ここから先の未来へ さらなる発展を目指す女子野球 元代表監督が提言する“変化”とは
子どもたちの野球離れが叫ばれる中、着実に競技人口を増やしているのが女子野球だ。例えば、関東女子硬式野球連盟主催の女子硬式野球リーグ「ヴィーナスリーグ」は、2002年に4チームのリーグ戦としてスタート。それが20年経った今年は、大学・クラブチームによるジャイアンツ杯とサンデーリーグ、高校チームによるマツダボール杯、中学チームによる報知新聞社杯の4カテゴリーに分かれ、計42チームが参加するまでに拡大した。
写真提供=Full-Count
2012年に代表を率いた新谷博監督が見る成長「チーム数も、技術も10倍以上」
子どもたちの野球離れが叫ばれる中、着実に競技人口を増やしているのが女子野球だ。例えば、関東女子硬式野球連盟主催の女子硬式野球リーグ「ヴィーナスリーグ」は、2002年に4チームのリーグ戦としてスタート。それが20年経った今年は、大学・クラブチームによるジャイアンツ杯とサンデーリーグ、高校チームによるマツダボール杯、中学チームによる報知新聞社杯の4カテゴリーに分かれ、計42チームが参加するまでに拡大した。
ヴィーナスリーグが産声を上げて間もない2006年、尚美学園大学に発足した女子硬式野球部の監督に就任したのが新谷博氏だ。以来、指導を続けて16年。かつて西武、日本ハムで活躍し、1994年には最優秀防御率のタイトルを獲った右腕は、日本女子野球界の成長をそのど真ん中で味わっている。
「チーム数は10倍以上になっているし、選手の技術的な面も数字にすれば10倍以上になっているんじゃないかな。僕が大学の監督に就任した当初は、大げさではなく、打球が内野の頭を越えれば全部ヒットになっていた。当時は選手の数が少なかったから、上手い選手から内野を埋めていったんですよ。だから、外野にはフライも捕れず、打球を追いかけるのが精一杯の選手もいました」
昨年は甲子園で女子高校野球決勝開催、NPB球団公認チームも来年は3チームへ
個々の選手が抱く「野球が大好き」という想いは、とてつもなく大きかった。だが、実際にプレーするとなると体力や技術が伴わない選手も多く、「初めの頃の部員は散々走らされて、一番かわいそうだったかもしれない。でも、よく走っていましたよ」と懐かしそうに微笑む。
時が経ち、徐々に小学生から野球を始める女子や、高校の女子硬式野球部が数を増やし始めると、体力はもちろん、プレーの質も格段にアップ。女子野球のトップ選手たちが集う日本代表チームも実力を上げ、2008年の「第3回 IBAF女子ワールドカップ」で世界の頂点に立つと、現在まで前人未到の6連覇を続けている。
2010年に誕生した女子プロ野球リーグは昨年末で活動休止となったが、その一方でクラブチームは全国各地で数を増やしている。野球界では長らく男子と女子の間に垣根のようなものがあったが、昨年史上初めて全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝が、“聖地”甲子園で開催された。さらに、2020年には「埼玉西武ライオンズ・レディース」、2021年には「阪神タイガースWomen」と、NPB球団公認の女子硬式野球チームが相次いで誕生。ここに2023年から読売も加わる予定で、女子野球人口の増加を後押しすることになりそうだ。
さらなる発展へ提言「代表に頼った世界づくりを変えていった方がいい」
新谷監督は尚美学園大学と並行して埼玉西武ライオンズ・レディースでも指揮を執り、2012年には日本代表監督としてワールドカップ3連覇へ導いた。いろいろな立場から女子野球に携わってきた指揮官は、女子代表チームは「やっぱり最高峰。選手たちはそこを目指している部分が大きい。男子以上に代表に選ばれる価値は高いのではないか」と感じているという。
日本女子野球界の成長は、選手が普段プレーする所属チーム、そして代表チームが両輪として機能しながら支えてきたものだ。だからこそ、さらにもう一段階上の発展を考える時、「僕は代表に頼った世界づくりを変えていった方がいいと思います」と新谷監督は話す。
「今の女子選手は代表に選ばれたいがために、それぞれのチームでプレーしているところがある。だから、リーグ戦と代表選考会の日程が重なると、だいたいは選考会を優先させてしまうんですよ。でも本来、代表選手というのは普段プレーするリーグ戦での活躍で選ばれ、『光栄です。日本のために頑張ります』となるものだと思います。
これまで女子代表は選考会を開催してきたけれど、実力はあっても参加しない選手もいた。この先、代表の価値を高めていくためにも、男子のトップチームのように代表監督が各チームを回り、代表に相応しい選手をピックアップする方法に変えてみてもいいかもしれません」
日々頭に浮かぶ新たなアイディア「メッチャ考えてますよ」
2020年に開催予定だった「第9回 WBSC女子野球ワールドカップ」は、新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響を受けて延期。2021年3月開催で調整が進んだが、再びコロナ禍のため延期となり、現在は開催時期・場所ともに未定となっている。最近では「世界(の女子野球)も一歩ずつ進んでいる感じ」ではあるが、日本は圧巻の大会6連覇中。他を寄せ付けない強さを誇る今だからこそ、さらなる成長を追い求めるためにも「選考方法を変えてもいいタイミングかもしれない」と新谷氏は提案する。
代表チームの在り方に限らず、日本女子野球界がより多くの人の関心を惹きつけ、盛り上がるためにはどうしたらいいか、新谷監督の頭の中には日々、新たなアイディアが浮かび続けている。
「注目されるためにはどうしたらいいんだろう。そういうことはメッチャ考えてますよ。ま、長いことやってますからね(笑)」
ここから先の未来に向かって、女子野球がどのような発展を遂げていくのか。楽しみに見守っていきたい。
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