アジアを制した侍ジャパンU-15代表監督が語る「世界の野球」と「野球の基本」

2018.7.23

今年8月10日から19日にかけてパナマを舞台に「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」が開催される。今回は硬式球を使った大会になるが、侍ジャパンU-15代表は、昨年11月には軟式野球の「第9回 BFA U15アジア選手権」に出場し、4大会ぶり2度目の優勝を飾っている。多感な時期の選手たちをまとめ上げたのは、2大会連続で監督を務めた伊藤将啓氏だ。習志野市立第一中学校で体育の教員を務めている伊藤氏が、何よりも重視したのがコミュニケーションだという。

写真提供=Full-Count

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昨年11月に「BFA U15アジア選手権」で4大会ぶりに優勝

 今年8月10日から19日にかけてパナマを舞台に「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」が開催される。全国からのセレクションを経て選ばれた20名の侍ジャパンU-15代表が、清水隆行監督の下、世界の頂点を目指して戦う。今回は硬式球を使った大会になるが、侍ジャパンU-15代表は、昨年11月には軟式野球の「第9回 BFA U15アジア選手権」に出場し、4大会ぶり2度目の優勝を飾っている。ボールの違いはあれど、世界と戦う条件は一緒。多感な時期の選手たちをまとめ上げたのは、2大会連続で監督を務めた伊藤将啓氏だ。

 習志野市立第一中学校で体育の教員を務めている伊藤氏が、何よりも重視したのがコミュニケーションだという。

「とにかくミーティングはかなりやりました。こちらのやりたい野球と、実際に選手たちがやってきた野球、アジア各国の野球はまったく違う。そのあたりを会話を持ちながら伝えると同時に、選手たちにはコミュニケーションを大事にしよう、とにかく会話を持とうという話をしました。

 なんだかんだ言っても15歳なので、基本は生徒指導(笑)。靴を並べなさいとか、挨拶をしなさいとか。『侍ジャパン』に選ばれたことで、要は少し勘違いをしてしまうんですね。僕たちも含め、だからこそ謙虚にいこう、ということを最初の強化合宿の時に確認しました」

 伊藤氏は2015年の同大会でも指揮を執ったが、当時は中学の軟式野球人口は約20万人と言われた。それが、2年後には約18万人に。2年間で2万人も減ったという。「だからこそ、自分たちが結果を残すことで軟式でも世界で勝負できるんだ、と、夢と希望を与えられるように頑張ろう」と呼びかけた。

「短期間でしたが、選手は大きく成長したと思います」

 日本を代表する「侍ジャパン」の目的はただ1つ。出場した大会で優勝することだ。だが、全国からセレクションを経て集まった選手は、いわゆる強豪校から部員が9人集まらない学校まで、さまざまなバックグラウンドを持っていた。

「勝ったことがない選手たちは、どうすれば勝てるのか、これをすると次はどうなるのか、という考え方をしたことがない。ゴールからの逆算が難しい子はいましたね。でも、大会を通じて、少しずつ身についたように思います。

 短期間でしたが、大会の前後で選手は大きく成長したと思います。基本は、お山の大将の集まりだったので、初めて試合に出られない悔しさを味わった子もいる。また、代表として戦う責任や、応援してもらえることのありがたさも学べたと思います。応援してくれる人のために、チームを支えてくれる人のために、自分は何ができるか、いろいろな部分で成長できたと思います」

 日本では、幼い頃から野球の試合では最初から最後まで手を抜かず、全力で戦うことを教えられる。だが、実力差のある世界が舞台となると、相手チームを思いやった戦い方が求められる場合がある。国によって、それぞれの野球があることを選手に知らせることも必要だった。

「点差がついたら盗塁してはいけないですし、カウントでボールが先行していればウエイティングを出してはいけない。送りバントはほぼやることはないですから、世界が舞台となった時のルール説明から入りました。加えて、その国によって野球の質が少し違う。例えば韓国の場合、ホームベースはボール7個分なんですが、彼らは7.5から8個分をストライクゾーンとしてバットを振ってくる。あるいは、台湾はパワーヒッターが多かったので長打をケアしなければいけない。

 また、審判によってストライクゾーンが変わるという体験も初めてだった選手が多い。なので、ストライクゾーンの定義は一緒だけど、国によって少しずつ野球は変わるから、審判の出身国によっては変わってくるという話もしましたね。選手たちは臨機応変に対応してくれたと思います」

武田勝氏が教えてくれた基本「野球は楽しむもの」

 投手コーチとして参加した元北海道日本ハムの武田勝氏の存在も大きかったと振り返る。

「武田さんがムードメーカーになって下さいました。とても元プロ野球選手とは思えないくらい庶民的で、シートノックでわざと空振りして選手たちを笑わせたり、その一方で、集合時間の30分前には準備を済ませて集合場所に姿を見せてお手本になってくれたり。武田さんは、とにかく子供たちに『野球を嫌いになっちゃいけない、野球を好きでいるように』ということを、ずっとおっしゃっていました。

 やっぱり野球は楽しむもの。子供の中に笑顔がなければダメだと思います。それだけで勝つということは難しいかもしれないけれど、基本はそこなのではないかと思います」

 子供たちの笑顔を大切にしながら掴んだアジアの頂点。今年は、ボールが軟式から硬式に変わり、舞台はアジアから世界に変わるが、選手たちが野球を楽しみ続ければ、その先には明るい結果が待っていると言えそうだ。

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