W杯は4位、侍ジャパンU-15代表が実感した日本の長所 世界のパワーへの対抗手段とは…
8月10日から19日にかけてパナマのダビ、チトレで行われた「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」。アメリカの初優勝という形で幕を閉じた大会で、清水隆行監督率いる侍ジャパンU-15代表は3位決定戦でチャイニーズ・タイペイに敗れ、準優勝した2016年の前回大会に続くメダル獲得はならず。出場12か国中4位で大会を終えた。
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2大会連続メダルはならず、U-15W杯は12か国中4位で終了
8月10日から19日にかけてパナマのダビ、チトレで行われた「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」。アメリカの初優勝という形で幕を閉じた大会で、清水隆行監督率いる侍ジャパンU-15代表は3位決定戦でチャイニーズ・タイペイに敗れ、準優勝した2016年の前回大会に続くメダル獲得はならず。出場12か国中4位で大会を終えた。
滑り出しは順調だった。日本はチトレで行われたオープニングラウンド初戦でオーストラリアに4-2で勝利。2戦目のオランダにも11-1で圧勝した。だが、大会2連覇中だったキューバには序盤に7失点し、7-9で惜敗。それでも、続くドミニカ共和国を13-7で下すと、南アフリカを20-0の5回コールドで下し、4勝1敗のB組2位でスーパーラウンドに進出した。
オープニングラウンド終了翌日、移動日にバスで約4時間かけてダビに移動した選手たちは、16日からのスーパーラウンドでは、A組のオープニングラウンドを突破したチャイニーズ・タイペイ、パナマ、アメリカと対戦。チャイニーズ・タイペイには5-2で勝利したが、地元の大声援を受けたパナマに3-7で逆転負けを喫すると、決勝進出をかけて臨んだアメリカ戦でも2-8で敗れた。
スーパーラウンドは、オープニングラウンドを突破した同組の2チームとの対戦成績も加え(日本の場合はキューバとドミニカ共和国)、計5試合の勝敗で争われる中、日本は2勝3敗。チャイニーズ・タイペイ、キューバとともに並び、当該チーム同士の対戦成績でも1勝1敗で並んだが、得失点率で日本とチャイニーズ・タイペイが3位決定戦に進出。だが、アジア対決となった3位決定戦で日本は3-6で敗れ、最後は3連敗となり、2大会連続のメダル獲得を逃した。5連戦の後、移動日をはさんでの4連戦というハードな日程は、多くの選手にとって初めての経験だった。
スーパーラウンド最終戦で力尽きた。勝てば決勝進出の可能性も十分にあった18日のアメリカ戦は、体格差で勝る相手に完全にパワーで圧倒された。8失点の多くは、外野の頭上を越えられてのもの。打線も持ち前の犠打や足を絡めた機動力野球を展開することができず、140キロ前後の直球を投げるアメリカ投手陣の前に2安打に封じられた。アメリカは平均身長184センチ、平均体重81キロ。一方、日本は平均身長174センチ、平均体重69キロ。身長10センチ、体重12キロの差は、両チームのパワーの差にも反映された。翌日の3位決定戦でも敗れると、何人かの選手たちは試合後、悔し涙で目を真っ赤にした。
成績に表れた日本の長所と課題
数字面では、日本の特徴が表れる結果となった。日本のチーム打率はアメリカに続き、出場12か国中2位の打率.313。本塁打は同4位の2本だった。盗塁は1位の18個で、犠打は3位タイの5つ。特にオープニングラウンドのドミニカ共和国戦では、選手たちの次の塁を狙う姿勢が光った。7月の国内合宿では、現役時代に代走のスペシャリストとして活躍した鈴木尚広臨時コーチから次の塁を狙うことの大切さを叩き込まれ、その教えが結果につながった。
清水監督は「当初目標としていた(優勝という)ものとは違った形になり残念だが、選手たちは慣れない連戦という厳しい環境の中で立派に戦ってくれた。この経験は必ず大きな財産になると思うので、次のステージで生かしてほしい。こういう形にはなったが、決して埋められない差ではない。1つ1つのプレーの精度を上げていけば埋められると思うし、埋めていかないといけない」と話す。課題は「技術すべて」で「走攻守、そしてそれ以外のワンプレーでの意識」だと指摘。指揮官は「走塁でもまだまだ危なっかしいところもあるし、技術的な部分だけでなく考え方もそう。思い切りフルスイングでいっていいケースなのか、自分を押し殺してでも何とか(チームバッティングを)しなくてはいけないのか、そういう状況においての判断についても、今後勉強していかないといけない」と話した。
一方、投手陣は12か国中5位となる防御率4.04。3位のブラジルは2次リーグを下位リーグで戦っており、日本は実質4位だが、四球はスーパーラウンドに進出した6チームの中で5番目に多い32個。一方、計8回2/3を投げた秋山恭平投手(筑後サザンホークス)が14奪三振、計5回2/3を投げた畔柳亨丞投手(SASUKE名古屋ヤング)が10奪三振を記録するなど、チーム奪三振は12か国トップの65個。またチームの失策数はキューバの5、パナマの7に次ぐ同3位タイの9だった。
投手陣について清水監督は「無駄な四球が多く出た。それが実際の失点につながっている。ボールの精度を上げていくことも大事だが、(課題は)打者と勝負するというところ。出してもいい四球もあるが、この大会では無駄な四球が多かった」と分析。高橋尚成投手コーチも「こういう長い連戦を選手たちは経験したことがなかったかもしれないが、最後の3試合で打ち込まれたのは反省しないといけない。疲れも見えたし、球数制限の縛りがある中でやらなければいけなかったが、それが上手く機能しなかった」と振り返り、「高校になれば大事な試合をもっと経験するだろうし、これを糧にしてほしい」と話した。
初回の失点も目立った。日本は3位決定戦を含めた計9試合中5試合で初回に失点。うち3試合は相手の先制点であった。高橋コーチは「すべて後手後手に回ってしまったのも1つの原因になった。基本は先制、中押し、ダメ押しができていいゲームになるだろうし、先制や逆転を許すとなかなかうまくいかない。もう少し相手を見ることもできただろうし、(国際試合で)審判の癖も掴みながらやらなくてはいけなかったのかなと思う。選手たちは見た目や体は大人でも、気持ちはまだまだ子供」とする一方、選手たちのポテンシャルは高く評価。「ここにいる子たちはプロに近い子たちかもしれない。精神的に安定してきたら(結果にも)つながってくると思うし、そうなればかなり高いレベルになる。怪我に気をつけて、次のステップでさらなる活躍をしてほしい」とエールを送った。
もちろん、こうした課題もあったが、実際に戦った選手たちに手応えがなかった訳ではない。主将の池田陵真捕手(忠岡ボーイズ)が「アメリカ、パナマには力の差で負けたが、(世界との差は)力の差だけ。技術面は日本が勝っていると思うし、他では負けていない」と話したように、犠打や走塁面では他の出場国より現時点でレベルが高いことを証明し、打撃の技術でも劣っていないことを見せつけた。
ベストナインには二塁・福原とDH・杉下が選出
ベストナインには、二塁で出場した福原聖矢捕手(安仁屋ヤングスピリッツ)と、DHで出場した杉下海生内野手(泉佐野リトルシニア)の2人が選ばれた。福原はチーム唯一の中学2年生ながら、2番としてつなぎの役割を果たし、打率.261、チーム2位の7打点、そして盗塁王となる5盗塁。守備でも何度も好プレーを見せ、攻守でチームを救った。「外国とのパワーの差を感じさせられたが、どうやっても外国の人にはパワーでは勝てないと思うので、日本人らしいスピードや柔軟さで相手を翻弄して勝っていくのが大事だと思う。1つ上の世代とできたのは僕しかいないので本当に幸せでした。メダルを取れなかったので喜びは半分以下だけど、打点がとれたのはよかった。もっといい選手になって、またこのユニホームを着られるように頑張りたい」と、4年後のU-18代表入りを目標に掲げた。
「9番・DH」としての出場が多かった杉下は打率.438、チーム最多の8打点、3盗塁。5割に迫る高い出塁率で、上位打線へのつなぎの役割を果たした。「監督からは8、9番で1番につないでいくように言われていた。塁に出ることが僕の役割だと思っていたので、何とか果たせたんじゃないかと思う。海外のチームにはパワーではまったく歯が立たないが、走塁や小技の犠打は日本の長所だと思うので、日本のスモールベースボールをもっと生かしていきたい。チーム一丸となって点を取った時は嬉しかった。ここで味わった悔しさや楽しさを忘れずに、この先につなげていきたい」と、胸を張った。
多くの選手にとって初めての国際大会だった。チームスタッフは国内合宿から、打順やポジションが近い選手同士を同じ部屋にするなど、チームの絆が深まるように配慮してきた。そして14時間の時差を考慮し、どのチームよりも早い大会4日前の8月6日にパナマ入り。他国よりも早めに時差ボケを解消し、コンディション調整にも努めた。選手たちは宿舎で何部屋かに集まって積極的にコミュニケーションを取るなど、大会期間中にどんどん結束力も高めていった。日本とは違う食事や球場の環境、アクシデントも数々あった。山下二郎団長や清水監督は「日本と同じように事が進むとは限らない。何があっても驚かないようにしよう」と選手たちに話していた。厳しい環境の中で戦い、世界を肌で感じた異国での10日間。悲願の初優勝はならなかったが、この経験は、将来日本の野球界を担っていく選手たちにとって、必ず大きなプラスとなるはずだ。
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