コロナ禍で大会延期も心は折れず 女子代表・森若菜を支える“5年越し”の想い
悔しかった。とにかく悔しかった。2016年。当時、福知山成美高校3年生だった森若菜投手(現・エイジェック)は「第7回WBSC女子野球ワールドカップ」に向けてのメンバー選考で、候補の28人まで残りながら最終メンバー20人入りを逃した。
写真提供=NPBエンタープライズ
2016年のワールドカップでは最終選考で落選「絶対に日本代表に入りたい」
悔しかった。とにかく悔しかった。
2016年。当時、福知山成美高校3年生だった森若菜投手(現・エイジェック)は「第7回WBSC女子野球ワールドカップ」に向けてのメンバー選考で、候補の28人まで残りながら最終メンバー20人入りを逃した。
「その時の気持ちがすごく悔しくて。同級生の清水(美佑)選手は高校生で1人選ばれましたが、本当に言葉に表せないくらい悔しくて。現役でいるうちは絶対に日本代表入りを目標にしようと、そこから少し視界が開けた気がします」
悔しい気持ちを悔しいままに終わらせず、「すごく負けず嫌いなので、次は絶対に受かるぞ、という気持ちで練習に取り組んでいました」と、前進する力に昇華させた。高校卒業後は女子プロ野球の門を叩き、愛知ディオーネ時代の2018年には自己最速、そして当時の日本人女子最速となる球速128キロをマーク。翌年、京都フローラへ移籍すると、抑え投手として女子プロ野球記録となる18セーブを挙げる活躍を見せた。
着実に実力を上げてはきたが、なぜか日本代表とは縁がなかった。あの縦縞のユニホームを身にまとい、世界の舞台でプレーしたい。2021年になり、その想いは5年越しで叶うはずだったが、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスに阻まれた。3月1日から予定されていた「第9回WBSC女子野球ワールドカップ」(メキシコ)は、昨年の9月に続き、2度目の開催延期となってしまった。
昨年12月の代表選考合宿を経て、1月7日に発表された女子代表最終メンバー20人。そこには、しっかり森投手の名前があった。念願の代表入りに「うれしくて、すぐ家族に連絡しましたし、中学・高校の監督とコーチにも連絡しました」と、喜びの大きさを振り返る。
病気を乗り越えて掴んだ日本代表の座「周りに支えられてここまで来ることができた」
今回もまた代表入りを逃すかもしれないピンチがあった。昨年7月、突然の腹痛と高熱に襲われて病院に行くと、卵管に膿が溜まっているという診断。開腹手術を勧められたが、完全復帰まで少なくとも1年を要する見込みだという。そこで「野球をやれるところまでやりたい」と手術を避ける方向で医師と相談。2週間の入院中に点滴や投薬などの治療を続けた結果、退院時には患部から膿が消えていた。
「日本代表の選考合宿に間に合うかどうか分からない状態でしたが、やはり『侍ジャパン』という響きにすごく気持ちを動かされた。頑張って合宿に間に合うようにリハビリをして、その結果、最終メンバーの20人に入れたことは本当にうれしいこと。いろいろ思い返してみると、私自身の頑張りもありましたが、周りに支えられてここまで来ることができました」
苦難を乗り越え、ようやく掴んだ代表入りだけに、1日でも早く代表ユニホームを着てマウンドに上がりたい思いは強い。何よりもワールドカップは子どもの頃から憧れた舞台。開催時期は未定だが、世界を相手に戦える日が来るのが待ち遠しい。
「初めてなので、世界のレベルがどのくらいなのか、海外のプレースタイルはどういうものなのか、私の投げるボールが通用するのか、不安はあります。素直に言うと楽しみより不安の方が大きいですが、不安を持ったままマウンドに上がったり、試合に臨んだりしてしまうと、いい結果が出なくて自分が後悔することになる。だから、後悔しないように楽しもうという気持ちがあります。不安の上に楽しもうという気持ちが乗っかっている感じですね」
現在、日本はワールドカップで6連覇中。となれば、周囲が期待するのは当然、7連覇だ。求められるスタンダードは高いが、それがまたモチベーションややり甲斐にも繋がる。
「日本が世界で一番強いと言われているので、そのメンバーとして戦えることはすごくうれしいこと。海外のレベルが上がってきている中で、日本も、私自身もレベルアップを求められている。やはり日本が世界で一番強い、と思ってもらえるように、たくさん頑張らなくてはいけないという気持ちは強く持っています」
次世代に繋ぐ野球の夢「コロナが収まったら野球教室を開きたいですね」
一緒に7連覇を目指すメンバーにも大いに刺激を受けている。憧れのベテラン選手から同世代の好敵手まで、見回せば負けず嫌いの心がくすぐられる要素はいっぱいだ。
「私がずっと目標にしているのが里綾実投手(現・埼玉西武ライオンズ・レディース)。愛知ディオーネで1年、同じチームでやらせてもらって、たくさん教わりました。また、代表で同じチームになれるのはうれしいこと。経験豊富だし、世界で通用する実力を証明されてきた。日本で女子野球といえば、里投手の名前が一番に挙がると思うので、また近くで学びたいと思います」
自身が里投手に憧れたように、ワールドカップの舞台で投げる森投手の姿に憧れ、日本代表を目指す子どもたちが出てくるかもしれない。懸命なプレーはもちろん、様々な形で子どもたちが野球を続けるサポートをしていきたいとも考えている。
「言葉だけでは分からない部分もあると思うので、コロナが収まったら野球教室を開きたいですね。女の子だけではなく、野球をしている全ての少年少女たちに野球の楽しさを身近に感じてもらいたい気持ちがあります。女子野球だからといって女の子に限る必要はない。みんなに上を目指して頑張ってもらいたいので」
自身の夢を実現するために、そして次世代を担う子どもたちに夢を繋ぐために、ワールドカップの開催を待ちわびながら、今日も真正面から白球と向かい合う。
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写真提供=NPBエンタープライズ