プロ通算228セーブの小林雅英氏が勧める、育成年代の選手たちに効果的な「遊び」
2018年も各カテゴリーで結果を残した野球日本代表「侍ジャパン」。昨年9月25日に発表された世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の世界ランキングでは2位だったが、同10月にコロンビアで行われた「第2回 WBSC U-23ワールドカップ」で2位に入ったことで、アメリカを抜いて同12月19日に1位に返り咲き。再び“世界一“の座についた。もちろん、「第8回WBSC 女子野球ワールドカップ」で前人未到のワールドカップ30連勝と6連覇を達成した女子も世界1位をキープしている。
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日本球界の未来を担う育成年代の選手たち、侍ジャパンの常設化には大きなメリットあり
2018年も各カテゴリーで結果を残した野球日本代表「侍ジャパン」。昨年9月25日に発表された世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の世界ランキングでは2位だったが、同10月にコロンビアで行われた「第2回 WBSC U-23ワールドカップ」で2位に入ったことで、アメリカを抜いて同12月19日に1位に返り咲き。再び“世界一“の座についた。もちろん、「第8回WBSC 女子野球ワールドカップ」で前人未到のワールドカップ30連勝と6連覇を達成した女子も世界1位をキープしている。
一方で、同8月13日から19日に台湾で開催された「第10回 BFA U12アジア選手権」では、侍ジャパンU-12代表は3位で連覇ならず。また、8月10日から19日にパナマで行われた「第4回 WBSC U-15ワールドカップ」でも、侍ジャパンU-15代表は出場12か国中4位で大会を終えた。この2つのカテゴリーでは、まだ世界の頂点に立てていない。
日本球界の未来を担う育成年代の選手たち。日本が世界トップの座を維持し続けるためには、今後の成長が必要不可欠だ。現役時代に千葉ロッテ、読売、オリックスでプレーして通算228セーブを挙げ、引退後はオリックス、千葉ロッテで7年間、投手コーチを務めた小林雅英氏は、侍ジャパンの育成年代も常設されている現状について「いいことだと思います」と話す。また、小学生、中学生の選手たちには、レベルアップに向けて意外な「遊び」を勧めた。
日本代表の守護神として2004年のアテネ五輪で銅メダル獲得に貢献した小林氏は、日の丸を背負うことでその後の野球人生は「全然違うものになる」と表現する。
「(プロの)選手も(日本代表を)目標にできますし、ましてや小学生から同じユニホームを着て、という環境なので。小学校、中学校、大学、社会人、それぞれのカテゴリーで同じユニホームを着て、プロ野球の選手がトップチームの一番上にいる。今までそういう連携をしたことが野球界にはなかなかなかったので、本当に素晴らしいこと。女子にもありますし、どんどん小さい子が目標とするところが明確になると思います」
さらに、プロに入る前から日本以外の野球に触れることができる。こういった経験ができるのも侍ジャパンの大きなメリットだ。侍ジャパンが常設される前には難しかったことでもある。
育成年代での国際大会経験に大きな価値「面食らわずにできる」
「今まではなかったですね。それは小さいときに経験すればするほど、その後の野球の考え方、取り組み方にすごく影響してくる。本当に小さい世界で『俺が凄いんだ』ということではなく、同じ世代でももっともっと力のあるピッチャー、バッターがいるということ、『本当に同級生かよ』と思うようなことを経験できるのは素晴らしいと思います。
また、五輪では少ない情報の中で打者と対戦するということも難しいですし、ゲーム中に他のピッチャーが投げているところを観察して、自分の組み立てに合わせながら(攻め方などを)考えないといけない。適応力が必要になってきます。それを小さいときにやっていくと面食らわず、『あ、外国人ってこうなんだ』と思わない。トップチームになればなるほど、もっと凄い選手が(海外には)いる。それを小さいときから経験していれば、初めて対戦したときに体の大きさ、スイングの強さなどに面食らわずにできるんじゃないかと思います」
育成年代から世界の野球を経験できることは、選手にとってやはり大きいという。また、侍ジャパンU-12代表の仁志敏久監督、U-15代表の清水隆行監督のようなプロ野球出身の指導者に教わることができるのも、小学生、中学生にとっては貴重な時間となる。
「今、その世代の侍ジャパンの監督やコーチを仁志さんなど(プロ経験者)がやられるようになりました。ただ、僕らが小学校、中学校のときは違いました。お父さん、お母さんは毎週土日を潰してやってくださって、本当にすごくお世話になりましたし、一生懸命やってくれますし……でも申し訳ないですけど、やっぱり野球については素人です。その負担は大きくて、エネルギーを使ってやってくれているのに、そこにしっかりとした野球経験者がいないというのはもったいないですよね。
もっと素晴らしい才能を持った選手たちが、怪我をしたり、しっかりとした技術の指導をしてもらえなかったりすることで、埋もれてしまったりだとか、何気ない一言、言動で野球を嫌いになったり、辞めてしまったりということがあったかもしれません。今もそれは野球界の中の問題の一つだと思うんですよ。それが今、侍ジャパンだけでもそういう(プロを経験した)人たちが指導に携わるのは大切なことだと思いますし、野球界の技術が必ず上がると思うんです」
野球少年にやってもらいたいことは「雲梯」、その理由は…
そしてもちろん、まず大切なのは全体のレベルの“底上げ”。トレーニング方法などが進歩する中、指導者の立場で、野球少年にやっておいてもらいたいこととは……。小林氏は「正しいかは分からない」と前置きした上で、意外な「遊び」が有効だと指摘した。雲梯(うんてい)だ。
「小学校で野球をやる子供たちに雲梯をしてほしいんですよ。今、自分の肩よりも腕を上げる機会がすごく少なくなっているんです。公園に行っても、ジャングルジムが危ないからと無くなっていたり、使ってはいけないなど、登り棒もほとんどなくなっています。遊びの中で、自分の肩よりも腕を上げて体を支えるということがあまりにも少なくなっているのかなと思います。ウエイトトレーニングやサプリメントなど、そういったものは僕らが小さいときよりも浸透していると思います。でも、僕らがどうやって体が強くなっていったのかを考えると、少年野球の時にウエイトトレーニングはしていないですけど、遊びの中で雲底とか登り棒とか、木登りとかをやっていた。例えば野球の練習の中でも毎日少しでもいいので自分の体を支える、自分の手で支えるという運動、動作をしてもらえると、もっと上手に力も付きますし、体の使い方やバランスも良くなると思います。
それが投球の動作にも出ていて、最近はどうしても肘が下がって前に押し出して投げる形の選手が非常に多い。少年野球を見ていても、上から“叩く”ような投げ方ができない子供たちがぱっと見た時に多いんです。なんでだろうと考えた時に、雲梯とか登り棒をやらなくなってるな、と。柔道のトレーニングでは、ロープを登ったりしますよね。トレーニングとして取り入れている競技もある。登り棒で登れなかったら、体の使い方を工夫するじゃないですか。最近の選手たちは、野球の練習はしっかりやっているし、食生活もサプリメントなどがあって、家族も協力してやっている。背が大きくなって、手足が長くなっているんですけど、その長くなった手足を余計に持て余してしまっている感じがします」
押し出すような投げ方は、プロ入りしてくる選手たちにも増えてきていると、昨年まで千葉ロッテで投手コーチを務めていた小林氏は指摘する。もちろん、そういった投げ方が一概に悪いというわけではないが、体が大きい選手に合った投げ方があるというのだ。
「プロに入ってくる選手もちょっと押し出して投げる投手が多いので、よく見ているとそう感じるかなと思います。押し出すような投げ方でいい球を投げていたのは、三澤興一さんや武田久さん、入来祐作さんとか、少し体格が小さくて、下から浮き上がってくるようなボールを投げられていた投手です。低いところから“叩く”ように投げると、ボールが死んでしまうかもしれないですけど、ちょっと押し出す感じで、そこから浮き上がっていく、伸びていくような真っ直ぐで空振りを取れたり、変化球も1度浮き上がって落ちるような軌道で結果を残した選手もいます。ただ、180センチを超えるような選手が押し出して投げて、強いボールを高めに投げても役には立ちません。
遊びの中で体の使い方、バランスが自然になっていく環境がなくなっている。あらゆるものが『危ない』となってきていますけど、野球の練習の一環で雲梯とかをやる環境があれば、バランスを整える、体の動きを覚えるための1つのトレーニングとして、大人の元でやっていただけると、すぐには効果が出ないかもしれませんけど、変わってくるんじゃないかなと思います」
侍ジャパンの常設化で確実に変わり始めている日本球界。小林氏はさらなるレベルアップを願っている。
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