【森脇浩司の目】U12侍Jに見る日本野球の成長 育成年代に必要な取り組みとは

2016.5.16

新たなスター選手を輩出するためには幼少期からのきめ細かい指導やチーム強化も欠かせない要素。小学生年代を強化するためにはどのような取り組みが必要なのか。長年、コーチとして選手育成に携わり、昨季までオリックスを率いた森脇浩司氏に重要な要素を語ってもらった。

写真提供=Full-Count

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名選手を育てた森脇浩司氏の視点、育成年代に必要なこと

 トップチームを頂点に社会人、U-23(U-21)、大学、U-18、U-15、U-12、女子と、各世代の代表チームが揃う侍ジャパン。2014年11月には日本プロ野球機構(NPB)およびプロ野球12球団が出資して「株式会社NPBエンタープライズ」を設立。侍ジャパンをバックアップする体制を整えた。プロアマ結束の象徴ともなっている「侍ジャパン」の強化は日本球界にとっても重要な課題。各世代とも毎年、国際大会に臨み、世界を相手にしのぎを削っている。

 昨年11月の「世界野球WBSCプレミア12」や今年3月の「日本通運 presents 侍ジャパン強化試合 チャイニーズ・タイペイvs日本」でのトップチームの活躍は記憶に新しいが、新たなスター選手を輩出するためには幼少期からのきめ細かい指導やチーム強化も欠かせない要素となる。仁志敏久監督が率いるU-12侍ジャパンは昨年第3回WBSC「U-12ワールドカップ」(台湾・参加11か国)に出場し、今年12月には第9回BFAアジア選手権(中国広東省)への出場も予定。小学生年代を強化するためにはどのような取り組みが必要なのか。長年、コーチとして選手育成に携わり、昨季までオリックスを率いた森脇浩司氏に重要な要素を語ってもらった。

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 小学生、中学生、高校、大学、社会人、そしてトップチームと侍ジャパンはピラミッド化された組織になっています。野球界の底上げ、世界と戦う集団になるという意味では素晴らしいことだと思います。どの年代でも日の丸を付けるプレッシャーはあるはず。幼い頃からこういった経験が出来るということは必ず今後の野球人生に役立ち、他方面に進んでも大きな財産になり得る。また、そうならなければなりません。

 そのために必要な環境設定や、長いスパンで捉えた時にどういうプロセスを踏めばいいのかをここで考えたいと思います。

 U-12日本代表の試合を映像などで拝見すると、今の少年野球のレベルは非常に高くなっています。2014年のU-12アジア選手権は準優勝、2015年のU-12ワールドカップでは6位と頂点にこそ立っていませんが、仁志監督のもとで子どもたちが失敗を恐れず生き生きとプレーしているし、選手を下の名前で呼ぶなどコミュ二ケーションが行き届いています。そのような取り組みは、幼い子どもたちにとっても非常に大きく、信頼関係を築く上でも欠かせません。

 小学生はまだまだ心身ともに成長段階にあり、全国の指導者の方々はフィジカル、スキル、メンタルのレベルアップに随分な御苦労があることと思います。我が子同然に接する指導者の方を見るたびに心から感謝と尊敬の念をお伝えせずにはいられません。

正しい練習は嘘をつかない――

 小学生年代の指導では「まだ体が出来ていない」、「過度なトレーニングは故障に直結する」などマネジメントが非常に難しい。一人一人に特徴があり個性も大切にしなければなりません。変化 、成長が大きい時期だけに十分な観察と洞察、先入観を持たない澄んだ眼が必要で、それらが的確なプログラムを生み、彼らが持つ無限の可能性を引き出します。

 また、正しい競争からは学び取ることが多く、人間形成の基盤作りの支えとなり得ます。スキルアップがメンタル強化に繋がり、メンタル強化がスキルアップに直結してくのです。これはプロ野球選手も同様で、コンプリメントなどを含めたメンタルケアおよびメンタルトレーニングは不可欠であり、各組織にその専門家がいたほうが望ましいと感じます。その存在は個性的な選手の育成、人間形成に多大なる貢献をすると思います。

 打撃、守備、投球練習で幼い頃に反復したものは脳と神経がしっかりと記憶しているものです。ひたすら数をこなすなど非科学的な練習方法が主流だった頃と今は異なり、正しい身体の動きやプロのプレーは専門書だけでなく、映像等でも知ることができます。子どもたちにはどんなことにもまずはトライするという勇気や行動力が必要で、指導者には正しいことを上手に伝え続ける愛情と知恵を持つことが求められます。

 情報社会にもメリットとデメリットがあるようにも感じます。簡単に手に入る卓上の知識が人間の頭と足を止めるように、過度な情報は子どもたちの行動力を鈍らせます。育っていくには、また育てるには、知恵と創意工夫がポイントになるでしょう。特に指導者の方々には野球界に固執することなく他のスポーツの指導者、他方面の指導者との交流をお勧めしたいと思います。

 私事で恐縮ですが、2010年に宇津木妙子総監督と宇津木麗華監督率いる(ルネッサンス高崎の)ソフトボールチームに密着させていただいたことがあります。まさに愛情に満ち溢れ、正しいことを上手に伝え、女性という特性を見事に捉えた正しいプログラム、理に適った指導、練習に感動したことをよく覚えています。練習は嘘をつかないのではなく、正しい練習は嘘をつかないと改めて実感させられた瞬間でもありました。もちろん、宇津木監督、選手、チームは沢山の時間を費やしてここに至っています。「ローマは一日にしてならず」、結果は必然ではありますが、どうか指導者の方々も支援者の皆様もプロセスを最大限大切にして頂き、厳しくも心からの温かい思考、視点で選手、チームを見守っていただくことをお願いしたいと思います。

現代の子どもたちの身体的特徴とは、多くのスポーツを経験することの重要性

 最近は足の指が自由に動かない、足の裏を利用してしっかりとバランスが取れない、足首が非常に硬いなどの身体的特徴がある選手が多くなっています。これは生活環境、生活様式によるところが多分にあります。いわゆる現代の子どもたちの傾向だと言えるでしょう。どうか子どもたちには多くのスポーツを経験してほしいと思います。相撲は多くのことを教えてくれるし、バスケットのトレーニングは野球の技術習得に役立ちます。テニスも同様でゴルフはアクチュアルタイムが野球と非常に似ていて間の使い方も学ばせてくれます。野球では使わない筋肉や神経、脳、視覚等を養うことができるのです。こういった時間によって独自のマインドコントロールスキルが身に付き、強い選手、強い人間に成長させてくれる要因になります。

 ルール、マナーの重要性を自らの経験から学び、心身の免疫力を高める準備をしておくことで、崩れた時に自分で立ち直れる選手、人間となるでしょう。我々はそこを目指したいと思います。選手の力量に差はあっても人間としての差はありません。平等に向き合い、限りない愛情を込めて接することが重要です。今、注目されていない小さなチームも同様であると確信しています。

 経験は財産ではあるが全てではありません。経験に頼らず経験を活かし、選手と共に成長するという柔軟で謙虚な思考を我々指導者ももたなければなりません。

 野球は他のスポーツ同様に非常に興味深く楽しめる競技ですが、一方で最も多くのミスが含まれながら進行するスポーツと言えます。失敗の先に成功があり、勝利だってあります。ミスをしてトライすることを止めた時を失敗と言うのだと思います。沢山の失敗が大きな成功を生むという思考を指導者、選手ともに持ち、子どもたちには心から野球を楽しんでもらいたいと思います。U-12を含め侍ジャパンの組織が全てのスポーツ少年、全てのスポーツチームの目標になることを切望してやみません。

◇森脇浩司(もりわき・ひろし)

1960年8月6日、兵庫・西脇市出身。55歳。現役時代は近鉄、広島、南海でプレー。ダイエー、ソフトバンクでコーチや2軍監督を歴任し、06年には胃がんの手術を受けた王監督の代行を務めた。11年に巨人の2軍内野守備走塁コーチ。12年からオリックスでチーフ野手兼内野守備走塁コーチを務め、同年9月に岡田監督の休養に伴い代行監督として指揮し、翌年に監督就任。監督通算成績は341試合202勝193敗11分け。178センチ、78キロ。右投右打。

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