都市対抗野球大会でノーヒットノーランの快挙 日通同期バッテリーが秘める日の丸への思い
今年10月に台湾で開催される「第28回 BFA アジア選手権」。侍ジャパン社会人代表メンバーには、7月に行われた第88回都市対抗野球大会でノーヒットノーランを達成した日本通運野球部バッテリー、阿部良亮投手と木南了捕手も選ばれた。力投で会場を沸かせた阿部、好リードで快挙を導いた木南のバッテリーに当時の心境や日の丸への思いを聞いた。
侍ジャパン社会人代表に選出された日本通運野球部バッテリー【写真提供=Full-Count】
10月の決戦で王座奪還を目指す侍ジャパン社会人代表
今年10月に台湾で開催される「第28回 BFA アジア選手権」。韓国、チャイニーズ・タイペイ、中国、パキスタン、香港、フィリピン、スリランカなどの出場が予定される中、今大会で王座奪還を目指す侍ジャパン社会人代表も着々と準備を進めている。
6月の一次選考合宿では51選手が選ばれ、8月の第二次選考合宿には33選手が参加。そして8月28日には最終メンバー24選手が発表された。この侍ジャパン社会人代表メンバーには、7月に行われた第88回都市対抗野球大会でノーヒットノーランを達成した日本通運野球部バッテリー、阿部良亮投手と木南了捕手も選ばれた。今年の都市対抗野球大会で準優勝に輝いた日本通運野球部は、2回戦の対パナソニック戦でノーヒットノーランを達成。完全試合を含み史上5人目となる快挙だった。力投で会場を沸かせた阿部、好リードで快挙を導いた木南のバッテリーに当時の心境や日の丸への思いを聞いた。
――都市対抗野球大会決勝では惜しくもNTT東日本に敗れ、準優勝に終わりました。大会を振り返ってみての感想は?
阿部「準優勝という結果に終わったことは悔しいです。先発もさせていただいて、ノーヒットノーランも出来て、嬉しい気持ちもありますけど、悔しい気持ちの方が多いですね。満足はしていません」
木南「決勝まで行けたことは良かったですが、やはり悔しいです。最後の1試合が今でも色濃く残っています。目の前で胴上げをされたのが、昨年の日本選手権に続いて2度目でした。序盤はシーソーゲームだったので、『守備で食い止めていれば』という思いが強いです」
――それでも2回戦ではノーヒットノーランの快挙もありました。パナソニック戦の試合前や試合中に特別なやりとりはあったのですか?
阿部「試合前は木南といつもと変わらず打ち合わせをしただけです。5回に2四死球で1死一、二塁のピンチがあったんですけど、藪(宏明)監督がマウンドに来て『試合の中ではピンチは必ず来る。抑えなきゃいけない時が来る。それがここだから、ここでギア上げて絶対抑えてこい』と言われました。ただ、その時もノーヒットノーランの話はしなかったですね」
木南「試合の1~2日前に阿部が先発だという話を聞きました。対戦相手のビデオを見て、そのイメージと阿部の投球イメージを照らし合わせて、前日に話し合って試合に挑みました。それはいつもと変わらないですね。試合中にノーヒットノーランについて話はしなかったです。試合自体が2-0だったので、いつも通り、先頭打者に集中して、ヒットが出ても勝てばいいと思っていました」
都市対抗野球大会で得た成長や課題は?
試合中はベンチでもチームメートから無安打無得点の継続に触れられることはなかったという。そのように平常心を保てたことも奏功したのだろう。5回のピンチを切り抜けた阿部は9回最後のバッターを三振に仕留めてノーヒットノーランを達成した。
――両選手とも入社3年目となりますが、日本通運野球部の良さはどんなところですか?
阿部「若いチームなので、自分たちの下にも選手はいますが、先輩たちが若い選手にやりやすい環境を作ってくれて、思い切ってプレーできるのが良いところだと思います。先輩たちには厳しい声をいただくこともあります。ダメな時はダメと言われますが、やりにくい環境ではありません」
木南「接戦に強いところだと思います。最後の最後まで粘り強く、投手がしっかりしているので、崩れない。どういう相手が来ても、守りから徹底しています。ホームランバッターがいるわけでもないし、打てるバッターがいるわけでもないので、そういう試合ができなければ負けてしまいます。全員がチームのことを理解して、徹底しているのが強さだと思います」
――今回の都市対抗野球大会を経て成長した点、課題となった点はありますか?
阿部「1試合を通して自分の投球スタイルができ、持ち味を出せたところだと思います。それまでは打たれてしまうことが多かったですが、1試合通して『低めに投げて、打たせて取る』という、自分の思うピッチングができたことが、成長できた点だと思いますね」
木南「一発勝負で勝ち上がれているところは自信になりましたが、あと一つ勝てないことが悔しいですね。決勝戦のビデオを見ていると、悔しさがこみ上げてきます。自分の配球に後悔するところがありますね。決勝では4発も(本塁打を)浴びています。リスクがある球と、ない球がありますが、『その球でいかなくてもいいかな』と今は思います。打たれている球は全部一緒です。気づいて対応する能力が足りなかった。もっと相手の反応を見て対応していればと思います。目の前で胴上げされたのが2回目です。今大会の経験を活かして、次は自分たちも優勝したいし、優勝へのこだわりも強いですね」
日の丸を背負うことになった阿部、「びっくりしている自分がいました」
その同期バッテリーは第28回BFAアジア選手権に出場する侍ジャパン社会人代表メンバーにも選ばれた。日本は2015年の前回大会で3位に終わり、連覇が5で途切れた。今回大会はそのリベンジがかかるだけでなく、今春に就任した石井章夫監督の2年という任期が示すように、来年8月にインドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ)で金メダルを獲得することが、このチームの最終目標だ。
――侍ジャパン社会人代表メンバーに選ばれた心境はいかがですか?
阿部「正直、選ばれてびっくりしている自分がいました。僕よりいいピッチャーがいっぱいいると思っていたので、選ばれたことは素直にうれしいです。代表に選ばれたことに恥じないピッチングができたらと思っています。二次選考合宿に行って、レベルの高いピッチャー、すごいピッチャーを肌で感じました。『もっと頑張らなきゃな』と思いました」
木南「代表では自分のパフォーマンスを見せたいと思います。代表チームを『自分がプレーするチーム』という目で見たことがないので、今でも実感がないですが、選ばれたことに喜びはあります。自分の立ち振る舞いや、かけている言葉などは見られる立場になったと思いますね。投手とも短期間でアジャストしていかなくてはいけない。必要とされる能力が増えるので、いい経験になります」
――自身にとって日の丸はどんな存在ですか?
阿部「日の丸を背負うことは、人生において多いことではないので、背負えるのは嬉しいです。子どもの時に日本代表に選ばれるなんて考えていませんでしたし、凄い人たちの集まりとしか思っていませんでした。他の国と試合をする機会も普通はないので、いろんなことを学んで自分のピッチングができればと思います。他の大会や競技で国を背負って戦っている人たちの姿を見ると、『すごいな。みんな必死だな』と思います。代表は、見ていて『かっこいいな』と思いますね」
木南「合宿などで他の選手の話を聞いて、日の丸は『背負うもの』という意識が強いです。やはり日の丸を背負って野球をしたいと思います。そういう環境の中で結果を出さなければいけない、パフォーマンスしなければいけないという難しい部分があると思いますし、自分の力を出せる強さが必要だと思います。代表の経験は自分にとっても、チームにとってもプラスになると思っています」
【了】
記事・写真提供=Full-Count