侍ジャパンU-15代表を率いる鹿取監督が若い世代に期待すること、代表チームに入る意義とは
今年7月29日から8月7日まで、福島県いわき市で「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ 2016 inいわき」が開催される。地元開催の大会で初優勝を目指す侍ジャパンU-15代表。前回大会に続きチームを率いる鹿取義隆監督(59)に、次世代の日本を担う侍戦士たちに期待することを聞いた。(後編)
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地元開催のW杯へ、一番の心配は「故障」
今年7月29日から8月7日まで、福島県いわき市で「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ 2016 inいわき」が開催される。日本は2012年の第1回大会(メキシコ)は出場を辞退。14年の第2回大会(メキシコ)では7位となった。地元開催の大会で初優勝を目指す侍ジャパンU-15代表。前回大会に続きチームを率いる鹿取義隆監督(59)に、次世代の日本を担う侍戦士たちに期待することを聞いた。(後編)
――メンバーが決まり発表されれば、まずチームは大会までにどのようなスケジュールになっていくのでしょうか?
「7月上旬に明治大学のグラウンドで合宿などを行います。集合日にこれから侍ジャパンのユニホームを着る子たちと会う。最初はみんな周りをキョロキョロ見ていますよ。その表情が非常に面白い。徐々に打ち解けていって、合宿をすることでまとまっていきます。試合をするたびに強くなっていって、さらにまとまっていく。この年代の特徴ですね。そこで馴染んでいけるのはすごい。一体感が出てくる。特に関西から招集する子のリーダーシップの取り方がうまいので、例年、主将は関西の子がやっていますね」
――合宿から大会を通じて、子供たちに対して、心配ごとなどはありますか?
「故障ですね。それが一番の心配。リスクを抑えるために、ヘッドスライディングは禁止にしています。帰塁の場合は別です。ただ、三塁のファウルフライを捕りに飛び込んでケガをすることもある。子供たちは自分たちの限界がわからないので防げないこともありますが、走塁に関してはヘッドスライディングを止めておけばケガは少なくなる」
――侍ジャパンに選ばれるような選手たちははじめから、メンタルは強いのでしょうか? どのように世界で戦える選手に成長していくのでしょう。
「メンタルは世界大会を経験していないから、誰も強くないですよ。野球技術はうまいので、結果が出ればメンタルは強くなる。うまい子でも結果が出なければ、メンタルは強くなりません。ただ結果が出なくても課題は出る。『これができなかった』、『エラーをした』とか。課題があるので、そういうところを褒めて伸ばしてあげます。失敗すれば課題が出る。はじめからメンタルが強い選手はいない。ステップアップ。その積み重ねです」
侍ジャパンで成長する選手たち、受け継がれる貴重な経験
――中学生からしてみると、U-15などの代表招集はプロの意見を聞けるチャンスでもある。過去に鹿取監督がコーチやテクニカルディレクター(TD)として指導した選手で、浅間(日本ハム)、桜井(巨人)らアマチュア時代に国際大会を経験した選手がプロ入りしています。
「そういう選手が出てくるのはうれしいですね。大学生もそうですけど、食事に関して、なかなか気づかない点も多くあります。メンバーに入ると、栄養についても勉強する。練習中や合宿中に栄養士の方に食事メニューをチェックしてもらう。体を作るためには大事なことなのです。プロにいった選手たちはそこで気がついたというか侍ジャパンに入ったことで、栄養を学ぶきっかけをもらったのは大きい。技術は本を見たりすればマネできるものもあるけれど、体は本だけではわからないですから」
――U-15世代でも食事のチェックはありますか?
「栄養士がちゃんとやってくれます。サプリメントも出してくれます。2011年の時は見るからにやせていってしまった子もいた。開催地のメキシコで食事が合わなかったみたいで。前回の14年の時は、そういうことを踏まえて、サプリメントをもらったので、体力が落ちなかったです。11年の経験が生きたと思っています。大会初日は元気があるけど、後半はだんだんしぼんでいく。体力が落ちれば技術も落ち、パフォーマンスも落ちる。それを補うには食べるものからやっていかないと本当のパフォーマンスは出ないのです」
――U-15の選手たちに対しては、プロに進んだ選手の話をしたりする時もあるのですか?
「あまりしないですね。『この中からプロに行った人もいるよ』くらいです。話をし始めたら、キリがないので。ただ目指さないといけないと思っているので私がよく選手たちに言っているのは、U-15だったらU-18というように、次の(カテゴリーの)代表メンバーになれと。最終的にはトップチームに入るように頑張りなさい、と声をかけています」
――中学生にジャパンの誇り、国の代表という意識を理解させるのは難しいのでしょうか?
「意識は持たせたいと思っていますが、まだ意味がわかっていない選手もいると思います。まずはしっかりと各連盟(ボーイズ、シニアなど)の代表であり、侍ジャパンに入ったら日本の代表であること、しっかり誇りを持ってやってほしいということを伝えます。国際大会は対戦相手が日本の選手ではないので、試合になった時に、これまでとの違いを体で感じると思う。そこから意識は変わっていくのではないでしょうか」
鹿取監督が考える日の丸のユニホームをまとう意義とは?
――U-15戦士における侍ジャパンのユニホームの意義とは鹿取監督は何だと思いますか? 選手たちにどのような思いを持っていてもらいたいですか?
「代表で教わったことを、その後、進んだ高校の野球部でも見せてもらいたいですね。進学後、その選手のことを周りは『あ、U-15の代表選手だったよね』と見ると思います。そこでしっかりとしたプレーをすれば周りも影響される。チームがいい方向にいくと思う。それが1番の私の思いかもしれないですね。選手は代表になったことに胸を張っていいと思う。うまい子はうまくなって高校に進み、目立ってもらって、マネされてほしい。“出るくい”は伸ばさないといけないと思っています」
――伝道師として、野球のレベルの底上げの中心になってほしいという思いですか?
「なってほしいですね。『あいつはああやってうまくなったんだ』となれば、他の子もマネすると思う。チーム力も上がるといい。先ほどの栄養の話もそうです。みんなにその話をしないといけないし、代表で得た話を含めて。持ち帰ってもらって体作りを変えてもらえば、周りも変わってくると思います」
――今大会は世界一に向かって勝つことと野球界の発展も担っていくことになりますね。
「両方ですね。そこで結果が出てくれば、自信になる。たとえ負けても課題が見つかる。こんなにあの国と差があった。この課題をどうやって克服するのか。全員が全員、いい結果になるとは限りませんからね。ケガや体調不良など、それも含めて課題として見つかると思います。でも十分にトップ、世界一を狙える可能性はあると思っています。技術を教えながら戦いにいく。やりながら強くなっていくことがベストだと考えています」
――U-15の監督だけでなく、侍ジャパンのテクニカルディレクターという立場からは若い世代に感じてほしいことはありますか?
「U-15の日本の力はどれくらいの差が他国とあるのか。上なのか、下なのか、どこで抜くのか、抜かれるのか。また、代表戦で勝って強かったと言われるのと、負けても強かったと言われるのとでは、どこにその差があるのかを侍ジャパン全体で考えないといけません。いずれ、この年代が侍ジャパンのトップになるかもしれない。また、カテゴリーが上がっても、その国の同じ選手と対戦することもあるでしょう。その時は当時は負けたけど、俺たちは強くなったと思えるかもしれない。次のステップでも代表メンバーに入ってもらいたいですね」
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