侍ジャパンを世界一に導いた驚異の脚力 周東佑京が考える“スペシャリスト”の可能性

2020.8.24

日本中を熱狂、歓喜させた昨年の「第2回 WBSC プレミア12」。稲葉篤紀監督率いる野球日本代表「侍ジャパン」は、決勝で顔を合わせた宿敵の韓国ら並居る強豪を打ち破り、見事に初の頂点に立った。

写真提供=Full-Count

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昨秋の「プレミア12」で代走要員としてセンセーショナルな活躍

 日本中を熱狂、歓喜させた昨年の「第2回 WBSC プレミア12」。稲葉篤紀監督率いる野球日本代表「侍ジャパン」は、決勝で顔を合わせた宿敵の韓国ら並居る強豪を打ち破り、見事に初の頂点に立った。

 この「プレミア12」で“走塁のスペシャリスト”としてセンセーショナルな活躍を見せたのが、福岡ソフトバンクの周東佑京内野手だった。育成から支配下に昇格した昨季、福岡ソフトバンクで代走を中心に起用され、そのスピードを武器にここ一番の局面を打開する切り札になった。チーム内でもレギュラーではない周東選手が、「プレミア12」を戦う侍ジャパンのメンバーに名を連ねた時には大きな驚きを呼んだ。

 驚いたのは、当の周東選手本人も同じだった。「え、いいのかな、みたいには思いましたね。もっといい選手がいるのにな、と率直に思いました」。支配下になって初めて1軍のシーズンを戦い抜いたばかり。ただ、そのスピードに、稲葉監督ら侍ジャパン首脳陣は大いなる可能性を感じ取っていた。

 福岡ソフトバンクと同じ、ここ一番での代走起用。侍ジャパンで周東選手が託された役割は明確だった。

「去年1年間、代走で出て、守備固めで出て、(侍ジャパンでも)シーズンと同じような起用方法でいくと思っていました。稲葉さんからも『代走、ここ一番で頼むな』と言われていたので、やることは明確でした」

 この“代走・周東”が、本大会で大きな働きを果たしたことは記憶に新しい。

 台湾で行われたオープニングラウンド初戦のベネズエラ戦で、代走として初めて国際大会に出場すると、続く2戦目のプエルトリコ戦では初盗塁を決めた。そして、日本中を驚かせ、一躍その名を轟かせたのがスーパーラウンド初戦、ZOZOマリンスタジアムで行われたオーストラリア戦だった。

侍ジャパンを救ったオーストラリア戦での二盗&三盗の舞台裏

 この試合、日本は劣勢に立たされていた。先発の山口俊投手(現トロント・ブルージェイズ)が2点を奪われ、打線は6回まで鈴木誠也外野手(広島東洋)のソロ本塁打による1点のみ。1点ビハインドで迎えた7回、オリックスの吉田正尚外野手が中前打で出塁すると、稲葉監督は「ここが勝負所」と周東選手を代走に起用した。

 続く浅村栄斗内野手(東北楽天)の打席。盗塁を期待されたスピードスターだったが、4球目まではスタートを切れなかった。「スタートを切れたら走ろうとは思ってましたが、タイミングがとりづらくて、なかなかいけませんでした」。慎重に状況を見極め、スタートを切れたのは5球目になってからだった。

 二盗に成功したものの、浅村選手、松田宣浩内野手(福岡ソフトバンク)が凡退して2死となった。ここで周東選手は日本中を驚愕させる。源田壮亮内野手(埼玉西武)への3球目で三塁盗塁を試みて、見事に成功させたのだ。そして、源田選手の意表を突くセーフティバントで同点ホームを踏み、8回での勝ち越しに繋がった。

「(源田選手への)初球を見て、このピッチャーは足を上げる投手なんだと思って『足を上げてからでもいける』と感じました。守備陣の警戒が薄れているのも感じました。(走者は気にせず)もう打者を打ち取りにいっているなと思いました」

 一見、ギャンブルにも思える三塁への盗塁だったが、セーフになる確信を持ってスタートを切っていた。

 侍ジャパンを世界の頂点に導く大きな武器となった周東選手の“脚力”。走塁のスペシャリストとしてプレーする中で、国際大会ならではの特徴も感じた。「より失敗できないな、と感じましたね。普通にシーズンを1年間戦っていれば、1回失敗しても次に取り返せますけど、やっぱり一発勝負なので失敗できない。不安は大きいです」。失敗が許されない一発勝負。そのプレッシャーは相当で「あそこまで足が震えたことはない」と言うほどだ。

侍ジャパンで“スペシャリスト”が生きる道「どうしても1点を取りにいくために」

 国際大会ではよく言われるのが、海外の投手たちは牽制やクイックが苦手で、日本にとって有利に働く、ということだ。ただ、実際に「プレミア12」を経験した周東選手はこれを否定する。

「牽制が上手い投手もいれば、クイックの速い投手もいます。タイム的には速くない投手でも、動きが速い投手が多い。一概に走れるかというと、そうではないと思います。タイミングを取るのも難しいですし、ましてや見たこともないデータの少ない投手だと簡単なものではないですね」

 その中で、国際大会における“走塁のスペシャリスト”が生きる可能性を感じた部分もある。

「侍ジャパンには凄いバッターの方々が選ばれるじゃないですか。そうすると、そう簡単に代打は出さないですよね。どうしても1点を取りに行くために(走塁のスペシャリストが)必要な場面はあるんじゃないかな、と思いますね」

 球界を代表する打者が集う侍ジャパンだからこそ、自分のような役割が生かされると感じたという。

 さらに言えば、国際舞台ではなかなか点が取りにくいところもある。速いボールを動かしてくる海外の投手に手を焼いたことは一度や二度ではない。連打になることは期待しづらい。「国際舞台でなかなか打つのも難しいですし、そういう時に(点を)取りにいかないといけない時もあるんじゃないかと思います」。必死に1点をもぎ取りにいきたい場面では、自分のような存在がいてもいいと感じたという。

 日本のトッププレーヤーたちが結集する侍ジャパンにおいて、一芸に特化した選手、特に野手が選ばれることは珍しい。だからこそ、周東選手は一芸に秀でた“スペシャリスト”の先駆者としての使命も感じていた。「今までにそういうことってなかったと思いますけど、僕が上手くそこにハマれば、今後もそういう選手が選ばれるんじゃないかと思いました」。そして、実際に結果で示してみせた。

「プレミア12」を戦い終えた稲葉監督は、今後の侍ジャパンにおける“スペシャリスト”の起用について「大会を通じて必要になるのではないか、と考えるものになりました」と語っていた。周東佑京が示した大いなる可能性。侍ジャパンにとって“走塁のスペシャリスト”が、今後も大きな武器になりうるかもしれない。


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