「とにかく選手たちに脚光を」 代表ヘッドコーチがかける女子野球への想い

2021.10.25

日本の女子野球が新時代を迎えている。昨年には「埼玉西武ライオンズ・レディース」、今年は「阪神タイガースWomen」が誕生。NPB球団公認の女子硬式野球チームが2球団となった。また、今年は「第25回全国高等学校女子硬式野球選手権大会」の決勝戦が史上初めて“聖地”・阪神甲子園球場で行われ、大きな反響を巻き起こした。

写真提供=Full-Count

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2017年から女子代表を支える木戸克彦氏「選手たちにもっと日の目を」

 日本の女子野球が新時代を迎えている。昨年には「埼玉西武ライオンズ・レディース」、今年は「阪神タイガースWomen」が誕生。NPB球団公認の女子硬式野球チームが2球団となった。また、今年は「第25回全国高等学校女子硬式野球選手権大会」の決勝戦が史上初めて“聖地”・阪神甲子園球場で行われ、大きな反響を巻き起こした。

 変革のうねりを起こしている女子野球を、野球日本代表「侍ジャパン」女子代表のヘッドコーチとして支えるのが、元阪神の木戸克彦氏だ。2017年から女子代表チームに携わる木戸氏に、女子野球の現状とさらなる振興への課題を語ってもらった。

 世界の女子野球界で日本はトップクラスを誇る。2年に1度開催されてきた「女子野球ワールドカップ」では、2008年の第3回大会から6連覇中。木戸ヘッドコーチは「油断しなければ、これからもずっと1位でいられる可能性が高いと思います。他国とは力の入れ方が違いますから。だからこそ、選手たちにはもっと日の目を見させてあげたい」と言葉に力を込める。

 2017年10月、当時の橘田恵監督の下、女子代表ヘッドコーチに就任すると、翌年の第8回大会(米国開催)で日本を優勝に導いた。2020年に中島梨紗監督に交代した後も、引き続き重職を任されている。昨年メキシコ・ティファナで開催される予定だった第9回大会はコロナ禍で調整できず、中止が発表された。2022年にはアジアカップが予定されている。

女子高校野球決勝を甲子園で開催、NPB2球団も女子硬式チームを創設

 子どもの野球離れが叫ばれる一方、女子硬式野球部のある高校は現在、全国で40校を超える。今年8月23日には歴史が動いた。全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝を史上初めて甲子園で開催。神戸弘陵学園高と高知中央高が聖地で躍動した。「夏の甲子園が実現したことで、高校の加盟校は今後も増えていくでしょう。沸き立っている今のうちにどれだけ盛り上げていけるか。ここ数年が勝負だと思います」と意気込む。

 ただし、大学に目を向けると状況は一変。女子硬式野球部があるのは8校と激減する。「大学進学の段階で、(女子硬式野球)競技人口がドーンと減ってしまうことが課題です。大学に通いながらクラブチームでプレーしている選手もいますが、近隣にチームがあるとは限らないし、負担が大きいですから」。大学に通いながら野球を続けたい選手の受け皿を整備することが、直近の課題でもある。

 そんな中、埼玉西武と阪神というNPB球団が女子硬式チームを創設し、1軍と同じユニホームと帽子を着用する意義は大きい。木戸ヘッドコーチも古巣に請われ、阪神タイガースWomenのアドバイザーに就任した。そこで見える女子野球の実情もある。選手の一部は阪神が運営する幼児・小中学生を対象とするベースボールスクールにコーチとして雇用されるが、大半は野球以外の仕事をかけもち、生計を立てている。

「僕としては、仕事の合間にしんどい思いをしながら練習している選手たちに、技術という実をつけてあげたいし、人気という花も咲かせてあげたいと考えています」

 野球が好きでたまらない選手たちの気持ちに、木戸ヘッドコーチの心は動かされる。

 他のNPB球団にも女子硬式チームを新設する動きがあるようで、「近い将来、関西と関東に3球団ずつくらいできて、リーグ戦や東西対抗を行えるようになるといい」と青写真を描く。

近い将来には球速130キロ超投手の誕生に期待、レベルアップのカギは「走力」

 女子野球のレベルは年々高くなっている。「目を見張るようなプレーをする選手は多いですし、みんな野球をよく勉強している。投手の球速は、速くても(時速)125、6キロくらいですが、これからは130キロを出す選手も出てくるでしょう」と木戸ヘッドコーチ。まだまだ成長と進化の余地は残されているが、大きなカギを握るのが「走力」だという。

「男性に比べて落ちるのは、走力と捕手の二塁送球時のスローイング。例えば今、陸上部にいるような足の速い子が女子野球をやるようになったら、レベルがボーンと上がると思います。走力が上がれば、走者を刺すため、投手のクイックモーション、フィールディング、内野の守備力、外野の肩(の強さ)などが全て向上し、野球がスピーディーになっていきます。根本は走力です」

 そして何よりも、競技力を上げるためには競技人口を増やすことが大切だ。さらに競技の裾野を広げ、レベルアップを図るためにも、頂点に立つ侍ジャパン女子代表の存在をアピールする場が重要になる。過去にはワールドカップが2度、松山市(2008年)と宮崎市(2014年)で開催された。木戸ヘッドコーチは「お金のかかることではありますが、もう1度国内で世界大会を開催してほしい」と熱望。さらに「プロ野球の試合の前座でいいので、強化試合をやらせてほしい。とにかく選手たちに脚光を浴びさせてあげたい」と親心を見せる。

 かつてPL学園高、法政大学、阪神で名捕手として鳴らした木戸ヘッドコーチ。活況を呈し始めた女子野球を見つめる目は、限りない優しさに溢れている。


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