社会人代表・石井章夫監督が重視する「価値の発揮」 選手に勧める自分自身との対話

2023.9.18

野球日本代表「侍ジャパン」社会人代表が、10月1日から中国・杭州で開催される「第19回アジア競技大会」で1994年以来2度目の優勝に挑む。年齢制限のない“フル代表”としては、2018年の同大会以来となる大規模な国際大会。2017年から社会人代表を率いる石井章夫監督は、コロナ禍の影響を強く受けていた期間から始めた取り組みが、今回の大会でどのような結果として表れるのか、楽しみだという。

写真提供=Getty Images

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2018年に感じた台湾、韓国、中国のレベルアップ

 野球日本代表「侍ジャパン」社会人代表が、10月1日から中国・杭州で開催される「第19回アジア競技大会」で1994年以来2度目の優勝に挑む。年齢制限のない“フル代表”としては、2018年の同大会以来となる大規模な国際大会。2017年から社会人代表を率いる石井章夫監督は、コロナ禍の影響を強く受けていた期間から始めた取り組みが、今回の大会でどのような結果として表れるのか、楽しみだという。

 決勝で韓国に敗れて準優勝に終わった2018年のアジア競技大会。石井監督は「台湾、韓国、中国は元々パワーやスピードがある。それに加えて、野球のレベルがグッと上がっていることに気付きました」と振り返る。その理由は何かと考えた時、「彼らはメジャー=米国に目を向け、参考にしていた。だったら、米国野球を見てみようと視察に出掛けたんです」と話す。

2021年から始めた代表候補リストの公開と全国6か所でのジュニア合宿開催

 2019年秋にアリゾナで教育リーグを視察すると「米国野球はパワーとスピードだけではなく、テクノロジーを取り入れて、もっと進化していました」と驚かされた。日本の野球文化がさらに前進するためには「感覚」に頼るのではなく、テクノロジーやデータを利用した「可視化」が必要だと考え、まずは代表チームで取り入れることに。監督自らが旗振り役となり、社会人チームがそれぞれに持つ選手のデータを取得して公開。その一例が、2021年から始まった「侍ジャパン社会人PROSPECT PLAYERS LIST」の発表だ。

 社会人代表候補として期待される選手が並ぶリストには、投手であれば球速やボールの回転速度や変化率、打者であれば打球速度やスイングスピードなどのデータが併記されている。「プロに比べたらごく基礎的な数字」とは言うものの、メンバー選考の公正性が保たれるのと同時に、代表入りするために必要な能力やレベルが数値に示されることで「選手が自分で課題を見つけて解決する」効果も期待している。

 同じく2021年から社会人代表の登竜門とも言える「全日本ジュニア強化合宿」を全国6か所で実施。地区開催としたことで、延べ約180人の若手選手を合宿に招くことが可能になり、これまで見過ごされがちだった才能の持ち主を広く発掘できるようになった。

「自分の価値は過小評価しなくていい。勇気を持って生かしてほしい」

 こうした取り組みを経て臨んだ2022年の「第4回 WBSC U-23ワールドカップ」。出場した23歳以下の社会人代表チームは「チャレンジ」をテーマに見事、3大会ぶり2度目の世界一に輝いた。「対戦したメキシコや台湾が『日本はどうしたんだ』と驚いていたそうです。勝つためのスモールベースボールではなく、選手それぞれの個性や大きさの方にインパクトがあったようで、その評価は嬉しかったですね」。新たな取り組みの方向性は間違っていないと確認できた大会でもあった。

「大谷(翔平)選手があれだけ楽しそうに野球をする姿を見て、日本では野球をする子どもたちが増えたと聞きます。今や米国の子どもたちも大谷選手を目指している。大谷選手にはなれなくても、なりたいと思う人はどんどんパワーで攻めればいいと思うんですよ。吉田(正尚)選手だって、(ホセ・)アルトゥーベ選手だって、決して大きくはないのに実にパワフル。自分の価値は過小評価しなくていいし、勇気を持って生かしてほしい。代表はそうできる場にしたいと思っています」

アジア競技大会に向けた代表24選手「失敗を恐れずに挑戦する人たち」

 今年は「侍ジャパン社会人PROSPECT PLAYERS LIST」を基に代表候補メンバー39人を招き、6月に代表選考合宿を開催。その結果、8月9日に発表された24選手は、23歳から40歳という幅広い年齢層でバラエティ豊かな面々となった。選考基準について問われると、石井監督は「全員が成長のために失敗を恐れず挑戦する人たち。自分の課題を見つけて、自分で解決することを体現する人たちの集まりです」と自信をみなぎらせる。

「佐竹(功年)投手は40歳の今も、まだ成長している。僕が言う成長とは伸び代のことではなく、失敗の数です。挑戦して失敗して、また挑戦して……と繰り返すから成長が生まれる。40歳にもなれば失敗したくない気持ちが勝って、現状維持のまま挑戦しない人が多い。佐竹投手は新しい球種を覚えたり握りを変えたり、今も新しいことに挑戦して失敗を繰り返しています。失敗を恐れないから成長できる。それは田澤(純一)投手も一緒。若手に経験を伝えることを期待しているのではなく、2人とも成長し続けているから選びましたし、大事な戦力として考えています」

代表チームで求める「自分の価値を最大限に発揮すること」

 6月の代表選考合宿や8月の強化合宿で伝えてきたのは、「自分の価値を最大限に発揮してほしい」ということ。自分の価値とは何か。その答えを見つけるためには、自分自身と向き合うことが必要だ。自分をよく知るためにも、社会人代表では「1人たりとも同じウォーミングアップをすることはありません。自分で考えてもらうか、若手選手にはチームから与える。誰1人として同じ動きをしていないのが、今のジャパンの景色です」という。

「自分と向き合うことは本当に大切。だから、代表では励まし合いはいらないと思っています。凡打して帰ってきたところで、仲間に肩を叩かれて『次頑張ろうね』なんていうのはいらない。三振、エラー、3者凡退の好投……結果はどうであれ、真剣に取り組んでいる人には寄りつけない空気がありますよ。悔しかったらベンチで落ち込んでもふてくされてもいい。ただし、攻守交代でグラウンドに出ていく時は切り替えること。そのくらい自分と向き合ってほしいと思っています」

 誰もが試合には勝ちたいし、大会では優勝したい。そこはあえて確認するまでもない共通の目標だ。その目標をクリアし、さらに日本の野球文化を前進させるためにも、代表チームは成長の歩みを止めない、自立した個の集合体であるべきだと考えている。

 社会人代表チームは9月25日、アジア競技大会に向けた直前合宿のため集合する。8月の強化合宿から約1か月。この間に選手はどれだけ自分と向き合い、成長を遂げてきたのか。「どんなチームになるのか、本当に楽しみです」と石井監督。これまでとはひと味違う、社会人代表を見ることができそうだ。

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