ワールドカップ6連覇へ――侍ジャパン女子代表・橘田監督が重視する「対話」の意味

2018.5.28

8月22日からアメリカ・フロリダ州で開幕する「第8回WBSC女子野球ワールドカップ」。ディフェンディングチャンピオンとして、6連覇を目指す侍ジャパン女子代表を率いるのは、野球日本代表史上初の女子監督となった橘田恵(きった・めぐみ)監督だ。トライアウトも合宿も眠れませんでした」と責任の重さを感じながら、「監督も緊張をするんだよっていうことは選手に伝えてもいいと思うんです。ただ、その緊張に押し潰されるよりは、いかに楽しめるかという方法を見出していきたい」と肩肘張らぬ姿でチームをまとめる。

写真提供=Full-Count

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「私の野球にはめていくんじゃなくて、個々のいいところを生かしたい」

 8月22日からアメリカ・フロリダ州で開幕する「第8回WBSC女子野球ワールドカップ」。ディフェンディングチャンピオンとして、6連覇を目指す侍ジャパン女子代表を率いるのは、野球日本代表史上初の女子監督となった橘田恵(きった・めぐみ)監督だ。155センチと小柄ながら、学生時代には男子と共にプレー。さらなる可能性を求めて渡ったオーストラリアでは女子硬式野球リーグでプレーし、全豪大会でMVPに輝くなど、野球道を突き進んできた。

 普段は履正社医療スポーツ専門学校と履正社高等学校で女子硬式野球部を監督として率いる。「野球が好きすぎて、寝ても覚めても野球です」と屈託のない笑顔を浮かべる指揮官だが、侍ジャパン女子代表の監督就任はまったく想定外だったという。世界野球ソフトボール連盟の技術委員を務めながら、女子野球をどう盛り上げるか考えていた矢先に突如任された大役。「トライアウトも合宿も眠れませんでした」と責任の重さを感じながら、「監督も緊張をするんだよっていうことは選手に伝えてもいいと思うんです。ただ、その緊張に押し潰されるよりは、いかに楽しめるかという方法を見出していきたい」と肩肘張らぬ姿でチームをまとめる。

 6連覇を目指すチームで何よりも大切にしたいのは、コミュニケーションの在り方、だ。「短期のチームだからこそ、監督、コーチ、選手の垣根なく意見交換ができる環境を作りたい」という。

「選手一人一人違うモノを持っていますから、一番いいパフォーマンスを出せる環境にしていきたいですね。私の野球にはめていくんじゃなくて、個々のいいところを生かすために、どういう作戦が彼女たちにフィットしていくか。もちろん、こちらで戦術を用意しますが、選手にも自分たちで考えてほしい。試合で緊張した時に、自分で次のワンプレー、ツープレー、スリープレーの発想がないと、いいプレーは生まれないと思うんです。何事も全部が全部指示待ちだと。

 例えば、私がバントのサインを出した場面でも、選手から『あそこはエンドランの方が私の足を生かせたと思います』という意見があれば、どんどん言ってほしい。私は選手からそんな話があっても、怒るタイプじゃありません。お互いにしっかりと意見交換をすることでチームはレベルアップするし、結束力も高まる。淡々と目の前の試合をこなすだけじゃなくて、1試合1試合レベルを上げて決勝へ進むためには、話を聞くだけじゃなくて自分から意見を言えることも大事だと思います」

「コミュニケーションを取りながら選手のいいコンディションを引き出す」


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 4月25日に発表された20人の代表選手。里綾実(愛知ディオーネ)、川端友紀(埼玉アストライア)らワールドカップ経験者に加え、現役高校生3人を含む6選手が初代表入りした。「高校生には次世代のジャパンを引っ張って行ってもらいたい」と幅広い経験と年齢層からの選出になったが、その際に重視したのはスキルの高さに加え、「自分の考えがしっかり言える」ことだった。

 コミュニケーション能力を重視している背景には、自身の経験がある。2004年、さらなるレベルアップを求めてオーストラリアの女子硬式野球リーグに飛び込んだが、正直、英語はほぼ話せなかった。朝、所属チームの監督が「グッモーニン」とグラウンドにやってくると、日本人らしく帽子を取って礼をしながら「グッモーニン」と返したが、監督からは「おい、頭を下げる必要はない」と何度も繰り返されたという。

「最後の方になって、私が帽子を取らずに片手を挙げて『グッモーニン』って言ったら、監督は涙を流すふりをして『お前は日本の心を忘れたのか……』って(笑)。そんなやり取りを経験して、こんな形で監督と選手がコミュニケーションを取るのも素敵だなって思いましたし、そういう監督に野球の話をされると不思議とすんなり入ってくるんですよね。威圧するんじゃなくて、コミュニケーションを取りながら選手のいいコンディションを引き出す方法を学ばせてもらいました。もちろん、日本には日常生活からルールを守ることが普通だという良さがある。だから、いいとこ取りで(笑)」

 選手との対話と意見交換を大切にしながら、1試合1試合成長を遂げて世界の頂点へ――。6月28日から新潟で行われる強化合宿でさらに結束を強め、8月、アメリカの地へ乗り込む。

◇橘田恵(きった・めぐみ)
1983年1月5日生まれ、35歳。中学ではソフトボール部に所属し、高校では県立小野高校硬式野球部に練習生として所属。大学は仙台大学硬式野球部に所属し、女子選手ながら公式戦で1安打1犠打を記録。2012年から履正社医療スポーツ専門学校の女子硬式野球部「履正社レクトヴィーナス」監督就任。2013年の全日本女子硬式野球選手権大会において創部2年で全国制覇、初の女性優勝監督となる。2014年には履正社高等学校の女子硬式野球部創部に伴い監督に就任。創部3年目で全国高等学校女子硬式野球選抜大会優勝。

選手としてもオーストラリアのヴィクトリア州に野球留学、ヴィクトリア州代表、全豪の大会でMVPを取るなど国際的に活躍。

2011年から国際野球連盟(現在の世界野球ソフトボール連盟)のアスリートコミッション委員に就任。2012年、14年の女子W杯技術委員を務める。また、2016年の女子W杯では日本人女性初の大会技術委員長を務めるなど、選手、監督として女子野球だけでなく、男子野球や国際野球にも精通。

【了】

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次回:6月4日20時頃公開予定

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