栗山英樹監督の言葉で読み解く侍ジャパン成功の秘訣 言葉で紡いだチームワーク
「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™(以下WBC)」で野球日本代表「侍ジャパン」を世界一に導いた栗山英樹監督は、多彩な言葉の持ち主だ。大の読書家でもある栗山監督が発する言葉は、何気ない一言にも深い意図が含まれているように響く。
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読書家で知られる栗山監督の多彩な言葉に注目
「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™(以下WBC)」で野球日本代表「侍ジャパン」を世界一に導いた栗山英樹監督は、多彩な言葉の持ち主だ。大の読書家でもある栗山監督が発する言葉は、何気ない一言にも深い意図が含まれているように響く。
決勝戦で前回覇者・米国に劇的な勝利を飾り、3大会ぶりに王座奪還を果たした侍ジャパン。短期決戦のために集まったとは思えないほど固い結束力がチームに芽生えた要因の一つは、間違いなく栗山監督の言葉にあった。2021年2月の就任以来、指揮官が発してきた言葉の中から、勝てるチームや組織を作り上げるためのヒントを探る。
選手が「やる気」を起こす言葉
「一生で1回でいいから、メンバー表にダルビッシュと書かせてくれ」
WBCに向け、最終的なメンバー選考に臨んでいた2022年12月、栗山監督は米国を拠点とするダルビッシュ有投手(サンディエゴ・パドレス)を訪問し、この言葉を投げかけた。すると、第2回WBC優勝投手でもあるベテラン右腕から「できる限りジャパンに協力したい」という返事があったという。
組織のトップに立つ人物から直接、協力を求められ、悪い気がする人はいない。さらに、漠然と協力を仰ぐだけではなく、「プロ野球の若い選手たちは練習法やコンディショニング、投げ方、学ぶことは山ほどある」と期待する役割を具体的に提示することで、ダルビッシュ投手にとってチーム内における自身の姿を思い描きやすくなっただろう。実際、ダルビッシュ選手は2月17日の宮崎キャンプ初日からチームに合流。自身の持てる知識や技術を惜しげもなく若手に伝え、精神的支柱としての貢献も果たした。
信頼することで得た信頼
「ずっと本人に言ってきた。『最後はお前で勝つんだ』って」
昨季は日本人最多本塁打記録を塗り替え、史上最年少で3冠王に輝いた村上宗隆内野手(東京ヤクルト)。侍ジャパンでは4番打者として期待されたが、なかなか本来の打撃ができず。チームが勝ち進む中で、苦悩する村上選手だったが、栗山監督はラインナップから外すことなく、クリーンナップとして起用。指揮官に「最後はお前で勝つんだ」と言い聞かされてきた村上選手は、準決勝のメキシコ戦で見事、センター頭上を超えるサヨナラ打を放ち、喜びを爆発させた。
村上選手に限らず、チーム全員に対して信頼の言葉を発し、行動した栗山監督。先に自らが偽りのない信頼を示すことで、チームからの厚い信頼を勝ち得ていった。
縁の下の力持ちへの気遣い
「嫌な思いもさせたと思うけど、本当勘弁してください」
WBCの大会終了後、選手が周囲を囲む中、栗山監督は言った。
「まずはスタートする時に言いましたけど、これだけの素晴らしい選手が集まっているにもかかわらず、この大事な時期にちゃんと試合にずっと出ることができなかった選手もいると思います。嫌な思いもさせたと思うけど、本当勘弁してください」
侍ジャパンの勝利のためサポート役に徹しながら、日々準備を欠かさなかった選手に送った労いの言葉。スポットライトを浴びるスター選手だけではなく、滅私の心でチームのために尽くした選手にとって、チームの一員で良かったと思わせてくれる言葉だった。
正直であることの大切さ
「野球ってすげえなって。見てる人も野球ってすげえと思ったと思う」
準決勝のメキシコ戦で劇的なサヨナラ勝利を収めた後、記者会見場に姿を現した栗山監督は、感動と興奮がないまぜになった表情でこう語った。
自身の想いを飾ることなく、真っ直ぐな言葉で発する栗山監督。組織の頂点に立つとなかなか本音を言えないこともあるが、栗山監督は喜怒哀楽を素直に表現。自らが判断を誤った時は誰かに責任転嫁することなく、きちんと誤りを認め、謝罪する姿が印象的だった。人間くさい一面を隠さないことで、選手は“共感”できる親しみを覚えたはずだ。
上記に挙げた言葉はほんの一例に過ぎない。「組織論」あるいは「チーム構築」というキーワードを念頭に置きながら、栗山監督の言葉を振り返ってみると、また新たな魅力と発見が得られそうだ。
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