「見たことがない球が来る」 404発スラッガー中村紀洋氏が語る世界との闘い

2018.2.5

野球日本代表「侍ジャパン」のトップチームは、昨年7月に稲葉篤紀氏を新監督に迎え、再スタートを切った。稲葉新監督に求められるのは世界一奪還だ。昨年11月の「ENEOS アジア プロ野球チャンピオンシップ2017」では3連勝で優勝。今年3月には「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2018」オーストラリア戦も予定されており、1月下旬にはメンバーの一部が発表された。新生・侍ジャパンが世界の頂点に返り咲くためには何が必要なのか。2000年のシドニーオリンピック、2004年のアテネオリンピックで日の丸を背負ったNPB通算404本塁打のスラッガー中村紀洋氏に語ってもらった。

写真提供=Getty Images

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球史に残るスラッガー中村紀洋氏が語る国際大会の戦い

 野球日本代表「侍ジャパン」のトップチームは、昨年7月に稲葉篤紀氏を新監督に迎え、再スタートを切った。昨年3月の「第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」では2大会連続となるベスト4進出を果たしたものの、準決勝でアメリカに惜敗。あと一歩のところで決勝進出を逃した。稲葉新監督に求められるのは世界一奪還だ。

 昨年11月の「ENEOS アジア プロ野球チャンピオンシップ2017(アジアCS)」では3連勝で優勝。今年3月には「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2018」オーストラリア戦(3日・ナゴヤドーム、4日・京セラドーム大阪)も予定されており、1月下旬にはメンバーの一部が発表された。新生・侍ジャパンが世界の頂点に返り咲くためには何が必要なのか。2000年のシドニーオリンピック、2004年のアテネオリンピックで日の丸を背負ったNPB通算404本塁打のスラッガー中村紀洋氏に語ってもらった。

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――世界の強豪を打ち破っていくためには国際大会でしっかりと力を発揮することが必要です。日本の選手たちが一番戸惑う部分はどのあたりですか。

「シンプルに言うとボールとストライクゾーンが違いますね。トップレベルになってくると日本球界で対戦する投手よりも球速が速い。そこにボールが揺れるし、沈むんです」

――言葉にすればシンプルですけど、大変な違いですね。

「まあ、今まで見たことがないボールが来ますね。トップレベルではね。でも、これは、見たこともないボールを見ることができるチャンスでもあると思います」

いかに世界の強豪を攻略するか、中村氏が考える日本の「戦法」

――それをオリンピックやWBCなどの短期間で打つのは至難の業になると思うのですが……。

「だから、打てないボールを無理に攻略しにいかなければいいんです。つまり、打てるボールを打とうという感じでいいと思う。このボールなら打てるというものを、短い期間に見つけるんです。ストライクゾーンが広いし、全部のボールを追い掛けるわけにもいかない。このボールが来れば絶対に仕留められるという自信と根拠があれば、みんなでそれを攻略する。日の丸を背負って野球をして、勝利を目指すという思いのもとにね」

――簡単なように見えても、選手本人が受ける重圧は相当なものになると思います。

「同じ日の丸を背負うといってもオリンピックとWBCでは全然違うと思います。僕はWBCには出たことがないですが、オリンピック日本代表という重み、国を背負って戦うという気持ち、思いは別格ですね」

――国際大会で戦う上で日本の長所となり得るのはどういうところだと思いますか。

「日本の打者は手先が器用でバットに当てるのがうまい。その点に関しては世界のトップクラスと比べても劣らない。また、メジャーリーグクラスの打者となれば明らかにパワーが違いますが、日本の投手に関しては制球力が優れています。国際舞台に出てくる他国の投手は明らかにスピードが速いことなどを考えると、(投手は)制球力を利用して甘い球を投げない、(打者は)当てる技術を使った戦法で得点を狙うという戦法になるでしょうね」

――そうなると国際大会で勝つためには日本の長所を活かしたスモールベースボールということになっていきますね。

「まあ、そういうことになってしまうけど、どっちが野球として面白いかという話とは別ですけどね。勝つ野球と見ていて楽しい野球と、どちらがこれからの野球界を発展させるか。子供たちに『あんな野球がしたいんだ』と思わせる野球とは何か。打者なら遠くへ飛ばす。投手なら150キロを超える豪速球だけで抑え込む。まあ、これは僕の考えですけどね(笑)」

内川は「当てる技術、飛ばす能力」、柳田は「見ていて楽しい」

――中村紀洋氏が考える日本の強打者は誰ですか。

「強打者という表現になるとどうなんだろう。難しいところですが、“ザ・日本人打者”という観点で見れば、内川(聖一=福岡ソフトバンク)くんは面白い存在ですね。タイミングの取り方であったり、選球眼であったり、あくまでシンプルにパワーではない打撃を実践しているのは彼ですかね。“ザ・日本人打者”、当てる技術と飛ばす能力を兼ね揃えていますね」

――では、これから日本野球界の中心となるような有望株はどの選手でしょう。

「有望というか、見ていて楽しいなと思うのは(福岡)ソフトバンクの柳田(悠岐)くんですね。あれだけバットを振れば必ず、体に(負担が)来ますからね。それをこれからどう(スイングスタイルを)アレンジしていくか。(生涯フルスイングの)経験者からの目で見てますよ。僕はフルスイングが出来ないようになったら辞めようと思っていたから。そういう線引きって必要やと思うんですよ。まあ、彼自身がどう思っているかは分からないけどね。長打力に打率、脚力を兼ね揃えてトリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)を目指すという大変な位置にいるだけに」

――最後に日の丸を背負う重圧、喜び、誇りを教えてください。

「日の丸を背負うことを目指してやってきたわけではないですが、実際にそうなった時、かなりの重圧の中でやれる空気感が楽しかったです。絶対に打たないといけない、絶対にエラーしたらいけない、そんな場面の連続です。最悪、日本に帰られないこともあると思ってましたよ。それくらい自分を追い詰めて野球をしていた。

 レギュラーシーズンなら今日ダメでも明日、頑張ればいい。でも、日本代表は違います。日の丸の重圧を感じつつ、今やるしかない状況でいかに自分を奮い立たせるか。僕は本当にドキドキしたけど、それでもワクワクの方が大きかった。国際大会に関して言うなら、出られるなら何回でも出たい。あの緊張の中で国際試合をすることはたまらないですよ。そういった場面でプレーするためにも日頃の練習やプレーを疎かにしてはいけないということなんです」

◇中村紀洋(なかむら・のりひろ)
1973年7月24日生まれ、44歳。大阪・渋谷高から1991年のドラフト4位で近鉄バファローズ(大阪近鉄バファローズ)に入団。入団1年目に1軍デビューを果たし、高卒新人ながら2本塁打を記録。2000年には39本塁打、110打点で2冠を達成。2001年には2年連続の打点王に輝いた。2005年にはメジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースへ移籍。翌2006年にオリックス・バファローズに入団すると中日ドラゴンズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、横浜ベイスターズ(横浜DeNAベイスターズ)と渡り歩いた。ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞7回、日本シリーズMVPなどタイトル多数。NPB通算2267試合出場、7890打数2101安打、打率.266、404本塁打、1348打点。

【了】

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