侍ジャパン女子代表が5連覇の偉業達成 女子ワールドカップで見えた収穫と課題(後編)
9月上旬の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で5連覇の偉業を達成した侍ジャパン女子代表。世代交代を進めながら2大会連続の全勝優勝を飾り、2012年の第5回大会途中からワールドカップ21連勝と力を見せつけたが、一方で世界と日本の“差”を懸念する声もある。
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世界における女子野球の発展のため、侍ジャパン女子代表の“課題”となることは?
9月上旬の「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で5連覇の偉業を達成した侍ジャパン女子代表。世代交代を進めながら2大会連続の全勝優勝を飾り、2012年の第5回大会途中からワールドカップ21連勝と力を見せつけたが、一方で世界と日本の“差”を懸念する声もある。
今大会、日本は全8試合のうち、4試合でコールド勝ち。決勝のカナダ戦も5回までに10点を奪っており(最終的には10-0で勝利)、実質、コールド勝ちという内容だった。日本が“独走”しているように見えるという現実は、女子野球の発展を考えると、プラスなのか、マイナスなのか。そして、世界をリードする日本の“課題”とは何なのか。
まず、日本の5連覇は決して簡単に達成されたものではないと理解しておくべきだろう。確かに、結果を見れば圧倒的な強さを見せつけての優勝ではあったが、油断をすれば足をすくわれる可能性も十分にあった。実際に、第1、2回大会の覇者で、過去6大会すべてで3位以内に入っていたアメリカは、今大会で初めてオープニングラウンドで敗退。チャイニーズ・タイペイ、オーストラリアと2勝1敗で並び、得失点差で涙をのんだ。
日本も初戦のカナダ戦では2回に2点を先制された。先発のエース里綾実(兵庫ディオーネ)は「(先制点を)取られて焦りました」と明かしている。落ち着いた試合運びで逆転に成功し、最後は8-2で勝利したものの、先制された直後の3回の攻撃で同点に追いつけていなければ、余裕を失い、違う結果が出ていた可能性もある。
「カナダ、オーストラリア、チャイニーズ・タイペイ、アメリカというのは、もう力が劣っているなんてことはありえないですから。日本のほうが優位なんていうのはないので、常にこういう展開に持って行くということを準備してきました」
大倉孝一監督は試合後、こう振り返っている。世界のレベルは確実に上がっており、日本も質を上げていかなければ、頂点には立てない。今大会の優勝は、日本の成長が、他国の成長を上回っていたから掴めたものだと言えるだろう。大会中、常に自信を滲ませていた指揮官も、決勝戦の後には「重圧は当然ありました」と胸の内を明かしている。
世界は日本を目標にして、レベルを上げてきている。だからこそ、日本は女子野球の発展のために、止まることなく成長を続けなければいけない。世界をリードする存在でいなければいけない。
日本の“成長”が世界のレベルを引き上げる
実際に、日本の強さを肌で感じたチームは、その野球を目指して、レベルを上げてきている。チャイニーズ・タイペイは、日本の持ち味でもある堅い守備を武器にアメリカと同じ組を勝ち抜いた。大倉監督も「強いです。やっぱり守備力ですよ。ピッチャー、キャッチャー含めて、守備力がものすごく安定してますよ」と高く評価していた。
しかし、実際にスーパーラウンド第2戦でチャイニーズ・タイペイと対戦すると、日本は10-0で快勝した。序盤は、四球や失策といった相手の“ミス”を逃さず、得点を重ねた。大倉監督が高く評価していた相手の堅い守備を崩したのは、日本がかけたプレッシャー。相手のミスを誘う攻撃だった。
「向こうはウェストもしてくるし、牽制も多いし、三塁も前に来てました。そういう警戒をものすごくしていた。ただ、プレッシャーをどんどん逆にかけていくことが(相手の)ミスにもつながっているし、フォアボールにもつながっているし、エラーにもつながっている。送球ミスにもつながっている。向こうが崩れてくれるのはプラスアルファで、1つずつ1つずつ前に進めていくということです」
チャイニーズ・タイペイはレベルを上げてきたが、日本はその上を行く野球を見せた。バントなどの細かいプレー1つ1つを着実にこなし、盗塁を積極的に仕掛けることで、ミスを「させた」。相手を上回る成長は、こういうところに見て取れる。
次回大会も、他国が今大会の日本のレベルまで上がってきたら、さらにその先をいけばいい。これこそが、女子野球の発展、そしてレベル向上につながる。日本が勝ち続ければ、世界の女子野球のレベルを引き上げることができる。
大会中、日本チームに対する注目度の高さは抜群だった。スタンドには他国の選手を初めとした多くの観客が集まり、初戦のカナダ戦では前回大会MVPのエース里が1球を投じるごとにため息が漏れた。第3戦の有坂友理香(アサヒトラスト)の特大ホームランにはどよめきが起こり、スーパーラウンド初戦のベネズエラ戦で捕手の船越千紘(平成国際大)が二盗を刺すと、強肩ぶりに感嘆の声が上がった。
また、韓国はスーパーラウンド第4戦で0-6で敗れると、日本の選手たちに“記念撮影”をせがんだ。試合後のグラウンド上で、約10分に渡って撮影会は続いた。閉会式の後には、オープニングラウンドで日本が18-0で下したインド代表の選手たちも控えめに寄ってきて、両チームが一緒に写真に収まった。いずれも、「野球の力」を感じさせる場面だった。
他国は世界をリードする日本の野球を目標に強化を進めてくる。日本が強さを維持することは、女子野球のレベル向上につながる。重圧の中、強い日本であり続けることは、この先も大きな“課題”となる。
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