“最弱世代”から高校3年生の君たちへ 2015年U-18代表エースが贈るメッセージ

2020.8.10

2015年に日本で開催された「第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」。地元開催という地の利もあった侍ジャパンU-18代表は決勝まで勝ち進んだが、米国に敗れて2位に終わった。実質的なエースとして3試合に先発し、最優秀投手にも選ばれた佐藤世那投手(当時・仙台育英高校)は、「自分たちが一番レベルの低い代だった」と笑う。“自称最弱世代”が世界一へあと一歩まで近づけた理由、そしてわずかの差で栄冠を逃した要因は何だったのか。2年前にオリックスを戦力外となり、現在はクラブチームから再起を図る右腕が明かした。

写真提供=Full-Count

写真提供=Full-Count

仙台育英高で甲子園準優勝を飾った元オリックス・佐藤世那氏が振り返る2度の代表経験

 2015年に日本で開催された「第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」。地元開催という地の利もあった侍ジャパンU-18代表は決勝まで勝ち進んだが、米国に敗れて2位に終わった。実質的なエースとして3試合に先発し、最優秀投手にも選ばれた佐藤世那投手(当時・仙台育英高校)は、「自分たちが一番レベルの低い代だった」と笑う。“自称最弱世代”が世界一へあと一歩まで近づけた理由、そしてわずかの差で栄冠を逃した要因は何だったのか。2年前にオリックスを戦力外となり、現在はクラブチームから再起を図る右腕が明かした。

 佐藤投手が日の丸を背負ったのは、実は高校時代が2度目。宮城・秀光中学3年生の時、「第7回 BFA 15Uアジア野球選手権大会」に日本代表として参加している。インドで開催された大会は、当時中学生だった佐藤投手に大きな衝撃を与えたという。

「野球で行く初めての海外。現地では本当に大会ができるかどうか分からない状況で、日本では少年野球でも使わないような即席の球場で試合をしたんですが、試合中に何度も野良猫や野良犬が入ってきて中断になった。野球以前にその辺を牛やラクダが歩いてたり、日本人というだけで物やお金を求めて人が寄ってきたり。最初は怖かったですが、野球がやれるのも物に恵まれた生活ができているのも、全部当たり前のことじゃないんだ、と強く感じました」

 決して野球が盛んとは言えない異国の地で、それでも感じたのが野球の可能性だ。クリケットが主流のお国柄か、単に道具が行き届いていないためか。インドの選手のほとんどはグラブを使わず、素手でプレーしていた。

「僕、中学時代でも時速140キロくらいは出てたんですよ。それをインドの選手は素手で捕るし、足も速くて肩も強い。ちゃんと設備や環境が整った場所で野球をしたら、化け物のような存在になる身体能力の選手ばかり。何とか開催にこぎつけたような大会でしたが、あの時、大会を行ったことにはすごく大きな意味があると思うし、自分にとっても貴重な経験でした」

悲願の世界一にあと一歩と迫ってなお、拭えなかった他の世代への劣等感

 得難い経験をしたU-15から3年後の夏。強豪・仙台育英高校のエースとなった佐藤投手は、東北悲願の初優勝という期待を一身に背負い、甲子園決勝のマウンドに立った。結果は惜しくも準優勝だったが、その年のU-18代表ではエースに抜擢され、最大のライバルである米国戦に2度先発。予選では5安打完封で勝利投手となり、決勝では4回2失点で負け投手となった。

「移動のバスの中で前年までの大会の映像を見るんですよ。大谷(翔平)さんや藤浪(晋太郎)さんの年、松井裕樹さんと森友哉さんの年、安樂(智大)さんの年……。僕なんかがここにいていいのかなって(笑)。仮に1、2年早く生まれてたら、100%この場所には立てていない。甲子園は盛り上がったかもしれないけど、『オレらって、ぶっちゃけレベル低いよな』と、みんなで話していました」

 他の世代に対して劣等感を抱きつつも、結果的には決勝以外は全勝して準優勝。自国開催、他国のレベル、様々な要因はあったが、好成績を残した理由の1つに挙げるのはチームの雰囲気の良さだ。

「これは本当にいい関係だったと思います。甲子園の盛り上がりもあるかもしれないけど、小笠原(慎之介)もオコエ(瑠偉)も清宮(幸太郎)もみんなキャラが濃くて、(代表監督の)西谷(浩一)さんも『みんなが分かるように、大阪桐蔭のサインで行くからな!』とか冗談を言って(笑)。楽しんでやれたことが強さだった半面、最後の最後で戦う姿勢が足りなかったことが敗因かもしれません。でも、負けたら終わりのトーナメントというプレッシャーとは別に、純粋に野球を楽しむことで個々の力を発揮できていたと思います」

佐藤氏から高校3年生に贈るメッセージ「まずは目の前の野球を…」

 甲子園が中止となった今年は、当初の予定から約3か月遅れの12月に「第13回 BFA U18アジア野球選手権大会」が開催される。何から何まで例年とは異なる状況の中、最も懸念されるのは大会前に行われるドラフトの影響だという。

「ドラフトが終わった後という状況がチームにどんな影響を与えるか。誰がプロ入りするとか、ドラフトの順位が何位だとか、絶対に意識すると思うんです。指導者も指導者で絶対に怪我はさせられないし、上位指名の選手が活躍できなかったら指名した球団のファンはガッカリするかもしれない。今までと違ったやりづらさはあると思います」

 それでも「そういうプライドやライバル意識みたいなのは(選手はみんな)内心、絶対あると思うし、むしろなければダメだとも思う。いい意味で刺激や活力に変えて、まだまだアピールの場なんだという気持ちでやってほしいですね」とエールを送る。

「僕はメンタルが強くないので、今の高校3年生の立場だったら、大人のことも高校野球のことも嫌いになっていたと思います。でも、代替大会が開催される中、甲子園とか勝ち負けとは関係なしに、純粋に野球が楽しいと感じる瞬間もあると思う。こういう状況になったことを恨むなら、それは試合が終わった後でもいい。まずは目の前の野球を全力で楽しんでほしいですね。今まで当たり前だった甲子園がない今年、それを乗り越えた選手は絶対に強いですよ」

 悲願の世界一に肉薄した“最弱世代”のエースは、甲子園のない悲運の世代の台頭を願っている。

記事提供=Full-Count
写真提供=Full-Count

NEWS新着記事