先輩から受け継ぎ次世代へ繋ぐバトン 女子代表・田中露朝が感じる誇りと責任
今年1月に行われた野球日本代表「侍ジャパン」の新ユニホーム発表記者会見。伊藤大海投手(北海道日本ハム)、村上宗隆内野手(東京ヤクルト)、森若菜投手(阪神タイガースWomen)とともに登壇した田中露朝(あきの)投手(ZENKO BEAMS)は、「無双」をコンセプトとした縦縞のユニホームを身にまとい、背筋を伸ばした。
写真提供=Full-Count
大学2年生の2016年に念願の日本代表初選出
今年1月に行われた野球日本代表「侍ジャパン」の新ユニホーム発表記者会見。伊藤大海投手(北海道日本ハム)、村上宗隆内野手(東京ヤクルト)、森若菜投手(阪神タイガースWomen)とともに登壇した田中露朝(あきの)投手(ZENKO BEAMS)は、「無双」をコンセプトとした縦縞のユニホームを身にまとい、背筋を伸ばした。
「代表ユニホームを着ると気持ちが変わりますね。代表に憧れるからこそ、着るとうれしい。でも、うれしいだけではなく、ユニホームに恥じない責任や使命を果たさなければいけないと強く思います」
田中投手が初めて代表ユニホームを身にまとったのは、2016年に韓国で開催された「第7回 WBSC女子野球ワールドカップ」(以下W杯)でのこと。名門・尚美学園大学2年だった右腕にとって、念願の代表入りだった。その2年前にも代表入りを目指し、トライアウトを受けていたという。
「高校生の時にチャレンジして代表候補まで残ったものの、最終選考で落ちてしまったんです。レベルの高い日本代表に入りたいとずっと思っていたので、ようやくその一員になれた時はうれしく、誇りに思いました」
憧れのレジェンド・里綾実と日本代表で共闘「背中を追いかけていた」
野球に魅せられた少女たちが憧れる日本代表。小学1年生から野球を続ける田中投手も、世界で圧倒的な強さを見せつける先輩たちの姿に目を輝かせていた1人だ。中でも大きな影響を受けたのが、ワールドカップ3大会連続MVPのレジェンド・里綾実投手(埼玉西武ライオンズ・レディース)だった。
「福知山成美高校の時に1年間だけ女子硬式野球部のコーチをしていただいたことがあって、間近でいろいろ教わりました。格好いいなと憧れつつ、背中を追いかけていましたね。本当にレジェンド過ぎる存在なんですが、一歩でも近づくんだという気持ちでした」
日本代表では、その里投手とチームメートとしてプレー。他にも金由起子内野手(栗山高女子硬式野球部監督)、志村亜貴子外野手(埼玉西武ライオンズ・レディース)ら経験ある先輩たちとともに戦い、「めちゃくちゃ緊張しました」。だが、そういった先輩たちが持つ懐の深さのおかげで、短期間でチームの結束は固まった。
「先輩方が話しやすい雰囲気を作って下さったので、初参加のメンバーも『もっと野球が上手くなりたい。いろいろ吸収したい』と思い、声を掛けることができました。野球をする時は真剣で熱くなる一方で、宿泊ホテルに戻れば和気あいあいとしたコミュニケーションが取れる。オンオフの切り替えがすごいと思いましたし、格好いいなと。野球に対する想いが強いからこそ、オンになるんだと感じました」
W杯で学んだ配球の重要性、悔しさに後押しされた2018年
大会5連覇が懸かっていた2016年のW杯。世界でも日本は図抜けた強さを誇っていたが、“優勝して当然”という期待の裏には“負けては帰れない”というプレッシャーが隠されている。「私以上に先輩方には大きなプレッシャーがあったと思います」。大舞台特有のピリッとした空気が漂う中、田中投手は3試合でマウンドに上がって無失点。2勝を記録するなど連覇に大きく貢献した。
国際大会のマウンドから見る景色は、いつもと大きく違っていた。対戦チームには体格が大きな選手も多く、「得意のスライダーがアウトコースに決まったと思っても、腕が長いのでバットで弾かれてしまう。日本とはまったく違うと思いました」。この経験が自分の投球を見直すきっかけになったという。
「配球をすごく考えるようになりました。アウトコースに手が届く分、ストライクゾーン内での高低差や内外角、奥行きに変化をつけるピッチング。海外の選手はパワーもあるので制球に気を付けないと、打球を飛ばされてしまいます。チームに戻ってからの練習でも、常に試合を想定しながら投げるようになりました」
もう1つ、投手としての成長を後押しした印象深い場面がある。スーパーラウンド第4戦・韓国戦でのこと。2番手として5回から登板するとその回は3者凡退に抑えたが、続く6回は1死からデッドボールを当てて降板。「自分にとって本当に悔いが残った場面。その悔しさが、2年後にもう1度頑張ろうと思う原動力になりました」と話す。
2018年に米国で開催された「第8回 WBSC女子野球W杯」でも代表入りすると、4試合に登板して無失点の快投。決勝のチャイニーズ・タイペイ戦では里投手と完封リレーし、日本を大会6連覇へ導いた。
次世代に繋ぐ女子野球のバトン「交流を持つ機会を作りたい」
日本でも屈指の好投手に成長し、2020年に開催予定だった「第9回 WBSC女子野球W杯」ではエース級の活躍が期待されたが、コロナ禍により延期。開催の見通しは立っていないが、昨夏の東京で頂点に立ったトップチームに大いに刺激を受けながら「女子も金メダルを目指そう」と大会7連覇への想いを強くする。
「コロナ禍の中で野球ができるだけでも感謝しなければいけないですし、やるからには代表に選ばれて連覇に貢献したいと思います。代表が戦う姿を見て、野球を頑張る女の子たちの励みにもなればいいですね。身近に女子野球を感じられる環境があれば、中学や高校でも野球を続けようという子が増えるはず。コロナ禍が落ち着いたら野球をする女の子たちと交流を持つ機会を作っていきたいと思います」
憧れの先輩たちから受け継いできた女子野球のバトン。日本代表が女子選手にとって憧れの場、誇りを持てる場であり続けられるよう、次世代を担う子どもたちにしっかりと繋いでいく。
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