侍ジャパンU-12代表が世界一になるために 専門家が考える日本の長所、大切にすべきこと

2017.5.1

「侍ジャパン」は、トップチームが3月の「第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」で、4大会連続でベスト4に進出。優勝はならなかったものの、WBSCの世界ランキングでは1位をキープしている。これは、育成年代や女子代表がしっかり結果を残していることも大きい。では、昨年、U-12代表がアジア初制覇を果たせた要因は何だったのか。今年、初の世界一に輝くために必要なことは何か。そして、この世代で最も大切にしなければいけないことは何か。

写真提供=Getty Images

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今年は世界一を目指すU-12代表、名将・野村克也の“右腕”がアドバイス

 昨年12月の「第9回 BFA U-12アジア選手権」(中国・広東省)で初優勝を飾った侍ジャパンU-12代表。今年7月には「第4回 WBSC U-12 ベースボールワールドカップ」(台湾)が控えており、仁志敏久監督の元、アジアに続いて世界でも初の頂点を目指す。2012年に常設化された「侍ジャパン」の中で、最も若い世代のカテゴリーにあたるが、ここでアジア、そして世界を経験した選手たちが将来、トップチームの一員として世界一を目指す可能性も十分にある。

「侍ジャパン」は、トップチームが3月の「第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」で、4大会連続でベスト4に進出。2大会ぶりの優勝はならなかったものの、WBSCの世界ランキングでは1位をしっかりとキープしている。これは、育成年代や女子代表がしっかり結果を残していることも大きい。

 では、昨年、U-12代表がアジア初制覇を果たせた要因は何だったのか。今年、初の世界一に輝くために必要なことは何か。そして、この世代で最も大切にしなければいけないことは何か。

 現役時代に南海、東京ヤクルトでプレーし、引退後は名将・野村克也氏の“懐刀”として東京ヤクルト、阪神、東北楽天でヘッドコーチや2軍監督を務めた松井優典氏は、日本の野球レベルの高さに太鼓判を押している。中学生や、プロ入りすぐの高卒ルーキーなどの指導経験も豊富な同氏だが、昨年も各カテゴリーで日本が好結果を出したことについて「いいことだと思います」と話す。特に、U-12代表がアジアを制し、今年は初の世界一を目指すという現状に手応えを示す。

「これはやはり、日本の選手の理解度の高さなどを示していると思います。特に低学年になるほど、そこの違いは大きいのではないでしょうか。そこが日本の強みだと思います。日本は家庭環境などのレベルも高い。理解能力はより高まっている。日本の野球の特徴は、チームを組むことによってどういう野球するかを徹底できることです」

小学生年代で最も大切なのは「楽しい」

 野球をする上でも、日本の選手たちへの教育は、U-12という世代ですでに徹底されている。これは他国と一線を画す部分だというのだ。チームとして勝つために、自分は何をするべきなのか。日本の選手はこれを野球の中、整備された社会環境、家庭環境の中で覚え、自然にやることが出来る。

 そして、今年7月の「第4回 WBSC U-12 ベースボールワールドカップ」で頂点に立つために必要なことも、やはり日本の強みを生かすことだという。「まず自分のチームがどういうチームか。それを分析して、相手と照らし合わせて、作戦を立てる。自分のチームがどういうチームか。それに応じた中での戦い方を考え、戦略分析が一番最初です」。U-12の世代であっても、日本はこういうことをしっかりするべきだと、松井氏は強調する。

 その上で、チームとしての戦いが必要だと力説。アジアの同世代にはいないような、高い身体能力を誇る相手と戦う可能性もあるだけに「去年もあらゆる世代で日本が勝っているのは、チームとして勝っているということ。これが一番の日本の特徴です。そこに個人の能力のバランスをどう取るか。U-12代表もそういうバランスになってくる」と“チーム力”の重要性を説いた。

 では、この世代の選手の力を伸ばすために必要なことは何か。松井氏の考えは単純明快だ。

「基本的に小学生だったら『楽しい』。これだけです。小学生は(指導者が)見極めてあげる世代です。『ああしろ、こうしろ』はない。うまい選手は最初から投げる。そういう選手は、自分の体が大きくなると同時にどんどん技術も成長していく。

 例えば私は、高校からプロに入ってきた選手に何を教えていたかというか、基本に戻すことばかり考えていました。選手は意識を持ってプレーしたときに間違ったクセが出てきてしまっている。小学生では打てたのに、中学、高校に入って打てなくなる、ということも多い。それはある意味で、間違った技術指導をしているということですが、プロに入ってきた選手によく言っていたのは『小学生の時にどうやって打ってたんだ』という言葉です。当然、技術を向上する意識は大事です。でも、プロ野球に入ってきて、体ができあがって瞬発力がついてきた時に、その(小学生の時の)形にすれば打てるんです。なので、そういうことを選手によく言いました。だから、小学生に『技術的にはこうしなさい』ということはないんです」

 U-12世代の選手に教えすぎは良くない。個性を消してはいけない。これが松井氏の考えの根本にある。

U-12代表の選手がチームに帰ってどう還元するか

「基本は『楽しい』ということ。もちろん、勝ったら楽しい、打ったら楽しい、投げたら楽しい。そこで興味を持つ。勝つにはどうするか、打つにはどうするか、投げるにはどうするか。そういう発想に持っていくことが大事です。そういう発想に持っていくことによって、自分から生まれてるものがあるからです」

 ただ、U-12代表に選ばれるような選手には、「侍ジャパン」から自分のチームに帰って何をしているか、ということも求められるという。同世代のレベルの底上げのためには、これが重要になるというのだ。松井氏は言う。

「仁志監督が(侍ジャパンで)教えられることは『チームとしてこうやる』ということ。基本、基礎です。それはどこに行っても通用するもの。ただ、『チームとしてこうする』というのは、チームによって違う。それがこの世代で出来るのが、日本の選手の強みでもある。

 でも、それを勘違いして『俺はU-12代表でこんなことを教わってきたんだ』と自慢げにチームに持ち帰る選手がいれば、それはよくない。逆にいうと、指導者は『自分の場合はこうだ』ということを明確にしてチームに返さないといけません。勘違いするというのは、言葉を変えると『天狗になる』ということ。それはチームでもなじまない。自分の行動に対して責任を持たなくなる。だから、チームに戻る前に理解してもらうことが必要です。帰って自分のチームにどう還元したかを見ることが、侍ジャパンの指導者には求められるでしょう」

 世界ランキング1位の日本の野球を最も下から支えるU-12世代。日本の野球指導の質の高さを確認するためにも、まずは7月に身体能力でまさるライバル国を打ち破り、初の世界の頂点に立ちたいところだ。


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