“二刀流”六角彩子が描く女子野球とBaseball5の未来 普及・発展に向けてのカギとは

2025.5.19

2010年の初出場以来、WBSC女子野球ワールドカップ(前身大会を含む・以下W杯)に4大会連続出場し、日本の7連覇を繋いだ六角彩子選手(茨城ゴールデンゴールズ)は今、“二刀流”の道を歩んでいる。1つは女子野球の選手、そしてもう1つはBaseball5の選手/コーチの道だ。「好きなことを好きなだけやらせていただいているので、本当に充実しています。常に女子野球とBaseball5について考えていますね」と話す顔には、大輪の笑みが咲く。

写真提供=Full-Count

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女子代表としてW杯に4度出場、初出場した大会で首位打者&MVP

 2010年の初出場以来、WBSC女子野球ワールドカップ(前身大会を含む・以下W杯)に4大会連続出場し、日本の7連覇を繋いだ六角彩子選手(茨城ゴールデンゴールズ)は今、“二刀流”の道を歩んでいる。1つは女子野球の選手、そしてもう1つはBaseball5の選手/コーチの道だ。「好きなことを好きなだけやらせていただいているので、本当に充実しています。常に女子野球とBaseball5について考えていますね」と話す顔には、大輪の笑みが咲く。

 初出場となった第4回女子W杯では首位打者となる活躍で日本の優勝に貢献し、MVPに輝いた。個人賞は「ビギナーズラックもあった」と謙遜するが、この大会は今でも鮮明に思い出すことができる。舞台となったのは、野球大国として知られるベネズエラだった。

「当時はまだまだ女子野球の認知度が低かった。それなのに会場の客席は満員で、グラウンドにいる選手同士の会話が難しいくらい、すごく盛り上がっていたんです。『サインをください』と囲まれたり、バスに乗り込むのも警備員に誘導されたり、そんなビックリするような経験をしたんです。その時、スポーツ選手にとって自分がプレーするスポーツをたくさんの人に見てもらえることが一番の幸せだな、と強く感じました」

 その時から六角選手の心には「1人でも多くの女子野球選手に幸せを味わってもらいたい。会場を満員にできる競技にしたい」という目標が芽生えた。当時は18歳。「足が震えるほど興奮したというか、涙が出るくらいの感動というか。あの場で野球をしたという経験は、今でも自分のモチベーションになっています」と目を輝かせる。

女子代表が侍ジャパンとなり「『認めてもらえた』という感覚でした」

 選手として研鑽するかたわら、競技の普及にも尽力してきた。「先輩方からずっと引き継がれてきた女子野球の魅力を、みんなが1つになって大事に大事に育ててきた」結果として、学童野球の女子選手のための大会「NPBガールズトーナメント」の参加チームは2013年の第1回大会が30チームだったのに対し、2024年は46チームになるなど、目に見えて女子選手は増加している。

 同時に、日米で野球殿堂入りしたイチロー氏(シアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が2021年から毎年、高校野球女子選抜チームとエキシビジョンマッチを実施。2回目からは東京ドームが舞台となっている。夏の全国高等学校女子硬式野球選手権大会では、2021年から決勝が甲子園球場で開催されるようになった。

「今、高校生は東京ドームでも甲子園でも試合ができる。すごく環境が良くなってきて羨ましいですし、私も出たいくらい(笑)。高校での目標ができたので、中学でもなんとか野球を続けてみようという選手は増えたようです」

 こうした出来事に加えて、大きな追い風を受けたと感じたことがある。2013年、野球日本代表「侍ジャパン」に女子代表が加わったことだ。「『認めてもらえた』という感覚でした。侍ジャパンに入ったことで多くの方に見ていただく機会が増えましたし、野球界の一員になれた、そんな喜びはありました」と当時を振り返る。


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2024年にはBaseball5代表として侍ジャパン入り

 2016年を最後に女子代表から離れている六角選手だが、2024年に再び「侍ジャパン」入りする機会を得た。今度はBaseball5日本代表として、だ。

 Baseball5とは野球を原型とするアーバンスポーツで、2018年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)により考案された。手打ち野球の進化版でグローブもバットも使わない。使うのはゴムボール1つだけ。試合は5人vs5人、主に男女混合でプレーする。六角選手は競技の誕生当初より、日本で唯一のWBSC公認インストラクターとして競技の普及に務めてきた。

 2022年には初代の日本代表監督兼選手としてアジアカップで準優勝し、第1回ワールドカップでもキューバに続く準優勝。2024年の第2回アジアカップには選手として侍ジャパン入りし、見事優勝を掴み取った。自分でトスしたボールを狙った場所に打つBaseball5の魅力について、「戦略的なスポーツで、野球以上にチームスポーツの面白さやスピード感を味わえます」と話す。

 今年3月にはユース代表コーチとして「第2回ユースBaseball5アジアカップ」で日本を優勝に導いた。指導者の立場を経験して得た新たな視点は、競技者としてもメリットしかないという。

「指導者はコミュニケーション能力が大切で、プレーに対する伝え方、技術に対する伝え方、何か1つ取ってみてもすごく奥が深い。初めてボールを投げる人の難しさを感じるために、普段は使わない左手で投げてみて、どうしたら伝わるのか考えることもあります。自分自身のプレーの見直しにもなりますし、指導者として感じる難しさが自分のプレーにも生かされる。自分についての学びが深まりますね」

願ってやまない女子野球とBaseball5の普及・発展

 第一人者として携わるBaseball5では「世界で一番強い国になりたい」という思いが強い。

「私は結局、強い競技が普及すると感じています。普及活動と並行して、強化も大事にしないといけない。多くの人に知ってもらう活動をしても、来年のワールドカップで負けてしまっては本末転倒というか、魅力的に感じてもらえない。世界で輝く姿を見てもらうことが普及に繋がると思っています」

 では、もう1つの軸でもある女子野球では何を目標とするのか。

「やはり女子野球を会場が満員になるような競技にしたいですね。プレー面では選手たちがレベルを上げる努力を続けることが大事ですし、高校や大学の後も野球で頑張れば生活できるような環境作りもできたらと思います。もう1つは、ママさんバレーのような『ママさん野球』の立ち上げにも挑戦したいですね。家庭を持っても子どもができても、野球好きな女性が集まって楽しめる環境を作ってみたいです。野球経験者のお母さんってこれから増えると思うので、生活の息抜きになる場を作れたら、女子野球の普及だけではなく、野球界の発展にも繋がるかなと」

 頭の中にはアイディアが満載。常に女子野球とBaseball5について考えている時間を、少しずつ形にしていく。

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写真提供=Getty Images, Full-Count

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