U-15侍ジャパン代表がアジア全勝制覇 武田勝コーチも称えた若き選手たちの実力

2017.11.6

11月1日から5日かけて静岡県伊豆市・志太スタジアムで開催された「第9回 BFA U-15アジア選手権」。侍ジャパンU-15代表は無傷の5戦全勝で2008年以来、4大会ぶり2度目の優勝を飾った。最後は韓国に1-0のサヨナラ勝ちで完全優勝を果たした。

写真提供=Getty Images

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最後は韓国にサヨナラ勝利、4大会ぶり2度目のアジア制覇を遂げた日本

 11月1日から5日かけて静岡県伊豆市・志太スタジアムで開催された「第9回 BFA U-15アジア選手権」。侍ジャパンU-15代表は無傷の5戦全勝で2008年以来、4大会ぶり2度目の優勝を飾った。

 前回大会に続いて指揮を執った伊藤将啓監督は「ピッチャー陣が点を取られなかったので安心して見ていられた。バッティングに関しては韓国や台湾の方が上だと思いますが、ここ一番の集中力はあったかなと思います」と勝因を挙げた。香港、フィリピンに完封のコールド勝ち。大会3連覇中で最大のヤマ場とされたチャイニーズ・タイペイも3-0で下した。パキスタンには2失点したものの、15-2の5回コールドで快勝。最後は韓国に1-0のサヨナラ勝ちで完全優勝を果たした。

 今大会は中体連所属の軟式野球チームから選ばれた18人でメンバー構成された。2年前の前回大会は「アジアのパワーに負けない打ち勝つ野球」を柱としたが、3大会連続の準優勝で終わった。今回はその反省を生かし、オールマイティに選考されたという。使用されたボールは普段、中学生が使用している「B号」より、サイズが大きく、硬くなった新軟式球「M号」。日本に限らず、参加した各国にとっても、初めて使用されるボールだった。そうした中、伊藤監督は「ボールをどうやったら飛ばせるかなど、毎日、バッティング練習をして感覚をつかめるようになった。元々、力のある子たちだったので、ボールへの対応は早かったなと思います」と振り返った。

 合宿から「当てにいかず、振り抜け」との教えを浸透させ、適応した選手が多かった。前回は「打ち勝つ野球」を目指したが、今回は結果的に打ち勝った。チャイニーズ・タイペイ戦は神里陸(沖縄・南星中)と宮本拓実(宮城・仙台育英秀光中)がタイムリーを打ち、韓国戦は功刀史也(山梨・白根巨摩中)がサヨナラヒット。「今年は打って勝つチームのメンバーではないが、最後、そういう状態ができた。なので、打って終わろうということでベンチでも確認をした」と伊藤監督。韓国戦は積極的に打たせてチャンスメイクし、最後、功刀の打席に回した。また、宮本と内山壮真(石川・星稜中)は両翼100メートル、中堅122メートルの球場で柵越え本塁打を放った。伊藤監督は「打って点が取れたことがものすごく収穫」とうなずく。

 その攻撃力もさることながら、守りでは随所に好プレーが見られ、投手を中心としたディフェンスも大きな勝因となった。投手陣にとっても、これまで使用していないボールを投げることはチャレンジだった。「今までのボールよりも引っかかる。まだ慣れていない」「変化球が曲がりやすいが、ストレートのスピードが出にくい」と言った声も聞かれたが、それぞれに工夫しながら指先を慣らしていった。そんな投手陣を精神的に支えたのが、昨年まで北海道日本ハムで活躍した武田勝コーチだ。

 初戦の香港戦に先発した清水惇(群馬・長野郷中)は「投げるまでの力の入れ方」を教わったという。「リリースの時だけ力を入れられたのでいいピッチングができたと思う」と感謝した。武田コーチは「技術的なことへのアドバイスはしていない」と謙遜するが、選手との対話を多く持ち、多くの刺激を与えたことは間違いない。そんな武田コーチが最も気を使ったのは、メンタル面だという。

伊藤監督が「MVP」に挙げた清水の存在

「10日前に初めて見た時、僕が思っていた中学生のレベルをはるかに超えていた。すでに僕よりスピードが速かったですし(笑)。各々の仕事、役割分担もすぐにわかってくれてプランも立てやすかった。気持ちの入れ方や緊張のほぐし方、試合前日の気持ちの作り方など、メンタル面でのアドバイスはできたかなと思います。『ピンチになったらいつでも行けるようにしてくれ』とか、『今、休憩だから、水を飲んできていいよ』とか(笑)。細かく言うことで力の加減や制限ができる。試合によって疲れが出なかったり、次の日への影響が少なかったり。日本は継投がパターンなので、それぞれが疲れをためずに5試合を戦い抜けたことは大きかったと思います」

 投手陣だけでなく、チーム全体を和ませる役割も担っていた。伊藤監督をはじめ、首脳陣やスタッフは中学校の教員。そこに元プロ野球選手の武田コーチが入る形だった。伊藤監督が話す。

「武田さんの影響は、自分もすごく受けたと言いますか。すごく真剣で野球に対してストイック。ピッチャーの準備の仕方や野球に対する考え方とか、影響を受けました。根底は楽しむ。楽しんだもん勝ちだよ、と。自分も武田さんと10日間いたことでだいぶ野球観が変わりました。大会からも影響を受けましたが、武田さんの影響は大きかった。プロらしくないプロというか、教員らしくない教員みたいな感じというか。気遣いがすごい。目線を一緒にしてくれて。自分を捨てて、生徒に入っていく。俺はプロだよという空気は1つもないです」

 15歳で日の丸を背負い、日々、緊張感のあるゲームに臨んだ選手たち。大会4日目から登場した「ピコピコハンマー」は、選手を和ませるアイテムの1つとして武田コーチが購入したものだった。優勝会見でも「首脳陣が楽しいので、それが子どもたちに伝わったと思います。何より、これのお陰だと思います」と「ピコピコハンマー」を手に、笑いを誘った武田コーチ。「緊張感も大事ですが、やっぱり、野球は楽しむもの。緊張感の中で選手たちがそれぞれ大人になっていった。1試合、1試合、成長しているところを見られてうれしかったです」と収穫を口にした。

 選手たちも役割に徹した。スタメン出場した選手はもちろん、途中出場の選手、代打の切り札など、状況に応じて役割を全う。投手も先発・中継ぎ・抑えに分かれて仕事を果たした。大会のポイントとなるチャイニーズ・タイペイ戦と韓国戦で荻原吟哉(石川・星稜中)を先発させたが、伊藤監督、武田コーチが称えたのは、毎試合、ブルペンで待機した清水だった。

「清水が準備をしていたので、荻原は思い切って投げられたと思う。その後、根本(悠楓、北海道・白翔中)もいいピッチングだった。MVPは清水だと思います。清水がいたから、ピッチャー陣が投げられた。そこに尽きると思います」と伊藤監督が言えば、武田コーチも「マウンドに上がっているピッチャーを気持ちよく投げさせるためにブルペンで必死の思いで頑張ってくれた清水君。本当に感謝していますし、彼にとっても今後に向けていい経験になったと思う。この気持ちを忘れずに、もっと上のレベルを目指して頑張ってほしいなと思います」と話したほどだ。

伊藤監督、武田コーチから送られたエール

 また、チームを盛り上げたのは濵田世(高知・高知中)。ウォーミングアップでチームを盛り上げ、試合ではベンチで声を張り上げた。個々が力を結集して辿り着いたアジア王者。だからこそ、山田将義主将(東京・駿台学園中)も「チームが一丸となって優勝を獲れたので、この金メダルはうれしい。チームワークが良く、雰囲気も良かったので、選手、スタッフが一体となってつかんだ優勝だと思います」と声を弾ませ、「とにかく明るくて、すごい仲が良くて、素晴らしいチーム」と誇らしげだった。

 伊藤監督は「選手を信頼していたので苦しいというより、とにかくゲームが楽しかった。ラストゲームは、これで終わっちゃうんだなと、そっちの気持ちの方が強かったかなと思います」と惜しんだ。チームは解散するが、15歳、中学3年で侍ジャパンを経験した彼らの野球人生は続いていく。

「この世代で国際大会を経験できるのはほんの一握り。いい経験ができたと思います。U-18代表も、オリンピックもありますから、そこを目指して、また日の丸を背負ってもらいたい。次の目標として甲子園という舞台がありますが、長い野球人生を送ってもらいたいなと思います」と指揮官。武田コーチも「野球をやる上で常に楽しむ。野球を嫌いにならないでほしい。高校は硬式球になるので、怪我やコンディションなど、難しいことが増えますが、上のステージで待っています。また、ともに野球できる日が待ち遠しい。その気持ちでいっぱいです」とエールを送った。

 選手たちもさらなる成長を誓う。「甲子園に出て活躍をして、またこのユニホームを(侍ジャパン)U-18代表で着られればいいなと思います」と山田主将。ともにアジアの頂点を目指した仲間は再び、高め合っていくライバルとなる。解団式で伊藤監督は「この後の生活や次のステージでの活躍で、U-15代表でアジアNo.1をとったという価値が深まると思います。明日から自分の中学校での生活に戻るけれど、謙虚に頑張ってください」と話した。金メダルをより一層、輝かせるのは、ここからだ。

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