「違いを言い訳にしちゃダメ」― 高橋尚成氏が語る世界との戦い方

2016.10.10

国際大会を迎えると、必ず取り沙汰されるのが「ボールの違い」や「マウンドの違い」だ。昨季をもって引退するまで、日米両球界で活躍した高橋尚成氏も「違いはある」とした上で、野球というスポーツを世界により広く普及させるためにも、根本的かつ大胆な提案をする。

写真提供=Full-Count

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国際大会で必ず浮上する問題―「ボールの違い」

 野球日本代表「侍ジャパン」は11月10日から13日にメキシコ代表、オランダ代表と強化試合を行う。世界一奪還に向けて、着々と準備を進める侍ジャパンだが、国際大会を迎えると、必ず取り沙汰されるのが「ボールの違い」や「マウンドの違い」だ。実際に、国際大会で使用される基準に近いメジャー公式球と、NPBで使用される公式球には、違いがある。日本からアメリカへ移籍した投手も直面する課題だが、果たして克服できない問題なのだろうか。

 昨季をもって引退するまで、日米両球界で活躍した高橋尚成氏も「違いはある」とした上で、野球というスポーツを世界により広く普及させるためにも、根本的かつ大胆な提案をする。読売ジャイアンツで10年間活躍した後、メッツやエンゼルスをはじめアメリカで4年間プレー。マイナー契約から開幕メジャーを勝ち取り、先発から抑え、ロングリリーフなど、さまざまな役割を引き受け、通算14勝12敗10セーブ、防御率3.99を記録した。正確なコントロールと多彩な球種を駆使した投球スタイル、環境や役割の変化にも柔軟に対応した適応能力の高さは、アメリカでも高く評価された。その高橋氏が考える「違い」への対処法、そして国際大会で侍ジャパンに期待することとは――。

――侍ジャパンが国際大会を戦う時、必ずと言っていいほど話題になるのが、ボールの違いです。国際試合で使用されるメジャー公式球とNPB公式球とでは、革の質だったり、縫い目の高さだったり、指の掛かり具合だったりが違うと言われますが、高橋さんがメジャーに移籍した時、ボールの違いには気付きましたか?

「もちろん、違いはありますよ。でも、それを言い訳にしちゃダメ。最初から『違うもんだ』と思った方がいいですね。僕がメジャーに行った時も、『ボールは違って当然』と思ってプレーしていたから、気にならなかった。ボールが滑るとか、その違いばかりを気にしてしまって、自分で自分を追い込むような状況を作っちゃダメだと思うんです。滑らないような投げ方をしてみても、実際は滑ったりする。だから、僕はもう『アメリカのボールはこういうもんなんだ』って割り切ってやっていました」

高橋氏が提案する「全世界共通のボール」

――違いに疑問を抱くのではなくて、違いを受け入れてしまった方が対処しやすいのかもしれません。

「そうですね。マウンドにしても、よく硬さや高さの違いが指摘されるけど『アメリカのマウンドはこういうもんだ』って、事前に思っておいた方がいい。ただし、繊細な人もいるでしょうから、その場合には、早いうちから自分がどういうことをするべきか見つけた方がいいですよね。例えば、侍ジャパンに選ばれそうな選手は、代表入りが発表される前から、自分でボールを見たり触ったりしておくのは重要だと思います。早くから違いが分かっていれば、それほど苦労するものではない。侍ジャパンに選ばれるレベルの投手だったら、前もって準備ができれば対応できると思います。そうは言っても、そもそもボールが違うこと自体がおかしいと思うんですよね。国際大会を見据えて、全世界でボールの質を揃えればいいんじゃないかと」

――確かに国際大会で使われるボールとNPBで使用されているボールが一緒だったら、問題にはなりませんね。

「例えばサッカーにしても、他のスポーツにしても、国際試合で使う道具と日本で使っている道具は、そう大きく変わらないと思うんですよ。野球の場合、どういうわけか毎回国際大会になると、ボールの違いが話題になる。だったら、選手のことを考えて、全世界共通のボールを作ってもいいと思います。2020年には東京オリンピックで野球が正式種目に復活する。そこに向けても、日本やアメリカや他の国も交えて話し合って、全世界共通の公式球を作った方がいいような気がしますね」

――野球を世界に広く普及させる意味でも、世界共通の公式球を作るのは名案かもしれません。

「選手のことを思ったら、ボールの違いに慣れる慣れないっていう問題は、野球の根本からズレているような気がするんですよ。そんなことの違いではなく、国や地域の色が出た戦術だったり技術だったりの違いについて追究して話をするんだったら、それは素晴らしいこと。アメリカの●●という選手がこんなプレーをした、日本の××という投手がこんな球を投げた、ドミニカの△△という選手がこんなホームランを打ったとかね。違いはそういうところで話題にすればいいわけで、ボールやマウンドの違いが話の中心になっていては、野球の根本からズレてしまっていますよね」

「各国のトップレベルでやっている野球や成績は、均等に認められるべき」

――確かに、そういった話題で、選手の才能や技術そのもの、あるいは勝負の駆け引きの妙から注目が逸れてしまってはもったいないですね。

「日本の投手陣は、世界で十分に戦える力があると思うんですよ。だからこそ、もったいない。国際大会は、日本の野球は世界でも通用するんだ、ということを証明できる場所。日本の野球は決してレベルの低いものじゃないんだって言える場所。イチローさんが日米通算安打数で、ピート・ローズの持つメジャー最多安打数を超えた時、アメリカでは『日米合算は認めない』っていう声もあった。そういうことも含めて、日本はこれだけすごいんだっていうのを、世界に知らせるチャンスでもある」

――日本のプロ野球は決してマイナーリーグと同じではない、と主張するいい機会になりますね。

「そうやって胸を張って言えるような野球を見せられれば、素晴らしいことだと思います。プロフェッショナルである以上は、その国のトップレベルでやっている以上は、アメリカだろうが日本だろうが韓国だろうが、プロはプロ、という考えを持っている方がいいんじゃないかって。アメリカだけじゃなくて、日本にも言えること。もしかしたら『日韓の合算は認めない』って言う人がいるかもしれない。そうじゃなくて、プロフェッショナルでやっている以上は、アマチュアやマイナー、2軍ではなくて、各国のトップレベルでやっている野球や成績は、均等に認められるべきだと思います。もちろん、日本には認められるだけの野球があるわけだから」

――侍ジャパンは2013年から小久保裕紀監督にトップチームを任せ、世界一奪還に向けて着々と準備を進めてきました。

「世界大会に対する日本の力の入れ方を世界に披露するいい機会。これだけ長い時間をかけて準備を進め、完璧に勝ってみせるっていうのも、日本らしくていいんじゃないかっていう気がしますね。世界を相手に、日本がパワーとスピードを武器にするのは難しい。ピッチャーで投げ勝ったり、守備で守り勝ったり、足を使える選手を入れて機動力や戦術で勝ったり。この4年間、小久保さんは万全の体制で日本の特徴を生かす野球をする準備を進めてきたわけです。そうなると、やっぱり、侍ジャパンに選ばれたら、選手は負けちゃいけないっていうプレッシャーが大きいと思う。僕も大学の時に日本代表になった経験はありますけど、あの時はそんな責任感はなかった(笑)。侍ジャパンに選ばれて戦うプレッシャーは大きいでしょうね。でも、小久保さんのことも考えたら、勝って世界一になって『お疲れ様でした』って送り出したい気持ちもあると思うんですよ。それが上手く働くことを期待したいですね」

【了】

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