元メジャー藪恵壹氏が提言する、第4回WBCから見えた「次へつながる道」
3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で、野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。次回大会に託された世界一奪還に向け、侍ジャパンはどんな道を歩いていくべきなのか。日米の野球界を知る藪恵壹氏に、今回のWBCから見えた収穫と今後について語ってもらった。
写真提供=Full-Count
「日本の投手は、基本的に誰でも世界に通用すると思います」
3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)で、野球日本代表「侍ジャパン」は2大会連続ベスト4という成績に終わった。東京で行われた1次ラウンド、2次ラウンドを6連勝で突破。無敗のままに決勝ラウンドの開催地、ロサンゼルスのドジャースタジアムに乗り込んだが、初優勝したアメリカ合衆国に一歩及ばなかった。次回大会に託された世界一奪還に向け、侍ジャパンはどんな道を歩いていくべきなのか。日米の野球界を知る藪恵壹氏に、今回のWBCから見えた収穫と今後について語ってもらった。
11年を過ごした阪神では主に先発投手として活躍し、1994年には新人王、4度の2桁勝利を記録。2005年には活躍の舞台を海外に移し、メジャーではアスレチックスとジャイアンツ、さらにはメキシコでもプレーした藪氏は、海外の野球を肌で知る人物の1人だ。今回のWBCでは、侍ジャパンはもちろん、他国の戦いぶりも広く注目していたという。大会を幅広く見る中で藪氏の目を引いたのが、大会ベストナインに選出された千賀滉大投手(福岡ソフトバンク)、平野佳寿投手(オリックス)、そして石川歩投手(千葉ロッテ)だったという。
「千賀投手と平野投手はうまくボールを操れていましたね。日本の投手は、基本的に誰でも世界に通用すると思います。それだけの制球力を持っていますから。だから、やはりボールへの対応でしょうね。対応できた投手とできなかった投手の差は生まれたように思います」
シンカーを得意とする千葉ロッテ石川投手「シンカーを軸にすれば…」
国際大会になると必ず話題になるのが、NPB公式球とメジャー公式球あるいはWBC公式球の違いだ。藪氏自身も2004年にアメリカへ渡った時、ボールの違いに慣れるまで「4か月掛かりました」と振り返る。
「しっくり馴染んでくるまで4か月掛かりました。革が違うし、重さも違う。本当にツルツル滑るんですよね。逆に、あのボールに慣れてしまうと、日本のボールが軽く感じてしまう。ボールが軽すぎて、どこに飛んでいくか分からないんです。
今はアメリカの方でも、日本製のボールの良さが分かってきたようで、どうにか近づけられないかという話しもあるようです。でも、当面はあのWBC公式球やメジャー公式球をうまく利用できる投手がカギになるでしょうね」
第4回WBCメンバーの中で、最もボールの特性を生かした投球ができる可能性を持っていたのが、1次ラウンド初戦の先発を務めた石川投手だという。その理由に、石川投手の得意とするシンカーの存在を挙げた。
「あのボールそのものが、形や重さがまちまちだから、よく変化するんですよ。だから、元々いいシンカーを持っている石川投手は、1次ラウンドや2次ラウンドではスライダーが多い配球でしたが、シンカーを軸にすればかなりいい成績が残せた可能性がある。手元で変化するから、打者にバットの芯で捉えさせずに、1球で打ち取れますから。しかも、少し乾燥しているロサンゼルスだったら尚更です。残念ながら実現はしませんでしたが、決勝ラウンドで石川投手が投げる姿を見てみたかったですね」
国際舞台での活躍を予想「筒香選手はメジャーに行ったら…」
もちろん投手がボールの違いに慣れる必要はあるが、藪氏が指摘するように、ボールの特性を生かした投球が出来る投手を選ぶのも、1つの選考基準にしてもいいのかもしれない。
打者に目を向けてみると、藪氏の目に留まったのは、唯一のメジャーリーガー、青木宣親外野手(アストロズ)と筒香嘉智外野手(横浜DeNA)だったという。坂本勇人内野手(読売)や山田哲人内野手(東京ヤクルト)も大きなインパクトを残したが、気になる点が1つあったそうだ。
「打者は足を上げて打つタイプが多かった。上げないのは、青木選手と筒香選手くらいでしたね。投手目線で見ても、足を上げて打つタイプは、投球間隔の狭いメジャー投手や、彼らが投げる手元で小さく変化するボールに対処しづらいと思います。ピッチャーでもそうですが、無駄な動きが少ない方が、いろいろな場面に対応できるし、自分で修正もしやすいんですよ。
足を上げないで打つのが、青木選手と筒香選手。青木選手はすでにメジャーでプレーしていますが、筒香選手はメジャーに行ったら、松井秀喜くん(元ヤンキース他)みたいな感じでいけるかもしれません。
今回、もちろん侍ジャパンの打線は機能していましたが、投手と同じく、動く球に対応できる打者は誰なのか。そういう選考基準を入れてもいいかもしれませんね」
侍ジャパンを3年半率いた小久保裕紀監督が任期を終え、早々にも次期監督の選考が始まるという。WBCでは3大会ぶりの世界一奪還を目指し、どんなビジョンを持った監督が選ばれるのか。次回大会に向けての戦いは、すでに始まっているのかもしれない。
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