米国代表メンバーを驚かせた日本が秘めるパワー「短絡的に考えるのは危険」
近年の野球界では、セイバーメトリクスが浸透し、トラックマンをはじめとする高性能計測器を用いたデータやスカウティングリポートが豊富に用意されるようになった。野球に科学的視点を取り入れることで、選手のパフォーマンスやチームの戦術に大きな変化が生まれているが、グラウンドで戦う選手や監督・コーチが最後に頼りにするのは、実際の体験であり経験だという。
写真提供=Getty Images
準決勝で決勝点につなぐ二塁打を放ったキンズラー内野手
近年の野球界では、セイバーメトリクスが浸透し、トラックマンをはじめとする高性能計測器を用いたデータやスカウティングリポートが豊富に用意されるようになった。野球に科学的視点を取り入れることで、選手のパフォーマンスやチームの戦術に大きな変化が生まれているが、グラウンドで戦う選手や監督・コーチが最後に頼りにするのは、実際の体験であり経験だという。
2017年、第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で優勝したアメリカ合衆国代表メンバーのイアン・キンズラー内野手(ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)も「百聞は一見にしかず」の立場をとる。3月21日、雨の中で行われた野球日本代表「侍ジャパン」との準決勝でも、その思いを強くしたという。
「日本の野球というと、細かい戦術を仕掛けてくるイメージがありました。戦前のスカウティングリポートでも、機動力には注意するように書かれていた中、もう1つ、パワーにも触れられていました。日本にも長打を打てるバッターはいる、と。実際に対戦してみて、そのリポートは正しかった、と納得したことを覚えています」
準決勝に「1番・二塁」で先発出場したキンズラーは、1-1の同点で迎えた8回に千賀滉大投手(福岡ソフトバンク)からセンターへフェンス直撃の二塁打を放った。これで1死二、三塁としたアメリカは、続くアダム・ジョーンズ(ボルチモア・オリオールズ)の三塁ゴロの間に1点を勝ち越し、決勝にコマを進めている。
「打った瞬間、これはホームランだ、と思いました」
キンズラーが日本のパワーを実感したのは、その直後、8回裏だったという。1点を追う侍ジャパンは、先頭の内川聖一外野手(福岡ソフトバンク)がライト前ヒット、2死から青木宣親外野手(東京ヤクルト)が四球を選び、2死一、二塁と同点の好機を作る。ここで打席に立ったのは、日本の4番・筒香嘉智外野手(横浜DeNA)だった。筒香が、アメリカ代表の6番手、パット・ニシェック投手(フィラデルフィア・フィリーズ)から放った打球は、勢いよく右翼スタンドを目指して飛び出したが、惜しくもフェンス手前で失速。ライトフライに倒れたが、この時、自身の頭上をもの凄い勢いで通り抜けた打球に、キンズラーは「やられた」と思ったという。
「打った瞬間、これはホームランだ、と思いました。あの日、雨が降っていなければ、逆転ホームランになっていた可能性は高いと思います。彼(筒香)が1打席目に打ったレフトへのライナーを見た時も、これはなかなかのパワーの持ち主だ、と思っていましたが、そこへきて、あのライトフライ。とても印象に残っています。
ただ、よく考えてみると、かつてニューヨーク・ヤンキースで活躍した松井秀喜さんも、メジャーで通用するパワーの持ち主でした。そして、今チームメイトの大谷翔平投手が持つパワーは桁違いです。大谷選手のパワーは、僕がこれまで見てきた選手の中でもトップ5に入るでしょう。そういったことを考えても、日本=スモールベースボールと短絡的に考えるのは危険だ、と思いました」
「日本の投手はレベルが高い。それはWBCでも変わりませんでした」
それと同時に、侍ジャパンが誇る投手力の高さも、打席の中で再確認したという。
「テキサス・レンジャーズでチームメイトだったダルビッシュ有投手、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手をはじめ、日本からメジャーにやってくる投手はみんなレベルが高い。それはWBCでも変わりませんでした。準決勝で先発した菅野智之投手(読売)には3打数無安打と手こずらされたのを覚えています。2番手の千賀投手から二塁打としたのは緩い速球だと思いますが、抜けたスプリットが落ちきらなかったのかもしれません。
いずれにせよ、WBCで2度優勝していた日本に、雨の準決勝で勝利したことは、アメリカチームに大きな自信を与えてくれました」
昨年11月に「ENEOSアジアプロ野球チャンピオンシップ2017」から始動した稲葉篤紀監督率いる新生侍ジャパンは、今年11月9日から15日まで「2018日米野球」を戦う予定だ。「スピード&パワーを実現できるチーム作り」を目標に掲げる稲葉ジャパン。メジャー選抜チームを相手にどんな戦い方を見せ、どんな印象を植え付けるか。今から楽しみだ。
【了】
記事提供=Full-Count
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次回:6月25日20時頃公開予定