気が重かった侍ジャパン選出「人間関係が…」 中日の“人見知り”左腕が得た収穫

2021.7.12

野球人生で初めて日の丸を背負うのに、どうも気が重たかった。「うわ、終わったなーって感じでしたね」。2018年11月に日本で開催された「2018日米野球」。中日の笠原祥太郎投手は、侍ジャパン選出の報を聞いた時から、不安に駆られていた。なにせ、自他ともに認める人見知り。待ち受けるのは、面識のない超一流プレーヤーたちが集う環境だった。

写真提供=Full-Count

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「2018日米野球」で初めて代表入りした中日の笠原祥太郎投手

 野球人生で初めて日の丸を背負うのに、どうも気が重たかった。「うわ、終わったなーって感じでしたね」。2018年11月に日本で開催された「2018日米野球」。中日の笠原祥太郎投手は、侍ジャパン選出の報を聞いた時から、不安に駆られていた。なにせ、自他ともに認める人見知り。待ち受けるのは、面識のない超一流プレーヤーたちが集う環境だった。

 追加招集でチームメートの佐藤優投手が代表入りしたが、発表当初は中日から唯一の選出だった。「選ばれたのはうれしかったんですが、人間関係が……」。メンバー表を見ると、そうそうたる名前が並ぶ。福岡ソフトバンクの柳田悠岐外野手、埼玉西武の山川穂高内野手、広島東洋の菊池涼介内野手……。「代表常連組の方々から『誰だコイツ』と思われるんじゃないか、と勝手に思っていました」。心持ちは、内気な転校生のようだった。

大学時代に急成長してプロ入り、転機となった2年目の活躍

 自身のキャリアを振り返ってみても、日本代表とは無縁だと思っていた。新潟・新津高校時代の最後の夏は2回戦敗退。「県ですら無名の選手でしたからね」。進学した新潟医療福祉大学で急成長を遂げてドラフト候補に挙がるようになったが、4年時に行われた「第40回 日米大学野球選手権大会」の選考会では落選した。それから、わずか2年後。「まさか、僕がなれるとは」。ドラフト4位で入団し、迎えたプロ2年目がひとつの転機だった。

 シーズン序盤は乱調続きで2軍降格も経験したが、1軍復帰した6月以降は見違えるような活躍をマウンドで続けた。7月以降は自身5連勝。直球の球速こそ140キロ前後だが、ブレーキの効いたチェンジアップでセ・リーグの好打者たちを手玉にとった。ローテの一角として6勝4敗。翌年への自信を備えた矢先に巡ってきたのが、侍ジャパンの舞台だった。

意を決して大瀬良投手と会話「どんな調整をやっているんですか?」

 案の定、野手陣とはろくに会話もできなかった。「若手のピッチャーとほんのちょっとしゃべったくらいです」。最も長く時間を過ごしたのは、千葉ロッテの成田翔投手。ここぞとばかりに、年下を頼った。ただ、せっかく選んでもらった貴重な機会。「優しそうだった」と判断した広島東洋の大瀬良大地投手とベンチで隣になった際、意を決して話しかけた。

「どんな調整をやってるんですか?」

「カットボールはどういう意識で投げてるんですか?」

 さして長い時間ではなかったが、その年の最多勝右腕は丁寧に返答してくれた。「ピッチャーの方々とはちょっとずつしゃべれるようにはなったので、何とかやっていけたという感じでしたね」。“最大の懸念事項”を乗り越え、収穫も得られたのは一安心だった。

日米野球直前の壮行試合で先発「足が震えて口の中がパサパサだった」

 もちろん、マウンドの上では別の緊張感に襲われた。日米野球の直前に行われた「ENEOS侍ジャパンシリーズ2018」のチャイニーズ・タイペイ戦で先発を任され、侍デビュー。「緊張がやばくて、足が震えました。口の中はパサパサだし、ストライクが入るか心配でした」。日本球界を代表する選手たちが後ろを守ってくれている中で、試合は壊せない。立ち上がり、ボールが先行して生きた心地がしなかったが、終わってみれば2回を1安打2奪三振で無失点。内心とは裏腹に、上々のスタートを切った。

 日米野球では、最終の第6戦に先発。壮行試合のおかげで平常心で登板でき、4回2/3を4安打4奪三振2四球で無失点の内容だった。メジャーの打者たちの反応を見て「チェンジアップは自信を持っていいんだな」と収穫を得た。一方で、厳しく内角をついた直球を力で弾き返され、球威やキレに課題が残った。

「ちゃんと抑えることができたのは何よりでした。自分がやるべきことも明確になったので、翌年のキャンプでも意識的に取り組むことができました」

プロ人生の崖っぷちで思い起こす成功体験「自信を持って…」

 2019年シーズンは自身初の開幕投手に。ブレークイヤーへの足場は固まっていたが、5月に不整脈の治療で入院を余儀なくされた。復帰を焦るあまり肘に負担をかけ、思うようにいかない制球に自信を削られていった。その年は1軍で8試合の登板にとどまり、3勝2敗、防御率5.71。コロナ禍の2020年は1軍登板なしに終わり、今季も開幕は2軍で迎えた。

 一転してプロ人生の崖っぷちにいる今こそ、成功体験を思い起こす時なのかもしれない。「メンタル面なのは分かっています。自信を持って、強気に投げることができれば」。いい方にも悪い方にも、短期間で風向きが変わる世界。“日の丸の教え”を繰り返し思い巡らせながら、マウンドで自分自身と向き合っている。

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