「勝つだけではない」尊敬される存在に… 侍ジャパン強化本部長が選手に求める品格
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、野球界もまた、開幕延期、大会中止、活動自粛など大きな打撃を受けている。野球日本代表「侍ジャパン」では強化本部長を務め、全日本野球協会では会長としてアマチュア野球界の発展に尽力する山中正竹氏も、未曾有の事態に心を痛めている一人だ。だが、今だからこそ、各カテゴリーで日本を背負って立つ選手たちには、代表として持つべき意識と品格とは何か、改めて考える時間に充ててほしいと熱望する。
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侍ジャパン強化本部長、全日本野球協会会長の山中正竹氏が語る代表に“ふさわしい姿”
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、野球界もまた、開幕延期、大会中止、活動自粛など大きな打撃を受けている。野球日本代表「侍ジャパン」では強化本部長を務め、全日本野球協会では会長としてアマチュア野球界の発展に尽力する山中正竹氏も、未曾有の事態に心を痛めている一人だ。だが、今だからこそ、各カテゴリーで日本を背負って立つ選手たちには、代表として持つべき意識と品格とは何か、改めて考える時間に充ててほしいと熱望する。
侍ジャパンだけではなく、NPB、社会人、大学、高校など各カテゴリーでシーズンや大会の中止・延期が余儀なくされた。突如として目標を失ってしまった選手たちは、いまだ練習さえ十分にできない日々が続いている。
「私だけでなく(国際大会などの中止が決まった)その瞬間は大きなショックがあったと思います。一日でも早く、この事態が収束することを、世界の人たちと一緒に願ってはいますが、これからどう対応していこうかと考えているところでもあります」
山中氏は法政大学時代、東京六大学リーグ史上最多の48勝を挙げた“伝説の左腕”。指導者としても数多くの国際大会を経験した。人望も厚く、アマチュア野球で世界大会に臨む監督たちはたびたび、山中氏にアドバイスを求めている。
いくつもの難局を乗り越えてきたからこそ、熟知していることもある。自らが積み重ねた経験は惜しまず、後進に伝え続けていくつもりだ。
「国際大会では、何があっても驚かない、ということです。日本人は慣れない環境への対応力が極めて弱い、と感じています。食べ物や気候、グラウンドの状況、ストライクゾーンに関してもそうです。戸惑いを感じてしまう。日本以外の国の人たちは、慣れない環境の中で自分の最高のパフォーマンスを出すためにはどうするかを考えていますから、(日本人も)どのように克服すべきかを考えないといけない」
これまでの国際大会では、日本のチームから「どうにかしてほしい」と嘆きの声が上がる一方、自分たちで解決方法を見出せないまま、大会が終わってしまったこともあったという。自ら打開策を見つけ、最高の結果を出すことが、日本球界のさらなる成長に繋がる。
現在、世界は誰も経験したことのない困難な状況に置かれ、社会、経済、医療など様々な分野での対応力が求められている。野球界もまた柔軟な対応が求められているが、その中で社会に対してどのようなメッセージを発信し、行動を取ることができるのか、山中氏は日々、考えながら過ごしているという。
スポーツマンシップとは何か…「考えることは、野球の競技力低下にはならない」
緊急事態宣言が解除された後も、引き続き自宅で過ごす時間は増えている。プロ・アマ問わず、すべての野球選手たちも同じ状況に置かれているだろう。その時間をどう使うべきか。山中氏は、スポーツの定義、野球の在り方について、改めて考えてほしいという。
「日本の野球の歴史とはどういうものなのか、今の時期に考えてみてもいいのではないかと思う。スポーツマンシップとは何だろう、と。そういうことを考えることは、たとえ技術練習ができなくても、野球の競技力を低下させることにはならないと思うのです。むしろ(野球に)取り組む意欲を駆り立てるものになると思います」
野球の奥深さは人間形成に繋がっている。そう山中氏は考えている。スポーツマンシップの捉え方は人それぞれ。正々堂々と戦うこと、相手を尊重することなどが挙げられるが、山中氏はその中でも「品格」の重要性を説く。そして、この「品格」こそ、全カテゴリーの侍ジャパン戦士に持ってもらいたいと願っている。
「やはり日本を代表する選手には『さすが、スポーツマンだな』と周囲から言われる集団であってほしいと思います。ただ単に勝つことだけではなく、『ああいう人間になりたい』と尊敬されるような存在になってもらいたいです」
侍ジャパンに求められるのは、決して技術だけではない。求められる資質とは何か。こういう機会だからこそ、山中氏はあえて問いかけている。
山中氏を驚かせた高校生の意識の高さ「スポーツの意義をしっかりと捉えている」
コロナ禍で野球界から活躍の場が失われている一方で、未来に向かう新しい芽は力強く育っている。メディアやSNSを通じて、プロ野球の監督や選手、OBら関係者が、野球の持つ魅力、スポーツの持つ意義などについて発信しているが、山中氏を驚かせたのは高校生の意識の高さだ。
「春夏の甲子園中止を受け、投げやりな発言をするのではなく、周囲への感謝を伝えるなど、スポーツの意義をしっかりと捉えている高校生のコメントを(メディアを通じて)知りました。このような発言が高校生の中に出てきているというのは大きいことだと思います」
落胆や動揺する気持ちを抑え、高校生ながらにスポーツは平和で安全な社会で行われるものだと理解している様子に、深く感心したという。山中氏が求めていきたい野球人としての品格が、若い世代にもしっかりと備わっていた。
今後も国内外の大会がどのような形で開催されるのか、不確定要素は多い。だが、高い意識を持って今を過ごすことができれば、侍ジャパンが再び結集した時、さらに品格を持った集団に成長することができそうだ。
(取材日:2020年5月28日)
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