“辞め時”を探った日々から6年… 女子代表・楢岡美和をW杯初出場に導いた家族の言葉
7月28日から8月3日にカナダで開催される「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)。大会7連覇を狙う野球日本代表「侍ジャパン」女子代表に入った九州ハニーズの楢岡美和外野手は、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手と同い年の29歳だ。女子野球の第一人者が、紆余曲折を経て最高峰の舞台に立つ。
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“4年越し”のW杯開催「先輩方に恥じないよう絶対に7連覇を獲りにいく」
7月28日から8月3日にカナダで開催される「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」(以下W杯)。大会7連覇を狙う野球日本代表「侍ジャパン」女子代表に入った九州ハニーズの楢岡美和外野手は、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手と同い年の29歳だ。女子野球の第一人者が、紆余曲折を経て最高峰の舞台に立つ。
当初は2020年に行われる予定だったW杯。楢岡選手はメンバーに選出されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、大会は度重なる延期を余儀なくされた。そして、4年の月日を経た今年、ようやく侍ジャパンのユニホームを着て、世界一を目指す戦いに臨む。
「私にとって初めてのワールドカップ。先輩方が(大会)6連覇という素晴らしい記録を作ってくれたので、それに恥じないように少しでも貢献できればと思っています。絶対に7連覇を獲りにいきます」
楢岡選手が野球を始めたのは6歳の頃。地元東京の学童野球チームに入っていた4歳上の兄の存在がきっかけだったという。
「最初は私が野球をやるとは思っていませんでした。ただ単に(チームの)お茶当番に母が行っていたので、それについていって……。サッカーをやりたい気持ちもあったんですけど、最後はコーチにお菓子で釣られて始めた感じでした」
何気なく始めた野球だったが、のめり込むのに時間は掛からなかった。「他の男の子よりも体が大きかったですし、クリーンナップを打たせてもらったりして、本当に楽しくて」。その後は、全国的にも珍しい女子硬式野球部のある埼玉栄中学、高校へ進学。自宅から電車で2時間の長距離通学も「野球ができたので全然苦じゃなかった」と振り返るほど、無我夢中で白球を追いかけていた。
プロ入り当初は「すごく生意気」…人間的に成長できた“盟友”との出会い
高校卒業と同時に女子プロ野球の世界へ。当時18歳の楢岡選手は入団当時のことを笑いながら振り返った。「今思えば最初のころは調子に乗っていたなって。自分でも腐ってたなって思いますね」。中学、高校時代は野球部のチームメートとの関係もフレンドリーで、厳しい上下関係とは無縁の環境だった。「先輩への返事1つとっても『はーい』みたいな。すごく生意気な感じでしたね」という。
そんな楢岡選手にプロの姿を教えたのは、現在も九州ハニーズでともにプレーしている5歳上の川端友紀内野手だった。
「当時はチームでキャプテンをやっていて、あいさつの仕方から教わるくらい、本当に色々なことを教えてもらいました。他にも色々な先輩から練習方法を1つ1つ学ばせてもらって……。人間としてもすごく成長できたなと思います」
2016年には最多安打、最多本塁打のタイトルを獲得。同年から3年連続でベストナインに輝くなど、女子プロ野球が誇る強打の野手として活躍を続けてきたが、2018年シーズン限りで突如、引退を決断した。当時、24歳。女子野球界の先頭を常に走り続けてきた心中はいかなるものだったのか。
「いつ辞めよう、いつ辞めようって…」 人生の分岐点で踏みとどまった野球の道
「いつ辞めよう、いつ辞めようと、そういうのを探している自分も、いつからかいて。そんな中で『もう野球はいいかな』って本格的に思い始めたのが1番強いですかね。『辞めるタイミングって何がきっかけになるんだろう』みたいなことは色々な人が感じることだと思うんですけど……。私にとっての辞めるタイミングが、ちょうどその年だったんです」
当時、野球そのものを辞めようと思っていた楢岡選手。「将来をより考えるようになりました。野球じゃ食べていけないとも思ったし、でも野球しかやっていないので次の職はどうするの、みたいな」。人生の分岐点で、頭の中に浮かんだのは両親の存在だった。
「ずっと支えてくれていた親に『侍ジャパンを目指さないの?』と言われたんです。中学の頃からずっと憧れていた先輩も、当時の代表で活躍していて。ジャパンのユニホームを着た姿を見せられれば親孝行になるかな。だったら、代表入りを目指して頑張ろうかなと思いました」
プロ引退後は社会人野球の舞台に移り、2022年には盟友の川端選手とともに九州ハニーズを立ち上げた。様々な道のりを進んできた先にあったのが、侍ジャパン女子代表入りだった。
目覚ましい世界のレベルアップに「すごく楽しくなってくる」
昨年9月に行われたW杯予選「カーネクスト presents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB」は5戦全勝だったものの、キューバとベネズエラには先制を許し、終盤でなんとか逆転するという接戦を演じた。
これまで「世界1強」状態だった日本。各国のレベルアップに楢岡選手は「当然、勝つという視点では手強くなりますね」と前置きしつつ、「普及という意味では、すごくいいなと。野球に力を入れる国が多くなれば多くなるほど、(W杯が)すごく楽しくなってくると思うので。ワクワクする感じは久々じゃないですか」とW杯を待ちきれない様子だ。
「日本で女子野球が根付いているかと言われれば、まだまだです。だからこそ、こういう大きな舞台で面白さ、魅力を伝えていければいい。私にとっても、日本の女子野球にとっても大切な大会になるのは間違いないです」
様々な思いを胸に、日の丸を背負った29歳が世界に挑む。
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