第31回大会で掴んだ悲願の初優勝 大役果たしたU-18代表に馬淵監督が送ったエール

2023.10.2

8月31日から台湾・台北を舞台に開催された「第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」で、野球日本代表「侍ジャパン」U-18代表は悲願の初優勝を遂げた。1981年の第1回大会以来、なかなか越えることができなかった決勝の壁を崩したのは、馬淵史郎監督(明徳義塾高)の下で「スモール・ベースボール」を実現させた精鋭20人だった。

写真提供=Full-Count

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「第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」で侍ジャパンU-18代表が躍動

 8月31日から台湾・台北を舞台に開催された「第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」で、野球日本代表「侍ジャパン」U-18代表は悲願の初優勝を遂げた。1981年の第1回大会以来、なかなか越えることができなかった決勝の壁を崩したのは、馬淵史郎監督(明徳義塾高)の下で「スモール・ベースボール」を実現させた精鋭20人だった。

 2022年から代表を率いる馬淵監督が、就任当初から掲げているのが「スモール・ベースボール」だ。機動力と野球脳を存分に生かしたスタイルで、体格やパワーで圧倒的優位に立つ海外チームに対抗。今回はその方針を徹底するため、今夏の甲子園を沸かせた高校通算140本塁打を誇る佐々木麟太郎内野手(花巻東高)、真鍋慧内野手(広陵高)らパワーヒッターは代表に選ばれなかった。

 本塁打は出なくても、ヒットで繋ぎながら足でかき回して1点を奪う。同時に、高い投手力と守備力で失点を最小限に食い止める。20人全員が一丸となる野球で、世界の頂点を目指した。

悪天候でも繋ぐ野球を実践し、スーパーラウンドへ進出

 米国、ベネズエラ、オランダ、パナマ、スペインと同組で臨んだオープニングラウンド。初戦でスペインに10-0(6回コールド)で完封勝ちすると、続くパナマ戦はあいにくの豪雨で何度も中断を挟んだが、7-0でピシャリと封じた。完璧なスタートダッシュを切った日本だが、馬淵監督は「力の差はそんなにないと思っているので、うちとしてはいい流れでやれたかなと思っています」と謙虚な姿勢を崩さず、次戦の米国戦を見据えた。

 台風の影響で当日になっても試合時間が二転三転。さらには、強い雨風が降りつける悪条件の中、第3戦の米国戦を迎えた。日本は初回に森田大翔内野手(履正社高)が左中間へ放った三塁打で2点を先制。投げては、エースの前田悠伍投手(大阪桐蔭高)が緩急を使った投球で、走者を背負いながらも5回2/3を無失点。日本は7回に追い上げられたが、4-3で逃げ切った。

 第4戦のベネズエラ戦は3回までスコアボードに「0」が並んだが、4回に試合が動いた。日本は先頭の知花慎之助外野手(沖縄尚学高)が四球で出塁すると、犠打とセーフティバントで1死一、三塁。ここで寺地隆成捕手(明徳義塾高)が初球でスクイズを決めて1点を先制すると打線が繋がり、この回に一挙5点を挙げることに成功した。投げては、東恩納蒼投手(沖縄尚学高)が4回1安打無失点とし、10-0の完封劇でスーパーラウンド進出を決めた。

 オープニングラウンド最終戦はオランダに0-1で惜敗。メジャーリーグ球団入りが決まっている投手陣に1安打に抑え込まれて為す術なし。馬淵監督は「実力の差ですかね。気を引き締めて、スーパーラウンドで頑張りたいと思います」と、休養日を挟んで始まるスーパーラウンドに向けて語った。


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“前哨戦”ではチャイニーズ・タイペイに黒星も、決勝戦では接戦制す

 4勝1敗でグループBを2位通過した日本は、スーパーラウンド初戦で韓国と対決。この日も前田投手が4回を1安打無失点とすると、打っては知花選手が2回と6回に2度、2点タイムリーを放ち、山田脩也内野手(仙台育英高)もソロ弾。投打のかみ合った展開で7-1と快勝した。

 続くプエルトリコ戦は、先発の東恩納投手が参考記録ながら5回パーフェクト投球を披露。打線も繋がりを見せて、2回を除く毎回で得点を記録。10-0(5回コールド)と圧勝したが、馬淵監督は「理想の試合じゃないですね。3-0くらいで勝つのが次につながる。楽勝はロクなことがない。ちょっと安易に考えてしまう」と浮かれることなく、あと2勝と迫った優勝を見据えた。

 スーパーラウンド最終戦は、前日までの成績により、ともに決勝進出を決めているチャイニーズ・タイペイとの対戦となった。勝っても負けても決勝戦に進めるが、馬淵監督は試合前「負けていい勝負はないですよ」とキッパリ。全力勝負で臨んだが、初回に1点を先制した直後に3点を奪われて逆転を許すと、最後は2-5で敗戦。“前哨戦”を落としたが、翌日の本番に向けて闘志を燃やした。

 そして迎えた決勝戦。馬淵監督が大一番のマウンドを任せたのは、ここまで2試合無失点と絶好調の前田投手だった。初回、1死三塁からセンター前にタイムリーを運ばれて今大会初失点を記録。だが、これで闘志に火が着いた前田投手は、2回以降は走者を背負いながらチャイニーズ・タイペイ打線を封じた。

 これに打線も呼応。3回までは押されていたが、4回に先頭の緒方漣内野手(横浜高)が四球で出塁すると、犠打とセーフティバントで1死一、三塁。ここで打席に入った高中一樹内野手(聖光学院高)が見事なスクイズを決めると、相手の送球ミスも重なって逆転に成功した。前田投手が2-1のリードを守り抜いて7回完投。日本は見事、悲願の初優勝を飾った。

馬淵監督「彼らが将来、日本の野球、全国のリーダーになれるように」

 試合後、馬淵監督は「スモールベースボールを掲げて、ミスもあったが良かったと思います。他のやり方もあるんでしょうけど、私はそれしかできない。そういう選手を選びました」とうれし涙。多くの先輩たちが果たせなかった大仕事を成し遂げた選手たちは、表彰式で金メダルを首に掛けられると一様に誇らしげな表情を浮かべた。

 優勝の翌日、羽田空港で会見に臨んだ馬淵監督は「うちの子らはみんな、野球を知っているから」と目指す野球を体現した選手たちを称えると同時に、エールを送った。

「チームを結成して、日常生活、朝の起床から見ていて、いいチームだなと感じていました。12万8000人の高校球児の代表として臨めるチーム。立派な挨拶もできる。これは本当にいいチーム。彼らが将来、日本の野球、全国のリーダーになれるように、プロアマ問わず、そういった選手になってほしい」

 侍ジャパンのユニホームを着て戦った20人の選手たちにとって、この夏の経験は野球人生における大きな宝物になったに違いない。

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