1大会27奪三振の大記録 伝説のスライダー投手が見る侍ジャパンのエース候補
世界一奪還を目指して歩み始めた稲葉監督。その指揮官とヤクルト(現東京ヤクルト)時代にチームメートとして共に戦い、自身も日の丸を背負って日本のために戦った男がいる。現在、BCリーグ・富山GRNサンダーバーズで監督を務める伊藤智仁氏だ。1992年のバルセロナオリンピックでは主戦投手として1大会27奪三振の大記録を作り、銅メダル獲得に貢献。そんな伊藤氏に日本の武器や国際大会での戦い方について聞いた。
写真提供=Full-Count
バルセロナオリンピックで27奪三振、伊藤智仁氏が語る侍ジャパンと国際大会
野球日本代表「侍ジャパン」は3月3日、4日に行われた「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2018 日本vsオーストラリア」で、稲葉篤紀監督就任以降初めて年齢制限のないトップチームで挑んだ。結果は第1戦が2-0、第2戦が6-0と連続完封で2連勝。投手陣が存在感を放つなど、収穫が多い試合となった。
世界一奪還を目指して歩み始めた稲葉監督。その指揮官とヤクルト(現東京ヤクルト)時代にチームメートとして共に戦い、自身も日の丸を背負って日本のために戦った男がいる。現在、BCリーグ・富山GRNサンダーバーズで監督を務める伊藤智仁氏だ。1992年のバルセロナオリンピックでは主戦投手として1大会27奪三振の大記録を作り、銅メダル獲得に貢献。そんな伊藤氏に日本の武器や国際大会での戦い方について聞いた。
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伊藤氏は昨年、数回にわたり稲葉監督と会う機会があり、野球談議を重ねたという。
「2020年までは少し時間がありますが、重責を担うポジションですから、時間が経つにつれてプレッシャーもかかってきます。よく引き受けたなって話はしましたね(笑)。でも日本のトップ選手を自分の目で選び、指揮できるのは、彼にとってすごくいい経験になるし、将来にも必ずプラスになる。結果を気にせず自分のやりたいようにやっていけばいいと思います。稲葉監督とはヤクルト時代はロッカールームも隣だったし、本当に頑張ってほしいですね」
そうエールを送った伊藤氏は、「好青年ですし、野球に真摯に取り組みますから。あまり背負い込まずに、変なプレッシャーにならなければいいなと。やるのは選手ですから、最後は選手を信じてやればいい」と続けた。
自身、日本代表として日の丸を背負って戦った経験を持つ。150キロに迫る直球と、代名詞でもある高速スライダーを武器に、バルセロナオリンピックでは1大会27奪三振をマークした。当時は3大会連続のメダル獲得が期待され、大きなプレッシャーがかかる状況だった。なぜその大舞台で活躍することができたのか。
「マウンドに上がれば、変な気負いをせず、目の前の打者にだけ集中して投げるだけです。(アメリカとの)3位決定戦の時は一番プレッシャーがかかりましたが、マウンドに上がってしまえば、抑えるだけでした。メダルを途切れさせてはいけない思いもあったけど、思い切って腕を振るだけでしたね」
国際大会で感じたのはストライクゾーンの違い
国際大会ではボール、マウンド、グラウンドの違いに即座に対応することが求められる。その中でも伊藤氏が一番感じたのはストライクゾーンの違いだという。
「僕はスライダー投手だったので、どうしても右打者の内角直球を投げないとスライダーも生かせなかった。海外の選手は腕も長いし、力もあります。できるだけ踏み込ませないようにしないといけない。インサイドのストレートでストライクが欲しかったけど、自分の中でベストピッチの球をボールと言われば、投げる球がなくなってくる。そういう苦労はありました。アウトサイドにストライクゾーンがズレている感じですね。極端に言えば、ラインとベースの間ぐらいでもストライクを取ってくれる。そこを生かせばいいのですが、そういった練習はしていないので。そこは苦労しました」
一方、国際大会では“滑るボール”への対応も重要になってくるが、うまく操ることができれば日本にとって大きな武器になると伊藤氏は話す。
「ボールの変化も自分が思っている以上に曲がってくれる。そこをうまく生かせれば、有利に働いてきます。日本の投手陣の一番の武器は変化球のコントロール。直球も世界で劣っているとは思わないけど、変化球の低めへの制球は素晴らしい。失投が少ないのが日本の投手です。変化球でも簡単にカウントを取れるし、勝負球も間違うことはありません」
伊藤氏が考える侍ジャパンのエースは?
伊藤氏がそう話すように、日本の投手は世界でもトップレベルの実力を誇る。その中で、同氏が現時点で考える侍ジャパンのエースは誰なのか。
「やっぱり菅野(智之=読売)でしょうね。エースになるでしょう。真っすぐに多彩な変化球、そしてコントロールと安定感がずば抜けている。左だったら埼玉西武の菊池雄星。真っすぐの威力とスライダーにフォーク。世界でも十分に戦える力を持っています」
続けて同氏は昨年阪神で不振に陥った右腕の名前を挙げた。
「あとは藤浪(晋太郎)ですかね。去年は色々なところで悩んでいるのかなと感じましたが、持っているポテンシャルは素晴らしい。ちょっとしたことで吹っ切れると思っていますし、日本の野球を背負わないといけないものを持っている。頑張ってほしいです」
同氏が日の丸を背負った当時は選手全員がアマチュアだったが、現在は全員プロ選手で構成され、まさに日本を背負うトップチームだ。プロ、アマの違いはあるが、日本代表の誇り、プライドはどんな時代でも同じだ。伊藤氏はこうエールを送る。
「我々の時の日本代表とは少し意味合いは変わってきますが、いずれにしても日の丸を背負い、日本中の思いを受けてグラウンドに立つことに変わりはありません。プレッシャーは相当かかるけど、それは相手も同じこと。そこでいかに力を発揮できるか。今の日本の代表は世界でもトップレベルの集まりだと思っています。そのあたりのプライドを持っていけば、結果は出ると思います。稲葉監督にもいい結果を残してもらいたいですね」
【了】
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