強化試合で大活躍の筒香が一歩リード? どうなる、侍ジャパンの4番争い
日本の4番はこのまま筒香に任せるべきなのか。それとも、中田が巻き返すのか。もしくは、昨年11月の「世界野球WBSCプレミア12」で4番を任された中村剛也(埼玉西武)ら、この2人の争いに割って入ってくる選手はいるのか。
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専門家が分析する日本の4番争い、「この2試合なら筒香の完勝」
野球日本代表「侍ジャパン」は、5、6日に「日本通運presents 侍ジャパン強化試合」チャイニーズ・タイペイ戦に臨み、2連勝を飾った。第1戦は5-0、第2戦は9-3で快勝。第2戦で4番に起用された筒香嘉智(横浜DeNA)が2試合で2ランホームランを含む計6打数3安打4打点と存在感を見せた。一方、第1戦で4番を任された中田翔(北海道日本ハム)は、第2戦の4三振を含む7打数無安打2四球と結果を残せず。筒香とは対照的な結果となった。
日本の4番はこのまま筒香に任せるべきなのか。それとも、中田が巻き返すのか。もしくは、昨年11月の「世界野球WBSCプレミア12」で4番を任された中村剛也(埼玉西武)ら、この2人の争いに割って入ってくる選手はいるのか。
ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手として活躍した野球解説者の野口寿浩氏は「この2試合だけで勝負をつけろと言ったら、筒香の完勝でしょうね」と言う。
チャイニーズ・タイペイとの2試合で、中田と筒香にはどのような違いが見えたのか。筒香のプロ1年目に横浜でチームメートだった野口氏は「打席でのしぐさとか表情を見ていると、もう日本の4番を打たせても大丈夫だなという気はしましたね」と振り返る。風格すら漂い始めた24歳に頼もしさを感じたという。
「横浜スタジアムでやっている時と同じ顔になってきた。平常心でやれている感じですね」
筒香は昨季開幕前、巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏の打撃スタイルを理想に掲げ、本人からもキャンプ中に直接アドバイスを受けるなどして、シーズンで結果を残した。どんな大舞台でも平常心で打席に立つという意味では、打撃スタイルだけでなく、精神面でも松井氏に近づいてきているのかもしれない。
「そういう(松井氏のような)雰囲気が出てきましたよね。(世界野球WBSC)プレミア12の時は、初めて4番で打席に入って、チャンスで回ってきた時にちょっと表情が違うかなという時はあったんですけど、今回のチャイニーズ・タイペイ戦では、第2戦でホームランを打った場面で力も抜けていたし、平常心じゃないと出来ないような素晴らしいバッティングでした。第1戦の犠牲フライも、捕られてしまったけど、見事なバッティングでした」
筒香の打撃は「侍ジャパン用」に、周囲の重圧を取り除く中田の存在感
筒香は昨季終了後、侍ジャパンの一員として「世界野球WBSCプレミア12」に出場し、続けてドミニカ共和国のウィンターリーグにも“武者修行”に出た。ブレーク前の若手が派遣されることの多いウィンターリーグにチームの主砲が参加するのは、極めて異例だ。そして、この“武者修行”を終えてから、右足を大きく上げない打撃フォームを取り入れている。これも、世界と戦うためのスタイルチェンジだと野口氏は見ている。
「足を上げるのをやめているので、動く速い球に対応できる。ただ動く球ならそのままでいいんでしょうし、ただ速い球だけなら変える必要はないでしょうけど、速くて動く球に対応するために『無駄な動きを省いた』とキャンプ中に話していました。完全に日本代表での戦いを睨んだマイナーチェンジだと思います。
速く動かすピッチャーというのは、日本にはそこまでいない。ただ、ドミニカのウィンターリーグに来ているのは『荒削りだけど、真っ直ぐが速くてボールが動く。でも、コントロールに難があってメジャーに上がれない』というようなピッチャーが多い。そこで打ててしまえば、なんでも打てると思うんです。それを考えてのマイナーチェンジなので、本当に侍ジャパン用でしょうね」
一方、「世界野球WBSCプレミア12」で「恐怖の6番打者」として圧巻の活躍を見せた中田は、今回の強化試合では責任感の強さがマイナスに作用したと野口氏は見ている。
「まだ(シーズンへの準備が)出来ていないというのも含めて、この2試合は中田翔にとっては厳しいものだった」としつつ「責任感が強く、少し背負い込んでしまっていたような気がします」と振り返った。
中田は筒香よりも2歳年上で、「世界野球WBSCプレミア12」では2人が行動を共にする場面が多かった。5番筒香、6番中田と続く打線は相手にとって脅威となっていたが、それは兄貴分の中田に筒香が絶大な信頼を寄せていたからこそ。筒香は当時、結果を残せていた要因の1つに「後ろに中田さんがいるので、つないだら何とかしてくれる。変な力みなく打席に入れている」と挙げていた。
その責任感の強さが、周りの打者の重圧を取り除く効果を生み出している一面も間違いなくある。今回はそれが強くなりすぎてしまったのかもしれないが、野口氏は中田に対しても「(シーズンに向けて)まだ(準備が)出来る前の状態だと見えたので、出来上がってくれば、もっといい争いになるでしょう」と大きな期待を寄せる。
侍ジャパンで存在感見せる平田が4番に座る可能性は?
もちろん、他にも4番を務められる打者はいる。野口氏は「逆に、その2人だけで本当に争わせてしまっていいんだろうかという気もしますね」と指摘。昨季トリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)を達成しながら、負傷で「世界野球WBSCプレミア12」を辞退し、今回の強化試合でも招集されなかった柳田悠岐(福岡ソフトバンク)も候補の1人だという。「今回は招集されていない西武の中村も候補に入る。現に、(世界野球WBSC)プレミア12では彼が4番打ったわけですから。あとは柳田もいます。彼も4番の資質を間違いなく持っているので」。ハイレベルな争いとなれば、侍打線の底上げにもつながる。
では、『世界野球WBSCプレミア12』と今回の強化試合で活躍した平田良介(中日)はどうか。これまでは6~8番の下位打線で好結果を残してきた強打者も、チームでは主軸を任されている。台湾戦の第1戦は「6番・右翼」で2点タイムリー、第2戦では途中出場で右翼線への3点二塁打を放つなど、これまでの侍ジャパンでの勝負強さを見れば、4番に推す声が出てきてもおかしくない。野口氏はその打撃を絶賛しつつ、平田は6番に置くのが最適と分析する。
「平田は第2戦のライト線への走者一掃二塁打のような打撃ができる選手なんです。チャンスと見たら、人のいないところにコンと打てる。外のストライクかボールかというボールを、長打を捨てて『待ってました』と打てる。そういうことをチームのためにできる打者なので、クリーンアップがランナーを残してしまった後に“掃除”する係としては最高です。クリーンアップを1人増やした6番という感じですね。2人目の5番が平田というイメージ。相手は嫌だと思いますよ。
中日に戻れば、平田は『自分が決めなければいけない。自分が長打も打たなければいけない』と、バッティングが変わるところもある。でも、代表にいけば、前後に打つ選手がいるので『俺はこれでいいんだ』とやってくれるので、ジャパンにとっては最高の選手ですね。逆に、相手キャッチャーは嫌ですよ。代表の時のヒットはほとんどライトへのゴロですが、狙ってその通り打っている。また走れるし、守備も上手いですからね」
平田をあえて6番に置くとなれば、現状では、中田、筒香に中村剛、柳田を加えた4人が4番争いの中心となりそうだ。シーズン中の活躍も、日本の4番を決める上で大きな要素となることは間違いない。野口氏は言う。
「中田、筒香、柳田は、シーズンの調子が悪かったから選ばれないという選手ではないと思います。ケガなどがない限り、侍ジャパンには常に入ってくる選手でしょう。中村剛に関しては年齢とポジションの兼ね合いで『もしかしたら』というのがあるかもしれませんが、間違いなく日本を代表するバッターですからね。ただ、4番争いをしてる選手にはシーズンで結果を出してほしいというのは首脳陣の願望ではあるでしょうね」
現時点では筒香が一歩リードしている4番争いだが、今後の展開に大きな注目が集まる。
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