世界2位に輝いた侍ジャパンU-15代表、鹿取監督が振り返る収穫と課題【後編】

2016.9.12

侍ジャパンU-15代表は今夏、初の日本開催となった「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ2016 inいわき」(7月29日開幕、福島・いわき市)に出場し、銀メダルに輝いた。チームを率いた鹿取義隆監督は若き侍戦士たちの戦いぶりをどう見たのか。また、準優勝という結果で何が見えたのか――。指揮官に話を聞いた。今回は後編。

写真提供=Getty Images

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今夏のワールドカップで銀メダル、若き戦士たちは何を得たのか

 侍ジャパンU-15代表は今夏、初の日本開催となった「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ2016 inいわき」(7月29日開幕、福島・いわき市)に出場し、銀メダルに輝いた。決勝戦でキューバに9-4で敗れたものの、前回大会(2014年メキシコ開催)の7位を上回る最高成績を達成。しかし、選手たちの中には悔し涙を流す者も多く、その姿こそが次のカテゴリーへの力になっていく。チームを率いた鹿取義隆監督はそんな若き侍戦士たちの戦いぶりをどう見たのか。また、準優勝という結果で何が見えたのか――。指揮官に話を聞いた。今回は後編。

――15歳ながら、選手たちは国際大会の厳しさ、難しさを体感したと思います。最初はあまり感情が出てこない選手が多かったと聞きましたが、最後は泣いている選手も多かった。変化はどの辺りから出てきたのでしょうか?

「7試合目で初黒星となった米国戦だと思います。7回まで2-2と競っていましたが、8回に2点を奪われた。四球で出した走者が次打者の三ゴロで二塁へスライディング。それが激しく、二塁手の田口(夢人)が体勢を崩した。そのまま投げた一塁送球が逸れ、その間に打者走者は二塁へ進んでしまった。そこから暴投と適時打で勝ち越された。

 日本チームの選手たちは、米国の選手がそういう気迫のこもった走塁をこんな場面でやってくるのかと思ったと思う。試合後、『悔しい』と言い出してくれた。これまで普通に勝ってきているから、悔しいと思える試合がなかった。前半は『こんなもんなんだ』と思っただろうし、余裕を持って勝っていたため、緊張感もなかった。だから翌日のパナマ戦(2-1で勝利)にいい影響が出ました」

――トライアウトでの選考時は守備と同時にバントの指導も徹底すると話されていましたが、実際にはバントは少なかった。当初のプランニングと変わったこと、逆に想定通りだったことを教えてください。

「アウト1つを簡単に渡すのがもったいないと感じたからバントをほとんどしませんでした。競ったゲームではバントは必要なことだけれども、実際、相手はストライクの入らない投手が多かったこともあって、得点を多く奪えた。相手投手を見た瞬間に大差のゲームになるなと予想がつく試合もあった。だから、どんどん打っていく流れにするにはどうしようかと考えていました。

 6戦目のベネズエラ戦からはそれまで3番を打っていた稲生(賢二)を2番に入れ、後半戦を戦った。パナマ戦では見事に本塁打も打ったし、はまった。バントを使わず、序盤に得点を取るためにはこれがベストだと考えました。日本代表メンバーはそれぞれ特長があった。そして適材適所なメンバーが集まっていた。誰を使おうか選手起用に迷うくらい能力の高い選手が揃っていました」

大会中にも徹底管理した「体重」、今後の成長に必要なことは

――3年前の大会では藤平尚真投手(横浜高校)をはじめ、作新学院の5番打者・藤野佑介内野手ら多くの侍ジャパンU-15代表メンバーが今夏の甲子園を沸かせませた。中でも藤平投手は侍ジャパンU-18代表にも選ばれました。今回のメンバーが次のカテゴリーでも代表入りするために大事なことは何でしょうか?

「エースの及川(雅貴)は140キロの速い球を投げていたし、体のバランス、フォームも良い。上のレベルでやっていける。元々、良いボールを持っていて、我々のような元プロの指導によってその素材が生き、さらに良くなる可能性もある。なので、及川だけでなくメンバーには今回教わったことを続けていってもらわないといけない。

 それは技術だけでなく、食事についてもそうです。食事に関しては7月の合宿初日でも専門家から教えてもらった。冊子も配られたりして、バランス良く、体を強くする食事方法を学んでもらいました。選手たちはそれを1度、持ち帰り、自宅などで実践したはず。再び大会で集まった時、食事会場で選手たちの食事を見たらみんなバランス良く、料理を選んでいた。『おっ! きちんとやってるな!』って思わず言ってしまうほど、うれしかったです」

――それだけこの世代の成長には食事が大きく関わってくるわけですね。それも過去に侍ジャパンを指揮されたからこその経験からですか?

「技術も大事ですが、食生活から変えていかないといけないと良い筋力がつかない。そうすれば体はできてくる。あと重要なのは大会期間中の体重の増減。今回の選手たちの体重は落ちていませんでした。朝、点呼を取った時に体重を量っていたが、プラスマイナス1~2キロの間で維持できていた。海外開催になると体重や食事によって、パフォーマンスが落ちることがあります。なので、2011年くらいから、食べることも重視してきました。

 今回のメンバーは筋力を落とさず、最後まで頑張れた。なので、やったことを持ち帰って、家や学校で継続してほしいし、それを広めていってほしい。選手1人からそのチームの20~30人に伝わっていってくれればいい。それがU-15世代の大きなテーマだと思う。技術だけではとてもじゃないけど、世界の強豪に立ち向かっていけない。体を強くしていってほしいです」

自国開催で最高の環境を提供、「ぜひ続けていってほしい」

――選手だけでなく、チームの指導者にも伝えていってほしい部分でもあると思います。やはり選手によって環境に違いは出てくるものでしょうか?

「各県でやっている野球が違う。ただ、メンバーが集まった時に同じ野球でみんなをくくらないといけない。そこに格差はあったかもしれません。正しいこと、基本は大事だなと改めて思いました。メンバーを集めてやる中で、大事になる基本というものがある。指導者の方々にはそれを子供たちに植え付けて欲しいと思います。基本の概念とは何かという話になってしまうかもしれないが、やらないとうまくならないことだと考えます。それがないと次のステップ、応用にはいけない。それをしっかりとおさえないといけない。

 例えば、無駄な動きをしないとか、守備の時にステップ&スローをやっていかないといけないとか。基本があって成り立っている。大事な基本は各ポジションにある。選手にはこれからも技術を吸収し、食生活を改善して、ケガをしない体作りをしてほしいですし、この侍ジャパンU-15代表に選ばれたことがキャリアハイであってほしくない。通過点として頑張っていってほしいです」

――これからも国際大会は続きます。良かった点と課題などがあれば教えてください。

「今回、非常に良かったのが宿泊施設。食事がバランス良くてよかった。どこの国も食べていたと聞きました。出場国の料理に応じると言っていました。すべてを確認したわけではないですが、キムチもあった。2014年大会の時も良かったですが、今回の方が遥かに良い。ぜひ続けていってほしい。そうすると選手たちの体型、体調が維持され、高いパフォーマンスにつながったり、やせたりしない。

 使用した球場も全て良かった。前回に比べると非常にいい環境のもとできたと思う。あとは大会での年齢の問題はあります。大会期間中に15歳であればいいので、誕生日の来る前の高校1年生の選手も出場ができます。日本は中学生でいこうということなので高校1年生はいません。しかし、他の国にはいました。1歳で変わるのかと言われるかもしれないが、この年代の1歳は大きい。でも我々は決められた条件で勝っていくしかない。その中で強いチームを作ろうと思っているのが私の考えです」(終わり)

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