嶋基宏を成長させたプレミア12敗退の悔しさと責任 名捕手が肝に銘じた野球の怖さ
東京ヤクルトの嶋基宏ヘッド兼バッテリーコーチは、2015年「第1回WBSCプレミア12」で野球日本代表「侍ジャパン」の主将を務めた。準決勝・韓国戦でのまさかの敗退に「思い出したくない思い出」と苦笑いするが、それは同時に、指導者となった今も胸に刻む“財産”を得る経験となった。
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2015年の第1回WBSCプレミア12で侍ジャパン主将を拝命
東京ヤクルトの嶋基宏ヘッド兼バッテリーコーチは、2015年「第1回WBSCプレミア12」で野球日本代表「侍ジャパン」の主将を務めた。準決勝・韓国戦でのまさかの敗退に「思い出したくない思い出」と苦笑いするが、それは同時に、指導者となった今も胸に刻む“財産”を得る経験となった。
「日本対韓国は注目度も高い。緊張感もある中で、大谷くん(翔平投手、現ロサンゼルス・ドジャース)が期待通りの投球で最高のスタートが切れました」と振り返ったように、1次ラウンドは5戦5勝。初戦の韓国戦に先発した大谷投手が、6回2安打無失点10奪三振の快投で勢いに乗せた。
グループB1位で決勝トーナメント進出を決め、台湾で行われた準々決勝でプエルトリコに9-3と快勝。最高の勢いで日本に戻り、迎えた準決勝で相対したのが、再び韓国だった。
1次ラウンドの対戦からわずか11日後。先発は同じ大谷投手だった。「相手は軌道を知っているし、ある程度攻め方も分かっている。短期間で2度同じ相手に投げるのは本当に難しいことなのに、ああいう投球ができるのは凄いとしか言いようがない。完璧でしたね」。7回1安打無失点11奪三振。直球とスプリット中心だった前回登板とは違い、スライダーを要所に使ってアウトを積み重ねた。
3-0で9回突入も悪夢の4失点「早く試合を終わらせたいというのがあった」
3点リードで9回に入り、勝利はすぐそこまで迫っていた。しかし、8回から登板し、9回も再びマウンドに上がった則本昂大投手(東北楽天)が先頭から3連打を浴びた直後、死球と乱調。交代した松井裕樹投手(現サンディエゴ・パドレス)が無死満塁から押し出し四球を与え、増井浩俊投手が逆転2点タイムリーを浴びるなど流れを止めきれなかった。
「僕自身、まだまだ未熟だった。今考えたら、とにかく早く試合を終わらせたい、早く勝ちたいというのがあったのかなと思います。もう少し、1つ1つのアウトを丁寧に、時間をかけて球数をかけて取っていけば、なんてことはなかったんですけど……」
4万人超の観衆を集めた満員の東京ドームで、優勝の目標は潰えた。「悔しさとかいうよりも、何をやっているんだろうと。これだけ注目があって、お客さんに入ってもらって、誰もが優勝という中で、情けないというのが大きかったですね」と正捕手として、主将として、責任を感じていた。
しかしこの経験は、2022年まで16年間にわたってNPBの世界を生き抜く1つの要因にもなった。
「ドキドキしながら指を出すという経験をできるなら絶対にした方がいい」
「あの緊張感の中で試合ができた。レギュラーシーズンで緊張しないわけではないが、ある程度落ち着いてプレーしたり、冷静に『ここはこうだな』とか、『ここはこうした方がいい』とか、一歩引いて物事を見られるようになりました。若い頃は『いくならいったれ』という勢い任せな感じがあったんですけど、捕手がこれだとダメだと敗戦から学んだ。やはり、9回の最後の最後まで何が起きるか分からないので、隙や油断はあってはならない。改めてそれは感じることができました」
日の丸を背負い、しびれる戦いを繰り広げた経験は何にも代えがたい。指導者に専念するようになって2年目。現役選手にも侍ジャパンを目指してほしいか――。そんな問いに「絶対に! 絶対に選ばれた方がいい」と語気を強めた。
「苦い思い出とか、情けないとか言っていますけど、あんな経験はしたくてもできない。その場で変な汗をかいてドキドキしながら指(サイン)を出すという経験をできるなら絶対にした方がいい。野球人生の中でプラスでしかないと僕は思っているので、プロ野球選手である以上は全員が目指してやってほしいですね。人間として大きくなれるし、成長できる。それをまた自分のチームに伝えて、もっと野球界が活性化していったらいいと思っています」
球界を代表するリーダーシップを持ち、通算1441試合に出場した名捕手が味わっていた苦い経験。しかし、今思えば、選手としての成長、コーチとしての基盤を築くかけがえのない大会となっていた。
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