U-12代表が“打ち勝つ野球”で世界一へ挑戦 井端弘和監督が信じる「子どもの可能性」
「第7回 WBSC U-12ワールドカップ」が7月28日、台湾・台南市で開幕する。野球日本代表「侍ジャパン」からもU-12代表が参加し、初優勝を目指す。チームを率いるのは、中日と読売でプレーし、2013年には第3回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で日本代表として戦った井端弘和氏だ。2季目となる井端監督は「侍ジャパン」の名前を背負い、どんなチームを作り上げて戦うのか。世界一へのプランを聞いた。
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前回大会の経験を生かし、就任2季目で目指すチームとは…
「第7回 WBSC U-12ワールドカップ」が7月28日、台湾・台南市で開幕する。野球日本代表「侍ジャパン」からもU-12代表が参加し、初優勝を目指す。チームを率いるのは、中日と読売でプレーし、2013年には第3回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で日本代表として戦った井端弘和氏だ。2季目となる井端監督は「侍ジャパン」の名前を背負い、どんなチームを作り上げて戦うのか。世界一へのプランを聞いた。
昨夏の第6回大会。日本はオープニングラウンド初戦で、優勝した米国に6-21で敗れた。さらに韓国、ドミニカ共和国にも敗れて1勝3敗。プレイスメントラウンド(順位決定戦)ではパナマ、南アフリカ、イタリアに3連勝したものの、7位に終わった。
井端監督に今年の準備状況を問うと「相手について、ある程度イメージもできています」と明るい表情を見せる。一方で「前回は正直、ゼロですね。自分たちのチームもゼロでした」。コロナ禍による行動制限が残っていた昨夏は、チームが集まって練習したのは1回だけ。開催地・台湾に渡っても外出さえままならず、思ったチームを作ることはできなかった。「1回の練習で選手を把握し、結果を出すのは正直厳しかった。相手のレベルも分からなくて……」と振り返る。
初戦の米国戦は「決して勝てなくはない」と思ったといい、実際に5回までは6-7と1点差で競った。だが、6回に14失点。内野からマウンドに上げた投手は「以前見た時より明らかにボールが遅くなっていた。向こうの暑さにやられていたんですね。こちらのミスでした」。2試合目から投手で起用する選手は他のポジションを守らせないと決めたが、時すでに遅し。一度生まれた悪い流れは変えられなかった。
海外と体力や体格差を感じながらも「打ち勝つ」をテーマとした理由
本大会で日本はまだ優勝したことがない。第5回大会(2019年)での2位が最高成績だ。U-12世代では海外チームと体力や体格の差もあり、海外には「大人のようなボールを投げ、大人と変わらないくらいの飛距離を見せる選手がいる」と井端監督は言う。両翼70メートルほどのフェンスを軽々と越え「場外に飛ばすんです。プロが使う球場でも(スタンドに)入るだろうという打球を打っていた。米国にもドミニカ共和国にも何人かいました」と振り返る。
その上で、今年は「打ち勝つ」というテーマを掲げて戦う。海外のエース級は120キロ台後半の速球を投げてくるのも承知の上だ。6月に東京都内で行われた選考会では、社会人野球の投手に打撃投手を務めてもらい、力のあるボールを打ち返せる選手を重点的に選考した。大人が使うサイズのグラウンドでフェンス直撃の打球を打った選手もいる。井端監督は「世界のトップレベルと言える子がいます」と自信を見せる。
なぜ、あえてこのテーマを掲げるのか。それは「子どもには可能性しかない」からだ。
「日本人選手がメジャーに行って、向こうで勝負できているじゃないですか。子どもたちにも『小さいからホームランバッターを諦める』とはしてほしくない。吉田(正尚=ボストン・レッドソックス)選手を見ても分かりますよね」
作戦面でも決めていることがある。「足を絡めたいとは思いますが、バントありきの野球はしません。ここという時は迷いますけどね」。前回大会でもバントはしなかった。あくまで日本野球の未来を考えた、スケールの大きな野球で勝ち抜きたい、とする。
「少年野球を見ていると『まずバント』というチームが正直多い。でも、この大会で戦うのは同じ世代の子どもたちです。世界のボールを見て、それに振り負けないようにする経験をしてくれれば十分。その上で世界一になるのが目標ですね」
選考会から代表集合日まで約2か月「短期間でどんどん変わっていく」
このような思いを抱くに至ったのは、今春の第5回WBCで日本が世界一となったことも多分に影響している。「侍ジャパン」トップチームは、これまで日本の長所とされた作戦をきっちり遂行する野球の上に、パワーという新たな色を乗せ、メジャー選手を多数擁する海外チームと渡り合った。
「野球をやっている子なら、一度はWBCの映像を見ているでしょう。準決勝や決勝はみんなが熱くなった。今回に関して言えば、日本代表がどう戦いたいのかを伝えるのは楽だと思っています。言葉で伝えるより、あの戦いをイメージしてもらえばいいので」
6月の選考会に集まった41人には、社会人野球の投手を通じて「世界のレベル」を伝えた。その上で、投手には「1キロでも速いボールを投げられるように」、打者には「125キロ、130キロを『速い』と思うのではなく、弾き飛ばせるようになろう」と伝えた。7月5日に発表された代表18選手は、23日に集合する。選考会から1か月強ほどだが、この短い間にも子どもたちは成長するという。
「1か月で『あれ、大きいな?』と思うほど変わる子もいますよ。身長にすると1、2センチの違いかもしれないけど、短期間でどんどん変わっていく。逆に一気に体が大きくなって、バランスを崩す子もいるのは確かです」
少年野球の指導は、子どもたちが心身ともに変わっていく様子に醍醐味があるという。「表情を見て『あ、いい感じだな』と分かることがある。楽しければ晴れやかな表情をしてくれますし、こちらもうれしくなりますよ」
日本全国で野球を楽しむ少年少女にエール
井端監督の少年時代はまだ、世界に目を向ける機会はなかった。「地区、県、頑張っても全国を見るのが精一杯でした。野茂英雄さんがメジャーに行ったのは私が大学生の時でしたが、心を躍らせて見ていた覚えがあります」。その点、今の子どもたちは最初からメジャーを目指そうとイメージすることもできる。
「世界に目を向けるのはいいことだと思いますし、やるからには意識してほしい。そして、野球と言えば日本、という世界にしていってくれれば」
この夏、日本全国で野球を楽しむ少年少女にもエールを送る。「やるからには1年でも長く野球をやってほしい。辞めるのは簡単だから」。その上で心掛けてほしいのが、毎日バットとボールに触れることだ。「好きでやっているのなら、1日1回とにかく触ってほしい。色々なことに気付くと思いますよ」。
今後、中学や高校に進学する際、違うスポーツの道を選ぶことがあるかもしれない。だが、その時も「野球をやっていたから別の種目でもうまくいった」と思えるくらい、今、野球に打ち込んでほしいという。
各地で始まる子どもたちのアツイ夏。「侍ジャパン」U-12代表がその先頭に立って盛り上げる。
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