5戦全勝、全試合無失点でアジア選手権2連覇 侍ジャパンU-15代表監督が語る勝因
今年8月19日から25日にかけて中国・広東省で「第10回 BFA U15アジア選手権」が開催され、侍ジャパンU-15代表が2大会連続3度目の優勝を飾った。日本としては初めての連覇で、海外開催では初の優勝という快挙だった。18人の侍ジャパンU-15日本代表をまとめ上げたのは、宮崎県三股町立三股中学校の教員で、同校の野球部を率いる松下幸政監督。46歳の指揮官は、多感な時期の生徒に一定の「規律」をもうけ、お互いを「リスペクト」する気持ちを持たせることで、短期間で戦う集団をつくりあげた。
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松下監督が振り返る優勝への軌跡…最初は「しつけ」から、スマホは限定的にOK
今年8月19日から25日にかけて中国・広東省で「第10回 BFA U15アジア選手権」が開催され、侍ジャパンU-15代表が2大会連続3度目の優勝を飾った。日本としては初めての連覇で、海外開催では初の優勝という快挙だった。18人の侍ジャパンU-15日本代表をまとめ上げたのは、宮崎県三股町立三股中学校の教員で、同校の野球部を率いる松下幸政監督。46歳の指揮官は、多感な時期の生徒に一定の「規律」をもうけ、お互いを「リスペクト」する気持ちを持たせることで、短期間で戦う集団をつくりあげた。
「どんなにすごい選手であっても中学生ですから。プレーの前に人間としての基本的なことを身につけてけてもらいたかった。1次合宿は『しつけの合宿』だったといってもいいかもしれません。初日が肝心だと思ったので、選手をよく観察していました」
8月1日から4日まで千葉・市原市で行われた1次合宿。集合初日、宿泊ホテルでのビュッフェスタイルの夕食後に気付いたことがあったという。選手の大半が食器をそのままの状態にして部屋へと向かったことが気になった。「食器は『戻さなくてもいい』と言われていたのですが、まとめて重ねて片付けやすくすることはできる。所属チームなどでは普通にやっていることでしょうが、自分で率先してやることに『恥ずかしさ』もあったのでしょう。その後のミーティングですぐに指摘しました」。みんなに喜んでもらえる代表チームであってほしい。チームをサポートする多くの人に愛されるチームにしたい。そんな思いから最低限のことは自分たちでするように説いた。
もう一つは「スマホ」の取り扱いだった。中学生が持つのも普通になった時代。だから取り上げることはしなかった。しかし、制限はかけた。「部屋ではOKにしました。ただ持ち出しは厳禁。今の子は持っていないと不安に感じるようなので」。合宿では2人で1部屋。お互いが“抑止力”にもなり、長時間スマホに興じる選手はいなかった。合宿初日はホテルの廊下や食堂でスマホをいじる選手もいたが、2日目からはそんなこともなくなったという。「自己管理の気持ちや、責任感が生まれたと思います。合宿最初の朝は、寝坊して散歩に遅刻する子もいましたが、次の日からはいなくなった。戦うための準備は1次合宿でできたと思います」。
控え選手のモチベーション維持に注力、「お互いにリスペクトを」
8月14日から千葉・成田市などで行った2次合宿では選手の見極めに入った。ここで松下監督が最も気を配ったのは選手のモチベーションを落とさないことだった。全国から集った18人の精鋭。誰もが所属チームでは絶対的な存在だ。とはいえ、試合に出場できる選手は限られる。指揮官は中国出発前のミーティングで、選手にこう伝えた。「大会でどういう形でチームに貢献できるか、見えてきたはず。そこで全力を尽くしてほしい。そしてお互いをリスペクトしてほしい」。
「松下イズム」が浸透したチームは、中国で快進撃を見せる。オープニングラウンドは3戦3勝。難敵のチャイニーズ・タイペイを1-0で撃破した。押し出し四球で得た1点を守り切っての勝利だった。スーパーラウンドは2戦2勝。宿敵の韓国戦では、6回裏に相手暴投で虎の子の1点を手にして1-0で競り勝った。5試合全て無失点、無失策という完璧な試合運びでアジアの頂点に立った。「当初から掲げていた得点を与えない野球ができました。投手を含めた守りが本当にしっかりしていた」と振り返る。
この大会は、硬式球に近い性質ながら表面がゴム素材の「KENKO WORLD BALL」(通称Kボール)を使用。日本代表は中学の野球部やクラブチームで軟式野球をしている選手約18万人から選ばれている。普段の軟式球より飛ばないボールで、バットも低反発。しかもチャイニーズ・タイペイ、韓国には、日本でいえば早生まれの高校1年生にあたる選手も。日本は体格的にも劣っていた。「チャイニーズ・タイペイには145キロを投げる投手がいました。両チームの投手はみんな140キロ前後。長打は難しい。とにかく泥臭い野球に徹しました」と振り返る。
合言葉は「逆らわずして勝つ」、何事も受け入れて戦う
選手には合言葉を授けた。「逆らわずして勝つ」。NHK大河ドラマ「いだてん」で出てきたセリフが、胸に響いたと。「目の前のことに一喜一憂せず、あらゆることを受け入れて流れに逆らわずに戦って勝とうということです」。審判によって変わるストライクゾーン、異国での大会、接近しつつあった台風……。抗うことなく、あらゆることを受け入れて戦おうと説いた。
「ストライク、ボールに不平不満を言っても仕方ない。自分が損をするだけですから。ピンチや苦しい場面でも『心配するな、流れに逆らうな。逆らわずして勝つじゃ』と選手に言い聞かせました。だからなのか、選手は生活でも不平不満を言うことがなかった。大会運営は素晴らしく、食事を含めて生活面も快適だったのもありますが、そういう気持ちでいてくれたのだと思います」
大会中、指揮官が満足感を覚えたのは食事のときだったという。レギュラー選手と、控え選手が分け隔てなく席について、笑顔で話している光景に、この上ない喜びを覚えた。「2つのグループ(レギュラー組と控え組)に分かれがちなんですけどね、このチームはそうではなかった。試合に出ていない子がレギュラーの子にアドバイスを送っていた。お互いがリスぺクトしているからでしょうね。チームになっていると実感しました」
中学生の野球人口が急激に減少する中、2大会連続でアジアの頂点に。今後、中学の軟式野球はどんな方向に向かっていくのか。「時代の流れというのはあると思いますが、『しつけ』ができる部活は、保護者も安心して預けてくれるのではないでしょうか」。野球の前に人間教育。松下監督の指導方針が、大いに参考になるかもしれない。
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