WBC連覇を知る小笠原道大氏が送る井端ジャパンへのエール「頑張ってください、としか…」

2025.4.14

現役時代は北海道日本ハム、読売、中日でプレーした稀代の好打者・小笠原道大氏は、19年にわたるキャリアの中で世界一の称号を2度手に入れた。それが2006年と2009年の「WORLD BASEBALL CLASSIC™」(以下WBC)での連覇だ。2004年にはアテネで銅メダルを獲得するなど、日本代表として重ねた経験は多い。

写真提供=Full-Count

写真提供=Full-Count

個性の強いスター選手たちが一丸に「余計なことは言わなくても」

 現役時代は北海道日本ハム、読売、中日でプレーした稀代の好打者・小笠原道大氏は、19年にわたるキャリアの中で世界一の称号を2度手に入れた。それが2006年と2009年の「WORLD BASEBALL CLASSIC™」(以下WBC)での連覇だ。2004年にはアテネで銅メダルを獲得するなど、日本代表として重ねた経験は多い。

 代表として、期待やプレッシャー、使命、責任……様々な思いを感じながら国際大会で戦った経験は、自身のキャリアにどのような影響を与えたのか。「より周りを見るようになりましたね」と切り出し、言葉を続ける。

「『1人じゃないんだ。周りを頼ってもいいんだ』と、より強く感じました。みんなで目標に向かって取り組むので、上手くいかなくても周りが助けてくれる。逆に、難攻不落に見える高い壁に対しても、みんなで協力すれば乗り越えて、先に進められるんだ、という思いがより強くなりました」

 名だたるスター選手が勢揃いする日本代表チーム。選手たちは普段、敵としてしのぎを削る間柄であり、代表チームとしての準備期間は短い。ともすれば、強い個性がぶつかり合う心配も浮かんで来るが、それは杞憂に終わったという。

「私の現役当時は、今ほど他球団の選手同士がみんなで仲良く話をすることはありませんでした。加えて、昔はとにかくオリジナリティーの強い選手が多かった。キャラクターが濃いんですね(笑)。でも、みんな個性が突出しているにもかかわらず、最高のチームができあがる。トップ選手たちだからこそ、余計なことは言わなくても勝手に繋がってくるんです。それぞれが最高のプレーをするから、最高のチームプレーが生まれる。何も言わなくてもフォローしあえるんですね」

「自分にとって最高のプレーとは…」

 野球はチームスポーツではあると同時に、「個人プレーの集合体」だと小笠原氏は見る。逆説的に聞こえるかもしれないが、「全神経を集中させて自分にとって最高のプレーをすることは、仲間を思いやってプレーすることに繋がる」という。

「例えば、走者一塁の場面でスムーズに併殺プレーを完成させるために、打球を捕った三塁手は二塁カバーに入った選手の投げやすい位置にボールを投げます。自分にとって最高のプレーとは、続く選手が最高のプレーをできるようにすること。分かりやすい表現にすると『相手を思いやったプレー』となるわけです」

 こうしたトップ選手たちにとっての“最高のプレー”の連鎖が、2006年と2009年のWBC連覇を引き寄せた。そして、選手たちが最高のプレーを出せる環境を整えるため、力を尽くしてくれたチームスタッフの存在には感謝の言葉しか浮かばない。

「プロフェッショナルなスタッフたちが揃い、選手たちがストレスを感じにくくプレーできるように準備をしてくれるんですね。寝る間を惜しんで1人何役もこなすスタッフの姿を目の当たりにすると、彼らの思いを試合で表現したいという思いが沸いてくる。優勝してスタッフたちが喜ぶ姿を見たいし、頑張って良かったと少しでも思ってもらいたい。そんな思いが代表チームの結束を高めるのかもしれません」


写真提供=Full-Count

WBCは「出たいけど軽い気持ちでは出られない、というくらいの大会に」

 第1回大会から来年で20年を迎えるWBC。将来の目標として「WBC優勝」を掲げる子どもたちも少なくない。誰もが憧れる世界一決定戦の舞台について、小笠原氏は「出たいけど軽い気持ちでは出られない、というくらいの大会になってほしいですね」と願う。

「大げさかもしれませんが、それだけのプレッシャーを感じる、優勝を安請け合いはできない大会であってほしいと思います。心身ともに削られる大会であることは間違いない。これまで、WBCで見せた全力プレーの代償として怪我でNPBのスタートに出遅れた選手や、肩を痛めてシーズンを不意にした投手も見てきました。決していいことばかりではない、大変な場所であることは理解しておいてほしいし、それだけの責任もあります。ただ、それでもみんなが出たいと思うだけの魅力がある大会だということも感じてほしいですね」

連覇掛かる井端ジャパンへのエール「頑張ってください、しか…」

 2026年3月に開催される第6回大会では、井端弘和監督率いる侍ジャパンが連覇を目指す。周囲の期待が生み出すプレッシャーの大きさを知る小笠原氏は、出場チームの実力が拮抗する現状も鑑みながら「頑張ってください、しか言えません」と話す。

「前回(2023年)も勝負は紙一重だったわけで、どこが優勝するか分からない。代表ユニホームに袖を通した選手たちには『頑張ってくれ』としか言いようがない。『頑張ってください』『応援しています』『祈っています』……それ以上大きなことは言えませんよ。大袈裟だと思う人もいるかもしれませんが、実際に私はそのくらいの気持ちで取り組んだということです。器用な方でない、むしろ不器用だったので」

 選手が身を置く状況はそれぞれだ。だからこそ、一概に日本代表を目指すように背中を押すことはできないというが、小笠原氏自身は「後悔はなかった」と振り返る。

「こればかりは自分の意志。ただ、代表入りのチャンスがあれば、行って後悔は少ない気がします。少なくとも私はなかった。やはり頂点ですから、そこにしかない経験を積んで、自分の成長の糧にしてもらいたいですね」

 現役時代はもちろん、引退後に指導者という立場になってからも、日本代表で積んだ経験のおかげで「自分の幅が少し広がったかなと思う」と話す。選ばれし者しか味わえない特別な経験は、大切な大切な宝物だ。

記事提供=Full-Count
写真提供=Full-Count

NEWS新着記事