今だからこそ「心を一つに」 日本通運野球部・澤村監督が目指すチームの在り方
2020年、日本通運野球部に新しい監督がやってきた。チームを9年率いた藪宏明前監督からバトンを受けたのは、40歳の澤村幸明監督だ。熊本工業高、法政大学を経て、2003年に日本通運に入社すると、社会人野球一筋13年。好守の遊撃手として鳴らした。2015年を最後に現役を退くと、その後は社業に専念していたが昨年、自身も驚きの監督就任の打診が届いた。
写真提供=日本通運野球部
藪宏明前監督の後を受け、今季から就任 掲げたスローガンは「一心」
2020年、日本通運野球部に新しい監督がやってきた。チームを9年率いた藪宏明前監督からバトンを受けたのは、40歳の澤村幸明監督だ。熊本工業高、法政大学を経て、2003年に日本通運に入社すると、社会人野球一筋13年。好守の遊撃手として鳴らした。2015年を最後に現役を退くと、その後は社業に専念していたが昨年、自身も驚きの監督就任の打診が届いた。
「ビックリしました。最初に話をいただいた時は、コーチをやらなくていいのかと思いましたが、藪前監督が『お前なら大丈夫』と言ってくださって。なかなか声を掛けていただけることではないですし、光栄なことですので、覚悟を決めて引き受けさせていただきました」
監督就任時に掲げたスローガンは「一心~ともに前へ、ともに頂点へ~」だ。コーチ陣も一新し、迎えた新シーズン。選手が持つ能力や技術は「すごく高い」と感じた指揮官は、1964年以来の都市対抗野球優勝、1994年以来の社会人野球日本選手権での優勝を目指すには「心を一つにする」ことが大切だと感じたという。
「選手はもちろん、会社もそうですし、会社で応援してくださる方たち、寮で食事を作ってくださる方たち、チームに関わる人みんなが一つになったら、日本一に近づくんじゃないかなと思っています。自分が現役の時も一生懸命応援していただき、13年もプレーすることができた。引退後に社業に戻ってからも、皆さんに野球を応援するよと言っていただきました。自分たちだけで野球をやっているわけではない。いろいろな方の支えや応援があるから野球をできている。それを改めて実感したんですね。なので、今の現役選手にはしつこいくらい伝えていきたいと思っています」
大会は軒並み中止、活動自粛期間も「自分の形や自分自身を見つめ直すいい時間に」
1月1日に就任し、2月には沖縄・宮古島でキャンプに臨んだ。「選手には主体性を持ってほしい。自分が何をしなければいけないのかが分かり、自分で動ける選手が多くなればなるほど強いチームになる」という信念の下、キャンプでは「見ること」に徹底。4年間チームを離れていたギャップを埋めつつ、実戦的な練習を積むことができ、「本当にいいキャンプだった」と振り返る。公式戦に向けて「ワクワク感の方が大きかった」が、新型コロナウイルスの世界的大流行により社会人野球日本選手権をはじめ、大会は軒並み中止となってしまった。
「すごく残念でしたね。選手もモチベーションをどう保つのか、どこに目標を置けばいいのか、大変だったと思います。ただ、こういう状況では、何より命が大事。自分たちだけが苦労しているわけではない。みんなが苦しんでいる時だからこそ、心を一つにやっていこうという話をしました」
緊急事態宣言の期間中、チームは社会的距離を保ちながら、体力強化のトレーニングを中心に基礎作りに励んだ。バッティング練習も素振りなどの基礎を徹底。「自分の形や自分自身を見つめ直すいい時間になったと思います。実際、バッティング練習を始めると、以前よりしっかり振れている印象がありますから」。澤村監督は選手とのコミュニケーションを図り、個々の特性を掴む時間とするなど、それぞれが前向きな時間を過ごすことができた。
「選手冥利に尽きる」社会人野球の魅力とは…
社会人として働きながら、野球に全力を注ぐ。そんな社会人野球の魅力について問われると、澤村監督はまず「一発勝負の面白さ」をあげた。社会人野球の主な大会はトーナメント制で行われるため、負けたら終わり。「前評判だけでは分からなかったり、試合展開が読めなかったり。力の差がないことも多く、調整の難しさやいろいろな要素が勝敗を左右する。9回を終えてやっとホッとできる面白さがありますね」。生き残りをかけた2チームが練習で積み上げてきたもの全てをぶつけ合って生まれるドラマは、誰もが想像できない展開をたどる。
もう一つ、「選手冥利に尽きる」魅力があるという。それが「都市対抗野球での大声援」だ。
「いい球場や環境で野球ができること、大勢の方たちの前で野球ができること、そして球場が一体となる中で野球ができる喜び。あれは何物にも代え難い経験です。私は決勝の舞台を経験していませんが、一人でも多くの選手に経験させたいし、優勝を目指してやってほしいと思っています」
目指してほしい社会人代表「現役の選手にはぜひ経験してほしいですね」
日本通運の日本一を実現させるためにも、選手に目指してほしい場所がある。それが侍ジャパン社会人代表の座だ。澤村監督は2009年に社会人代表として「第38回IBAFワールドカップ」、日本代表として「第25回アジア野球選手権大会」に出場。この時の経験が選手としての成長を促したと実感している。
「私は日本代表に選ばれたくて仕方なかったんです。海外の選手とやってみたい、どういう世界なのか見てみたい。ずっとそう思っていました。代表合宿まで行ってもなかなか選ばれない中で、唯一選んでいただいたのが2009年。私は当時29歳で、野手では長野久義選手(現・広島東洋)や清田育宏選手(現・千葉ロッテ)という若い選手がいて、その能力の高さに刺激を受けて、もっともっと練習しなければと思いました。加えて、外国の選手たちの勝負に対する気持ち、1球に対する気持ちを学べたことは、すごく大きかったです。
それを今、現役の選手にはぜひ経験してほしいですね。日通の中だけを見るのではなく、全国の選手と競争してほしい。全国の選手と比べて自分は今どうなのか、考えながらやってほしい。そして、日通から日本代表に入る選手が少しでも増えれば、自然とチーム力も上がってくると思います」
いまだ世界中が未曾有の事態の真っ只中にあり、先行きが不透明な部分は多い。日本通運野球部にとっても試練の時は続くが、心を一つ=一心にして乗り越えていく。
記事提供=Full-Count
写真提供=日本通運野球部