「心に火がつきました」 女子代表・田中美羽を新たな挑戦にかき立てたW杯の経験

2024.4.22

2018年8月に米フロリダ州で開催された「第8回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(以下W杯)。野球日本代表「侍ジャパン」女子代表は9戦全勝で前人未到となる大会6連覇を飾った。決勝でチャイニーズ・タイペイに完封勝利した後、歓喜の輪の中に身を置いた田中美羽選手(現・読売ジャイアンツ)はある種の達成感を覚えると同時に、目の前に広がる新たなチャレンジに胸を高鳴らせた。

写真提供=Full-Count

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2018年に大学2年生で目標としていた女子代表に初選出

 2018年8月に米フロリダ州で開催された「第8回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(以下W杯)。野球日本代表「侍ジャパン」女子代表は9戦全勝で前人未到となる大会6連覇を飾った。決勝でチャイニーズ・タイペイに完封勝利した後、歓喜の輪の中に身を置いた田中美羽選手(現・読売ジャイアンツ)はある種の達成感を覚えると同時に、目の前に広がる新たなチャレンジに胸を高鳴らせた。

「自分としては最終的な目標だった代表に選出していただいて、世界で戦う体験もさせてもらって、自分の感情がどうなるのかと思っていたんですけど、結局、そこから新たなスタートになりました。自分の中では『(もう一段上の)野球がこれから始まる』って。もっと自分を磨いて、もっと自分のレベルを上げて、またこの代表ユニホームを着て戦いたい、と思える場所だったんです。心に火がつきました(笑)」

 読売の大ファンだった祖父や兄の影響もあり、6歳の頃から野球を始めた。男子と一緒にプレーしていたが、中学進学と同時に女子硬式野球チームのオール京急に入団。この時、初めて女子日本代表チームの存在を知り、「世界の舞台で戦う選手の姿を見て『あ、これになる!』と思いました」と振り返る。以来、横浜隼人高女子野球部でも、大学生になって参加した女子硬式野球チームのアサヒトラストでも、女子代表としてプレーすることを究極の目標として日々の練習に打ち込んだ。

 持ち味は50メートルを6秒6で駆け抜けるスピードだ。俊足を生かしたプレースタイルは、走攻守でチームを活気づける。2017年に行われた代表選考トライアウトでは右打者ながら一塁までの到達タイムは4秒24をマーク。全参加者トップの記録で初めての代表入りを手にした。


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目標の舞台で実感した「自分に全然足りていないもの」

 当時は大学2年生。W杯出場メンバー20人のうち6人が初選出だった。周りを見渡せば、里綾実投手(現・埼玉西武ライオンズ・レディース)や川端友紀内野手(現・九州ハニーズ)ら、憧れの先輩がズラリと並ぶ。「素晴らしい先輩方と一緒にプレーする機会を得て、さらに初めて世界大会という景色を見て、自分に全然足りていないものを実感することができました」。そう話す通り、凄いと言われる選手たちには、凄いと言われる理由があった。

「結果を出している人たちや高く評価される人たちは野球や練習に対する考え方や姿勢が違いますし、やるべきことを他の人以上にやっている。だから、自然と『自分ももっとやらなければ』と思うんですよね。一緒にプレーしている時だけではなく、離れていても意識したり刺激を感じる存在で、本当に学ぶべきことが多いです」

 コロナ禍の影響もあり、女子野球界では久しく国際大会が開催されていなかった。たびたび代表候補合宿などが行われていたが、2023年5月の「第3回BFA女子野球アジアカップ」(以下、アジアカップ)が4年ぶりの国際大会。日本は危なげなく優勝を飾り、同年9月に広島が舞台となった「カーネクスト presents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB」(以下、W杯グループB)も5戦全勝で本選進出を決めた。

 田中選手は両大会で主に1番打者として、試合の流れを日本にたぐり寄せる役割を担った。「本当に大事な役割だという思いはあったけど、少し悔しい結果になってしまった。他の選手に助けてもらった大会だったというのが自分の中にはあります」と唇を噛む。W杯グループBでは4試合に先発し、14打数3安打で打率.214。残念ながら、最終第5戦のキューバ戦では出場機会は巡ってこなかった。

 だが、この悔しさを“成長のためのスパイス”とポジティブに変換できるのが田中選手の強みでもある。「出塁率が一番求められるところ。ただ、世界大会ではストライクゾーンが少し変わる傾向にあるので、ヒットゾーンを広げたり、選球眼の質を上げたり、と意識しています」と積極的に課題にアプローチ。所属する読売では宮本和知監督や松本哲也コーチらにアドバイスを求めながら、試行錯誤の日々を送る。


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4年ぶりの国際大会で感じた世界のレベルアップ

 久しぶりの国際大会出場を経て、田中選手は世界のレベルアップを感じているという。事実、W杯グループBで日本はチャイニーズ・タイペイ、ベネズエラ、プエルトリコには2点差以内という僅差の勝利だった。加えて、カナダで開催されたW杯グループAの映像にも衝撃を受けた。

「グループAからは米国、カナダ、メキシコの3強が本選進出を決めましたが、動画を見るとやはりホームランを多く打っているし、打球の質やスイングスピード、ピッチャーが投げる球の速さなど、2018年に受けた印象とは違っていました。これは世界のレベルが上がっているな、と。それも踏まえて、本選まで期間が空いたことは準備期間ができたとプラスに捉えています。

 まだ代表メンバーは決まっていませんが、行く準備はしていますし、すごく楽しみ。どのスポーツを見ても、盛り上がるのは各チームの実力が拮抗している時。僅差の試合で勝負が決まる時こそ面白いし、盛り上がると思うんです。だから、もちろん日本が勝ちたい気持ちはありますが、同時にもっと世界のレベルを上げ、さらに他の国の参加数も増やし、世界全体として女子野球を盛り上げていきたいと感じています」

 これまでの女子野球界において、日本は圧倒的な強さを誇る“1強”だった。だが、決してその地位に甘んじることなく、国際大会の会場では試合後に発展途上のチームに対して技術指導をするなど、競技の普及とレベルアップに力を注いできた歴史がある。その積み重ねが今、少しずつ花開いている。

「先日ジャイアンツでニカラグアを訪問し、女子野球選手たちと触れ合う機会があったんです。言葉は通じないけれど、純粋に野球が好きという想いでコミュニケーションをとることができた。野球って世界の共通言語なんですよね。野球をやっているから出会える人も多くて、やっていて良かったと思いました」

 今年7月にカナダが舞台となる「カーネクスト presents第9回 WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」。日本の大会7連覇はもちろんだが、参加チーム、そして世界がいかにレベルアップしたかにも注目したい。

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