宙に舞った橘田恵監督は「ようやく一つになった、日本らしい試合ができました」と誇らしげに20人の選手たちを見つめた。「小粒揃いでしたが、一人一人が役割を果たしました。盗塁や進塁打、日本が決勝でやった野球がスタンダードになる日が来るんじゃないかなと感じました」と決勝で完成形を示した橘田流スモールベースボールに胸を張った。

 新生・橘田ジャパンの船出は、決して盤石ではなかった。オープニングラウンド第1戦のドミニカ共和国戦と第2戦の香港戦では大差をつけて勝利したものの、第3戦のカナダ戦は2-1の辛勝。12四死球をもらいながら、あと1本が出ない。安打数は相手よりも6本少ない2本ともがき苦しむ試合となった。

 勝ち切ることができたのは、里綾実投手(愛知ディオーネ)の力投があったからだ。14年、16年と大会MVPを獲得している絶対エースは、雷雨による1時間25分の中断にも集中力を切らすことなく、慣れないマウンドで6回6安打1失点と踏ん張った。

 冷や汗ものの勝利とはいえ、世界ランク2位のカナダに勝って勢いに乗るかと思いきや、続くキューバ戦でも苦戦した。序盤、やはり打線に適時打が生まれない。0-0で迎えた5回表1死三塁で仕掛けたスクイズが外されて失敗すると、その裏に今季初めて先制点を奪われて窮地に追い詰められた。

原動力はチーム防御率0.36の投手力、エース里は3大会連続MVPの離れ業

 6連覇の重圧に押しつぶされそうだったチームにこの時、転機が訪れた。きっかけは、失点直後に橘田監督が発した言葉だった。「申し訳ありません。一番緊張しているのは私です」と自身の思いを率直にさらけ出すと、選手たちは「その通りですね」と笑った。硬かった雰囲気がほぐれると同時に、打線が活気を取り戻す。6回表に犠打を挟んで4連打で逆転に成功した。

 以降は、女王らしい落ち着いた試合運びを見せた。苦戦したのは2-1で逆転勝ちしたオープニングラウンド第5戦のチャイニーズ・タイペイ戦だけ。最大のライバルと想定していたアメリカとはスーパーラウンド第1戦で対戦し、先発の里が7回2死まで無安打無失点と完ぺきに抑え、3-0で快勝した。

 6連覇の原動力になったのは、何と言っても投手力だ。大会は10日間で9試合を行うハード日程。前大会より2人多い8人の投手を擁して5試合で完封勝ちを収めた。多くの投手が粘土質の硬いマウンドに戸惑いながらもアジャスト。2点以上取られた試合はなく、計59イニングで失点はわずか4点だった。自責点は3点でチーム防御率は0.36と圧倒的な力を誇った。

 中でもエースの里は4試合に登板して3勝を挙げ、有言実行の3大会連続MVP獲得という離れ業をやってのけた。最速126キロの直球とスライダーに加え、前回大会後に習得したカーブを織り交ぜて、他国の強打者を翻弄した。

 29歳の里に続く投手の育成が課題でもあった今大会で、存在感を見せたのは22歳の田中露朝投手(尚美学園大学)だ。2-1で辛勝したカナダ戦、決勝のチャイニーズ・タイペイ戦でともに先発した里の後を受けてリリーフしてセーブを挙げた。右横手から威力抜群の直球と切れ味鋭いスライダーで4試合4回2/3を投げて3安打無失点、5三振を奪った。

新風を吹き込んだ木戸ヘッドコーチ、ベテランの力に次回大会への明るい材料も

 女子代表に初めて加わったプロの力も、強力な投手陣を支えた。阪神から派遣された木戸克彦ヘッドコーチは、対戦チームの分析も担当。相手打者の得意コースと苦手コースを9分割のチャートで示して、配球のポイントを指示した。打者にも相手投手攻略法や相手投手の癖の盗み方などを伝授し、新風を吹き込んだ。

 攻撃面では、ベテランの力が光った。4大会連続出場となった3番の三浦伊織外野手(京都フローラ)が通算12打点で打点王に輝き、4番の川端友紀内野手(埼玉アストライア)はチームトップの打率.476と気を吐いた。チャイニーズ・タイペイとの決勝も川端が先制打を含む適時打2本、三浦も適時打と犠飛で2打点。20人中12人が初出場、平均年齢21.35歳と前大会より2歳若返った若いチームを引っ張った。三浦は日本から唯一ベストナイン(外野手)に選出された。

 中堅選手も存在感を発揮した。3度目出場の出口彩香主将(ハナマウイ)は守備の要として遊撃を守り、打撃でも打率.421と結果を残した。2大会連続出場の船越千紘捕手(平成国際大学)は強肩でピンチを救う一方、5番打者として好機で勝負強さを見せた。今大会初めて代表入りしたプロ選手の中田友実外野手(愛知ディオーネ)も主に1番打者として今大会最多の14得点をマークするなど、選球眼と高い打撃技術でチャンスメーカーとして活躍した。

 若手選手もそれぞれの持ち場で輝いた。三塁を守った19歳の阿部希内野手(ハナマウイ)は最優秀守備選手を獲得。高校生の吉井温愛内野手(履正社高校)が9打数5安打、田端凜々花捕手(折尾愛真高校)が6打数3安打と少ない出番ながら好結果を残したことは、次回大会への明るい材料だ。

 大会全体を見渡せば、首位打者は打率.571をマークしたプエルトリコ選手が獲得。打率5割以上の打者は3人おり、全体で6本塁打が飛び出した。年々、他国のレベルが上がっているのは投手も同じ。「クイックが速いし、牽制とマークがきつく、予想以上に走れなかった」と橘田監督は振り返る。

 打倒日本に燃える他国の包囲網を投手力とつなぎの野球でかいくぐった選手たち。スーパーラウンド第3戦のベネズエラ戦での2時間37分の中断などアクシデントも物ともせず、たくましく頂点に駆け上がった。

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