侍ジャパン、世界一への課題となる「動くボール」への対応 名打者・篠塚氏が明かす“ヒント”とは
2017年の野球日本代表「侍ジャパン」トップチームは、3月の「第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」ではベスト4、原則24歳以下の選手で臨んだ「ENEOSアジアプロ野球チャンピオンシップ2017」は優勝という結果を収めた。アジアNO1、そして世界トップクラスの実力は証明したものの、WBCでは2大会連続で世界一に届かず、課題も見えた1年となった。
写真提供=Full-Count
WBCでは2大会連続ベスト4、日本が「打力」を上げるために必要なことは?
2017年の野球日本代表「侍ジャパン」トップチームは、3月の「第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」ではベスト4、原則24歳以下の選手で臨んだ「ENEOSアジアプロ野球チャンピオンシップ2017」は優勝という結果を収めた。アジアNO1、そして世界トップクラスの実力は証明したものの、WBCでは2大会連続で世界一に届かず、課題も見えた1年となった。
WBCの準決勝では、米国に1-2で敗戦。先発の菅野智之投手(読売)は快投を見せたものの、打線は菊池涼介内野手(広島東洋)のソロ本塁打による1点のみに終わり、相手投手陣を打ち崩せなかった。小久保裕紀前監督は大会後、記者会見で「(メジャーリーグは)動くボールが主体ですけど、日本球界はフォーシーム主体なので。そこを改善していくのは難しい」と分析。一方で、「今回、あれだけホームランが出たのは以前よりトレーニングが発達してきて、向こうのメジャーのボールにも負けないくらいの筋力アップが出来ていた証」と手応えも明かした。日本が世界一を奪還するためには、やはりこの「動くボール」への対応が1つの鍵になってくることは間違いないだろう。
現役時代に2度首位打者を獲得し、通算1696安打を放つなど輝かしい実績を残した元読売の篠塚和典氏は、その対応策として「打席の前で打つこと」を掲げる。2009年には打撃コーチとして侍ジャパンを支え、世界一を経験したかつての天才打者の言葉には、「投手力」が強みの日本が「打力」でも強さを取り戻すためのヒントがある。
篠塚氏はまず、2009年のチームについて「やはりメンバーが良かった。誰が見ても、という選手ばかりだった。全然負ける気がしなかった」と振り返る。イチロー外野手、城島健司氏、岩村明憲氏、福留孝介外野手(現阪神)といった“メジャー組”が打線を形成し、外国人投手との対戦経験も豊富だった。なにより、「雰囲気があった」という。
「対応能力というのはあるな、と感じていましたね。1人1人の選手を見ていてもそう。全員がその(大会の)時にばっと力を出すというのは、なかなか難しいじゃないですか。でも、このピッチャーならこの選手が打ってくれれば勝てるな、という雰囲気が出せる個々、選手だった。そういう雰囲気は必要。今年のチームはまだ少し足りないかなと思いました。
(メジャー組が)チームに与える影響はやはり大きかった。メジャーの選手は相手投手と対戦経験があって、ピッチャーがどういう感じかをスコアラーと話して、スコアラーがデータを出してくる。その辺が、我々の時には良かったです。あとは、彼らがチームを引っ張っていったというのもある。特にイチロー選手という存在がありました。彼は状態がなかなか上がってこなかったけど、選手を引っ張っていて、イチロー選手自身が打たなくても、周りがやってくれていた」
「1つの基本としては、前で打ってしまうということ」
今年のWBCでは、メジャーリーガーの青木宣親外野手が参加し、チームに好影響を与えた。ただ、2009年はピッチャーも含めて多くの選手が集まり、勝つ集団としての「雰囲気」を作った。もっとも、実際には選手個々の事情、所属球団の事情などにより、参戦が難しいという状況もある。外国人投手との対戦経験が多くないNPB球団所属の打者が、どのようにして相手を攻略していくのか。特に、手元で動くボールを操る初対戦の投手に対応し、打ち崩せるかが大きなポイントになってくる。
巧みなバットコントロール、天才的な打撃であらゆる投手から安打を量産し、球史に名を残す名打者として輝かしい実績を残した篠塚氏は、1つの“ヒント”を提示する。
「難しいところですが、1つの基本としては、前で打ってしまうということ。バッターボックス内の位置というのは、今の選手は大体、後ろにいることが多い。一番後ろに構える。ただ、そうすると、意外と一番変化するところで打たないといけない。それを全員で前に出て、単純に考えて曲がる前に打っちゃおうというくらいの気持ちでやるのは、1つの手だと思います。(後ろに立つことで)ボールを長く見て一番難しいところで打てれば何の問題もないけど、自分がバッターとして考えると、単純に曲がる前に打っちゃえばいいんじゃないか。そういう簡単な気持ちでいった方がいいと思います」
手元で動くボールに対しては、バッターボックスの前に立って、変化する前に対応する。もちろん、そのためには高い技術、対応力も必要になってくる。高い打撃能力を誇った篠塚氏だからこそ唱えられる対応策かもしれない。
「バッターは、なかなか後ろにいるものを前に行く、ということはしないものです。頑固なんですよ、バッターというのは。逆に、前にいる選手が後ろに行こうとすることも、あまりない。たとえば我々も、シーズンをこなしていく中で、打てないピッチャーというのはいました。その時に、バッターには思い切ったことをやらせて、キャッチャーを考えさせないといけない。そのくらいやってもいいのかなと思います。それがダメなら次の対策を考えればいい。
なぜ打者が打席の後ろに行くかというと、ボールをよく見るというよりも、速さに弱い打者が後ろに行くことが多い。後ろに行けば、スピードが違うだろうと思うかもしれないけど、そんなことないんですよ。バッターボックスの中で前に行こうと後ろに行こうと、速さを感じるのは一緒。では、変化球を投げるピッチャー、動くボールを投げるピッチャーに対しては、後ろに行くと、どうかなと。フォークを投げるピッチャーなら、後ろに立てば一番落ち際を打たないといけなくなる。そう考えると、(打席の前で)少しでも落差の少ない時の方が、きれいに打てとは言わないけど、当たる確率は上がるんじゃないかなと」
もう1つの重要なポイントは「ボールの見極め」
実にシンプルでありながら、効果的な方法を篠塚氏は提案する。そして、もう1つ重要な要素として挙げたのは「ボールの見極め」。初対戦の相手に対して、追い込まれる前に積極的に打ちに行き、簡単に凡打を重ねて逆に首を絞めてしまうという傾向は、第3回大会でも見られた。ただ、そういうときこそ見極めが必要だという。
「相手だって、そんなにストライクゾーンには放ってこない。いかにストライクゾーンから落としていったりとか、動かしたりして振らせるのかが1つの手だと思います。特に、追い込まれてからボールの見極めがしっかりできるかどうかで流れが変わってくる。フォアボールを選べるところで打って、打ち取られてしまう。そこで見逃していけば、他の作戦もできるようになる。打席の前に立っても、感覚的にはボールはゆっくり見られます。なので、(打者に)どういう風に意識をさせるか、ということも大事だと思います」
今年、WBCに出場した選手は、まだまだ若い。リベンジのチャンスは残されている。たとえば、4番に座った筒香嘉智外野手(横浜DeNA)は今年26歳、そして篠塚さんと同じアベレージヒッターの秋山翔吾外野手(埼玉西武)も今年29歳と、次回大会での活躍も期待できる。この2人については、篠塚氏も「筒香選手は1年1年、自信をつけて大きくなっている。ホームランバッターとしての本数もしっかり打ってきている。まだまだ穴もあると思うので、もうちょっと安定性もしっかりしていけば、このまま代表の4番として任せられる。秋山選手もいいバッターです。それだけの成績も残している。これから落ち着いていく年齢でもあります」と、さらに充実していくことを期待している。
2009年以来の世界一へ向けて、課題をクリアするために――。名打者・篠塚氏のアドバイスが助けとなるはずだ。
【了】
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