「すごくアツい!」 元中日外野手、日本通運で学んだ都市対抗の重みと特別感
いま思えば、ひとつの“縁”だったのかもしれない。中日で昨年まで5年間プレーした友永翔太氏は、小学校低学年の頃の記憶をたどる。初めて連れて行ってもらった野球観戦が、東京ドームでの都市対抗野球大会だった。「タテジマかっこいいな。応援すごいな」。グラウンドで躍動していたのは、日本通運硬式野球部の選手たち。それから十数年後、同じユニホームに袖を通すことになるとは思ってもみなかった。
写真提供=Full-Count
中日で外野手として5年間プレーした友永翔太氏が振り返る社会人時代の日々
いま思えば、ひとつの“縁”だったのかもしれない。中日で昨年まで5年間プレーした友永翔太氏は、小学校低学年の頃の記憶をたどる。初めて連れて行ってもらった野球観戦が、東京ドームでの都市対抗野球大会だった。「タテジマかっこいいな。応援すごいな」。グラウンドで躍動していたのは、日本通運硬式野球部の選手たち。それから十数年後、同じユニホームに袖を通すことになるとは思ってもみなかった。
強豪・東海大相模高校から国際武道大学に進学。もちろん目指すのはプロの世界だったが、自身の実力は冷静に把握していた。「まだ力がない。社会人でもう二段階、三段階はギアをあげないと」。そんな時、声をかけてくれたのが日本通運。「即答でしたね」と社会人野球の名門の一員となった。
1年目から主に「1番・中堅」として出場。「主力としてチームを背負っていかないといけない責任感は自然と出てきました。それに学生時代と違い、お金をもらいながら野球をやらせてもらっている立場を忘れちゃいけないなと」。日中は会社員としての仕事にも従事。警棒を持ち、防弾チョッキを身にまとって銀行などに赴く現金輸送を担った。常に緊張感を保ちながらの業務は、なかなかない貴重な経験だった。
昼過ぎに業務を終えると、グラウンドで白球を追う日常。高校や大学から有望な選手が集まったチームは、ライバル心むき出しというより団結力が強い印象だった。「弱点を克服するのも大事ですが、まず強みを伸ばそうという雰囲気」。1年目から伸び伸びとプレーできたことに、今でも感謝する。
社会人の集大成は、何といっても都市対抗。その大舞台で、自身の人生も大きく動いた。新日鉄住金かずさマジック(現・日本製鉄かずさマジック)の補強選手として出場した2014年の第85回大会。走者一塁から右翼へ飛んできた深いゴロを、右翼を守っていた友永氏は猛ダッシュで捕球し、走者の進塁を防ぐため、すかさず三塁へ返球した。アウトにしたわけでもなく、些細なプレーにも見えたが、バックネット裏から見ていた当時の中日ゼネラルマネジャー・落合博満氏の目に留まった。
その秋のドラフト会議で、中日から3巡目で指名されて入団。「最後の最後まで、自分はまだだと思ってやってきたので、知らず知らずのうちにプロの扉が開いた感じなんです」。わずか2年間で染み付いた全力プレーや使命感が、成長曲線をさらに押し上げていた。
「社会人野球ってすごくアツい! あー、充実して野球ができているなって」
中日では、2015年4月に1軍デビュー。期待の背番号1をつけるも、チャンスを掴みきれずに苦しんだ。通算5シーズンで34試合に出場し、7安打2打点2盗塁。「最後まで、自分の中で芯のようなものが持てなかった」。2019年限りで戦力外を通告され、現役生活から退いた。悔しさはもちろんあった。それでも、未練なく第二の人生に踏み出せたのは、社会人時代の経験があったからだという。
「野球はみんな好きでやっています。でも社会に出れば、みんながみんな好きな仕事をやれるわけじゃない。苦手な人が取引先ということもある。でも、頭を下げなきゃいけない時がある。変なプライドを持っていたら、社会人は務まりませんから」
仕事を円滑に進めるための信頼関係やマナー、忍耐……。それを日本通運で過ごした2年間で間近に見ていたからこそ、躊躇することなくプロ野球選手から一社会人に“転身”できた。現在は自ら会社を立ち上げ、結婚相談所の運営や野球教室、ラジオ出演など幅広く活動する。
「ちょっと硬い言い方になりますが、『人間形成』と言うんですかね。今の僕にとっては、欠かせない2年間でした」。唯一、少年時代に憧れた日本通運のユニホームで都市対抗に出場できなかったのが心残り。「社会人野球のすべてと言ってもいい大会。予選で負けると、ちょっと会社に行きづらいくらいでした」と苦笑いで振り返る。それだけ、特別な空間だった。
「社会人野球ってすごくアツい! プロ野球とはまた違ったアツさ。短期決戦で、1球の重みを感じながらやる。あー、充実して野球ができているなって感じなんです」
古巣は今年、11月22日開幕の本大会に6年連続45度目の出場を決めた。同26日にHonda熊本と1回戦を戦う。「負けたらその場で終わりの大会。1試合、1打席、1球を、とにかく全力でプレーしてほしいですね」。友永さんは少し羨ましそうに、エールを送った。
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