アジアで勝つために―育成のスペシャリストが侍ジャパンU-18代表の戦いに見た、課題と収穫
7月から9月上旬にかけて、侍ジャパンは多くのカテゴリーで国際大会に挑んだ。U-18代表は9月3日~10日の「第12回 BFA U18アジア選手権」で3位と連覇を逃した。各大会で、侍ジャパンの奮闘とともにアジア各国のレベルアップも目立つ結果となった。世界一を目指す日本にとって、アジアの野球レベルの底上げは望ましいこと。だが、当然、日本も同じように強くなり、勝ち抜いていかなければならない。現時点で、侍ジャパンの課題はどこにあるのだろうか。
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アジア各国は確実にレベルアップ、そこで日本が勝ち抜くために必要なことは…
7月から9月上旬にかけて、侍ジャパンは多くのカテゴリーで国際大会に挑んだ。大学代表は、7月13日~7月22日にオランダのハーレムで行われた「第29回 ハーレムベースボールウィーク」を制覇。女子代表は8月22日~31日に米国で開催された「第8回 WBSC 女子野球ワールドカップ」で、前人未到の6連覇という偉業を達成した。
一方で、U-15代表は8月10~19日の「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」(パナマ)で、3位決定戦でチャイニーズ・タイペイに敗れて4位に終わり、初優勝はならず。また、U-12代表は8月13日~19日の「第10回 BFA U-12アジア選手権」(台湾)、U-18代表は9月3日~10日の「第12回 BFA U18アジア選手権」でいずれも3位と連覇を逃した。各大会で、侍ジャパンの奮闘とともにアジア各国のレベルアップも目立つ結果となった。
世界一を目指す日本にとって、アジアの野球レベルの底上げは望ましいことでもある。日本が他国以上に強くなり、アジアを勝ち抜いていくことは、世界一を目指す上で避けられない戦いだ。現時点で、侍ジャパンの課題はどこにあるのか。名将・野村克也氏の“右腕“として東京ヤクルト、阪神、東北楽天でヘッドコーチや2軍監督を務め、育成のスペシャリストとして知られる松井優典氏は、韓国とチャイニーズ・タイペイに敗れたU-18代表の戦いぶりを振り返った上で、今後は対応力、情報分析などが重要になってくると指摘する。
まず、松井氏がU-18代表の“敗因”に真っ先に上げたのが、木製バットへの対応だ。高校野球で金属バットを使っていた選手は、木製バットに持ち換え、甲子園の約2週間後に開幕したこの大会に臨んだ。そして、プロに進む選手も、大学野球に進む選手も、社会人野球に進む選手も、今後は木製バットを使い続けることになる。強豪校の中には、練習で木製バットを使っているチームも少なくないが、それでもアジア選手権では課題が見えた。松井氏は言う。
「まず一番感じたのは、木製バットに対する対応です。対応するための時間が少なすぎました。これは、これからの課題になります。日本の高校野球が金属バットになった理由は十分にありますが、今は世界大会があって、その世界大会に合わせていくには非常に難しいスケジュールになっています。選手たちが対応するまでに時間がかかっていると今年はすごく感じました。日本の高校野球界がどう進んでいくべきなのか、というのを考えさせられる場面が多く見えました。
例えば、外野の頭を越える打球があったのは、大阪桐蔭の藤原恭大外野手の当たりくらいでした。普通に打ったつもりが、全て外野手に捕られているということで、感覚の違いを選手も感じたはずです。やはり、対応する時間がなかったかなと。それが大きな課題として見えました」
「情報分析」や「対応力」に課題、一方で選手の献身的な姿勢も光る
甲子園が終わってからの短期間で、選手がどのように対応していくのか。もしくは、日程や選手選考に工夫が必要になってくるのか。来年の「第29回 WBSC U-18ワールドカップ」(韓国・釜山)出場権は確保しただけに、世界で勝つために課題をクリアしていきたいところだ。
そして、松井氏が2つ目に挙げたのが「情報分析」。今年の侍ジャパンU-18代表には左打ちの好打者が多く揃っていたが、韓国戦もチャイニーズ・タイペイ戦も左腕をぶつけられ、苦戦した。ライバルが「日本対策」を取ってきた一方で、侍ジャパンの対応はどうだったのか。その点に疑問が残るという。
「情報分析は負けたかな、と感じました。やはり、今回の日本の打線を見れば、相手は左ピッチャーを使ってくる。日本の左打線を抑えにきていました。ただ、日本は左打者が多い中で左投手への対応が感じられなかった。甲子園では考えられないような空振り三振も見られました。どのあたりまで相手への対策、情報分析ができていたのかな、と感じました。例えば、台湾や韓国に情報分析班を送るとか、今後勝とうと思えばそのくらいまで必要になってくるかもしれません。そういう意味では、反省の残る3位だったと思います。
あとはバッターとしての対応力を上げる打ち方ということも必要になってきます。特に今年の甲子園では能力の高い選手が多かったので、純粋な能力で勝負していた選手が多かったように見えます。でも、レベルが上がってくると、力関係は絶対に拮抗するときがあります。そういうときにどうするのかを考えて、やっていかないといけません」
一方で、松井氏は副キャプテンを務めた日置航内野手(日大三高)の姿勢に、今回の侍ジャパンU-18代表の雰囲気の良さを感じたという。強豪・日大三高で主軸を務めた強打者だが、代表チームでは下位打線に入り、打撃の状態が上向かない中で献身的にチームを支えた。
「チャイニーズ・タイペイと韓国に負けてしまったので、試合の中から(チームの)いいところを探すのは難しかったのですが、日置選手の献身的な行動、言動というのはすごくよかったなと思いました。大人だな、と。今大会ではずっとヒットが出ていなかった中で、永田裕治監督の部屋を尋ねて、自分がずっと出ていていいのか、と言いに行ったという話を聞きました。打てない中でもずっと試合で使ってくれた、という認識が強かったのでしょう。自分が試合に出るということより、チームの中での立ち位置を考えていた。『自分が、自分が』では、そういう言動は出ないと思います。永田監督と選手の関係の良さ、そして、日置選手のチームに対する貢献というものを非常に感じました」
チームワーク、選手の献身的な姿勢というのは、日本の強みでもある。
鍵を握るのは日本の武器「スモールベースボール」
そして、他国のレベルアップが進む中で、これまでに侍ジャパンが見せてきた「スモールベースボール」も、U-12代表やU-15代表を含めて各カテゴリーで武器になるはずだと松井氏は言う。
「他国のレベルアップは感じますね。チャイニーズ・タイペイは昔、すごくリトルリーグが強かった。それを日本が追いかけて、逆転しつつあります。ただ、今度は再び日本がどのように追いかけていくか考えないといけない時代になってきたのかもしれません。韓国は強くなってきていると感じていましたが、チャイニーズ・タイペイの選手もかなりレベルが上がってきたと感じました。
今回の大会でも韓国にはそれほど打たれていません。初回の3点だけで敗れました(1-3で敗戦)。その原因は何かを考える必要があります。国際大会で1点にこだわる日本の野球をやるのは当然です。1点で勝たなければいけない。過去のWBCでもそうやって勝ってきました。そこに日本の活路を見出しながら、選手を育てていかないと、日本の特徴は薄れてきます。一言で言えば『スモールベースボール』。それが、この大会ではどうだったのか、ということです」
他国のレベルアップを歓迎しつつ、それに勝つ日本であり続ける――。そのために必要なものを韓国やチャイニーズ・タイペイといったライバルが示してくれているのかもしれない。
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次回:10月1日20時頃公開予定