実は「引退を決めていた」…読売・清水美佑が追加招集されたW杯で起こした“奇跡”

2025.3.24

野球日本代表「侍ジャパン」女子代表の清水美佑投手(読売ジャイアンツ)は昨夏、カナダで行われた「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)でベストナイン(右投手)に選出される活躍を演じ、大会7連覇に貢献した。大会前にいったんは代表メンバーから漏れ、現役引退を決意。しかし、エース格で読売のチームメート・小野寺佳奈投手が故障により出場を辞退し、代わりに追加招集されて連覇ストップの危機を救った。

写真提供=Full-Count

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追加招集で6年ぶりに代表入り、3度目のW杯出場でベストナイン受賞

 野球日本代表「侍ジャパン」女子代表の清水美佑投手(読売ジャイアンツ)は昨夏、カナダで行われた「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)でベストナイン(右投手)に選出される活躍を演じ、大会7連覇に貢献した。大会前にいったんは代表メンバーから漏れ、現役引退を決意。しかし、エース格で読売のチームメート・小野寺佳奈投手が故障により出場を辞退し、代わりに追加招集されて連覇ストップの危機を救った。

 大会7連覇に漕ぎつけたとはいえ、日本にとっては他国のレベルアップを実感させられた大会でもあった。8月2日の米国戦では延長タイブレークの末に3-4で敗れ、W杯での連勝が「39」で止まった。それだけに米国との再戦となった同4日の決勝戦は、異様な緊張感に包まれた。その先発に清水投手が指名されたのは、埼玉栄高3年時にメンバー入りした2016年第7回大会(韓国)、20歳で出場した2018年第8回大会(米フロリダ州)に続き、3度目のワールドカップという豊富な経験があればこそだった。

「2016年と2018年は、自分では強く意識しないまま代表に選んでいただいた感じでした。両親がアメリカまで観に来てくれた2018年にふがいない投球をしてしまって、もう1度代表のユニホームを着て、しっかりした投球を見せたいという思いが生まれました。ところが、その後は全く代表に選ばれなくなってしまったのです」と皮肉な過去を振り返る。

 2023年のBFA女子野球アジアカップでは代表から漏れ、第9回W杯も2023年に広島で行われたグループリーグでは選出されなかった。昨年4月26日に発表された「ファイナルステージ」代表メンバーの中にも、清水投手の名前はなかった。「今だから言えることですが、その時点で自分としては現役引退を決めました。ただ、ジャイアンツ女子の一員として、2024年いっぱいは全うしようという気持ちでした。まさか、そこからもう1度チャンスが回ってくるとは……」と述懐する。

チームメートの負傷欠場で追加招集…胸の内は複雑も全力投球

 読売の投手陣を2枚看板として支え、4歳上の清水投手が「野球人生で初めて勝てないと思った後輩」と称える小野寺投手に替わり、清水選手の追加招集が発表されたのは大会開幕18日前、7月10日のことだった。「ワールドカップに懸けていた小野寺の気持ちを知っていたので、彼女が行けなくなって仲間として悔しい気持ちと、自分が選ばれてうれしい気持ちの両方がありました」と胸の内は複雑だった。

 7月30日のカナダ戦に先発した際には、5回まで無失点に抑えるも、3-0とリードして迎えた6回、突然制球を乱して1点差に迫られた上、2死満塁のピンチを残してマウンドを降りた。「気持ちが守りに入ってしまった」という反省が残った。

 そして迎えた米国との決勝の先発マウンド。清水投手は「調子がすごくよかったというわけではありませんが、野球人生で初めて『幸せ』って思いながら投げていました」と笑う。ベンチの奥に掛けられた小野寺投手の背番号「11」のユニホームに何度か目をやると、「一緒に投げているような気がしました」。小野寺投手とは大会中、ビデオ通話での会話やメッセージのやり取りを行っていた。

 味方のエラー絡みで3回に1失点したものの、安定した投球を続けた。11-1と大量リードの5回、相手の2番打者に3ランを浴びて計4失点(自責点3)。2死一塁の場面でマウンドを2番手に譲った。

「3ランを打たれたことも、点差がありましたし、カナダ戦のように怖がってランナーをためるくらいなら、いっそホームランを打たれた方が相手の攻撃がそこで切れますし、ベンチも替えやすいだろうという気持ちがありました」と戦況を俯瞰する冷静さがあった。「普段先発して交代を告げられる時は、もう少し投げさせてよ、と思うのですが、あの時は初回から全力で投げたので、もう目いっぱい。(中島梨紗)監督に『お願いします』と頭を下げました」と満足感を漂わせた。


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W杯決勝を投げ終え、見つけた新たな目標「私の最低限の義務」

 決勝で試合の流れを引き寄せる好投が評価され、ベストナインも獲得。過去2回のW杯に出場した際、両大会とも決勝で先発し、連続MVPに輝いた里綾実投手に憧れ、MVP獲得を目標とした。「ほんの1か月前まで野球を辞めようと決めていて、侍ジャパンのユニホームを着ることはもう一生ないと思っていた私が、決勝の舞台に立ち、MVPではないけれどタイトルを獲れたことは、とても不思議でした」と感慨深げだ。

 いったん現役引退を決意した26歳はいま、新しい目標に向かって歩き始めている。「長年女子野球を引っ張り、昨年のワールドカップを最後に現役引退された先輩がたくさんいらっしゃって、私は勝手にバトンを受け取った気持ちになっています。他人に委ねず、次の世代に渡したいです」と表情を引き締める。「(2027年にファイナルステージが行われる)次回ワールドカップに私が出られるかどうかは、自分では決められませんが、そこを目指すことが決勝のマウンドを任せていただいた私の最低限の義務だと思っています」と力を込めた。

 最高球速は日本女子最速タイの129キロ。ライバルの米国には135キロを計測する投手もいるだけに、「女子野球を観て楽しいものにしていくためにも、135キロは絶対に出したい」と意気込む。

 普段はチームの活動のかたわら読売の野球振興部に所属し、東京・大手町の球団事務所で経理、小学校訪問のスケジュール管理などの仕事をこなしている。取材中は笑顔が絶えず、ころころと声を立てて笑ってくれたが、「実は仕事中は、どこにいるのかわからないと言われるほど物静か。「“隠キャ”なんですよ。女子野球選手として見られる以上、明るく振るまった方がいいかなという気持ちもありまして、これはスイッチを入れた時の、野球選手としての清水のキャラクターです」と打ち明ける。

 それならばなおさら、1日でも長く現役を続け、魅力的な二面性を見せ続けてほしい。

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