侍ジャパン女子代表が5連覇の偉業 女子ワールドカップで見えた収穫と課題(前編)

2016.9.26

2大会連続の全勝優勝で、2012年の第5回大会途中からW杯21連勝を飾った侍ジャパン女子代表だが、なぜ圧倒的な強さを見せることが出来たのか。そして、女子野球をさらに普及させていく上で、世界をリードする日本代表の立場とはどのようなものなのか。前後編2回の連載で大会を振り返っていく。

写真提供=Getty Images

写真提供=Getty Images

W杯21連勝で5連覇を達成、日本はなぜ圧倒的な強さを見せることができたのか

 侍ジャパン女子代表が、「第7回 WBSC 女子野球ワールドカップ」(韓国・釜山)で5連覇の偉業を達成した。2大会連続の全勝優勝で、2012年の第5回大会途中からW杯21連勝を飾った日本だが、なぜ圧倒的な強さを見せることが出来たのか。そして、女子野球をさらに普及させていく上で、世界をリードする日本代表の立場とはどのようなものなのか。前後編2回の連載で大会を振り返っていく。

 今大会、日本は20選手中8人が初出場と決して経験豊富なメンバーばかりを揃えたわけではなかった。オープニングラウンド初戦のカナダ戦は、ワールドカップ初出場の3選手が先発。2回にエース右腕の里綾実(兵庫ディオーネ)が2点を失い先制を許すと、球場はざわめきに包まれた。

 それでも、結果的には直後の3回に同点に追いつき、4回に初出場組の小島也弥(環太平洋大)が勝ち越しタイムリー。その後は着実に加点し、最後は8-2で快勝した。

 大倉孝一監督は試合後、「やっぱりワールドカップで、しかも初戦ということで、硬くなっている感じはちょっとしました。けど、途中から慣れてきて、伸び伸びやってくれたと思います。常々、起こり得ることというのは色々なパターンで(選手たちに)伝えてはきていますから」と振り返っている。経験豊富な指揮官の入念な準備のおかげで、選手たちが浮足立つことはなかった。ただ、2点を取られた直後のイニングで同点に追いつけていなければ、『まさか』の展開が待っていたかもしれない。

 その後、オランダ、インド相手に5回コールド勝ちを飾ると、スーパーラウンドも初戦のベネズエラ戦(7-2)以外は全てコールド勝ち。決勝のカナダ戦も10-0で快勝した。第1、2回大会優勝で、過去6大会は必ず3位以内に入っていたアメリカがオープニングラウンドで3位に沈み、早々と姿を消す大波乱があったこともあり、頂点まで危なげない試合が続いた。

 大倉監督はオランダ戦までに全ての野手をグラウンドに立たせ、インド戦までに全ての投手も起用。選手たちは試合を重ねるごとに個性を発揮するようになり、チームとしてのスキはなくなっていった。

初出場組も存在感発揮、大きな意味を持つ正捕手・船越の“台頭”

 中心となったのは、ベストナインにあたる大会最優秀チームに選出されたエースの里、4番の川端友紀(埼玉アストライア)ら中堅の選手たち。里は3試合登板で3勝0敗、防御率1.33で2大会連続のMVPにも輝き、川端は打率.500で10打点といずれもチームトップの数字をマーク。さらに、不動のリードオフマンの六角彩子(侍)は打率.476、3番・三浦伊織(京都フローラ)は大会トップの10盗塁、2番の厚ヶ瀬美姫(兵庫ディオーネ)は遊撃で抜群の守備力を見せるなど、それぞれの存在感が光った。

 一方で、初出場組では小島が“ラッキーガール”ぶりを見せ、打率.444、6打点をマーク。初戦のカナダ戦は9番でスタートしたが、スーパーラウンド2試合目のチャイニーズ・タイペイ戦からは7番に昇格した。また、捕手の船越千紘(平成国際大)は6試合で先発マスクを被り、盗塁を3度刺して“阻止率100%”と持ち味の強肩ぶりでチームに貢献。決勝戦で先制打を含む3打点を挙げるなど、チーム2位タイの8打点と勝負強い打撃も光った。チーム唯一の高校生・清水美佑(埼玉栄高)も2先発を含む3試合に登板して8回1/3を4安打無失点10奪三振。登板を重ねるごとに内容も向上した。

 大倉監督は決勝戦の後に「監督・コーチがいて、ベテランがいて、中堅、初めての人がいて、チームが機能している。若い初出場組もゲーム慣れしてきて、(チームが)落ち着くし、コミュニケーションが密になって取れた。バランスが取れていた」と手応えを示した。ワールドカップ優勝を知らなかったメンバーも、5連覇に大きく貢献した。

 特に、船越の“台頭”は大きな意味を持つ。前回大会まで5大会連続で日本代表に名を連ねていた西朝美に代わり、20歳で正捕手の座を任されたが、試合を重ねるごとに表情には自信が溢れていった。

「周りを見られるようになったし、先輩とコミュニケーションが取れたのが自分にとって一番大きかったかなと。逆に先輩の方々から絡んできてくれたことがあったので、そういうのも大事だったんだなと思います」

エース里が示した確かな手応え「最高のチームだった」

 兵庫ディオーネでプレーするエースの里ら、普段はあまり接点のない「先輩」もしっかりとリード。「毎試合、毎試合、親も友達もみんな『おめでとう』『おつかれ』『明日も頑張れ』ってメッセージを送ってくれ『色々な人に応援されている。その分頑張れる』というのがあった。この大会でみんなにすごく応援されていると実感できた」と代表選手としての喜びも味わった。扇の要がしっかりしていなければ、日本のチーム全体の落ち着きはなかったはず。大会前には「船越がレギュラーに定着すれば、日本代表の捕手はこの先10年は安泰」という声も出ていただけに、大きな収穫となった。頼れる若手捕手の台頭は大きな収穫となった。

 勝ちながらも世代交代を進める。どんなスポーツでも困難とされている課題を大倉監督は理想的な形で解決したと言える。

 ただ、6大会連続出場で5連覇全てを経験した39歳の金由起子(ホーネッツ・レディース)、33歳の志村亜貴子(アサヒトラスト)という2人の大ベテランの存在が大きかったことも確か。金は初戦のカナダ戦でリードを2点に広げる貴重なタイムリーを放つなど、随所で勝負強さを発揮。打率.429、5打点と活躍しただけでなく、練習では大声を挙げて雰囲気を盛り上げた。また、主将の志村は大会当初は控えだったが、スーパーラウンド第2戦のチャイニーズ・タイペイ戦からレギュラーの座を奪取。9番でしぶとく四球を選ぶなど、渋い働きで打線をつなぐ役割を果たし、チームに欠かせない存在であることを証明した。

 2年後には、金は40歳(大会時)、志村は35歳となる。それまで2人が代表にいれば心強いことは確かだが、いつまでも頼っているわけにもいかない。精神的支柱になることの出来る新たな選手が出てこなくてはいけないだろう。5連覇を達成した日本の数少ない課題となるはずだ。

 里は今大会を振り返り、「最初はみんなどう話していいのか分からなかったり、上手くコミュニケーションを取れていなかったんですけど、日に日にみんなの性格も分かってきましたし、韓国に入ってからはコミュニケーションを取ってやっていた。みんな常に笑顔で、野球以外でも信頼し合う関係ができたので、今回は今回で最高のチームだったんじゃないかと思います」と話した。

 各世代の選手が絶妙なバランスで配置され、世代交代を進めながらも、全勝で優勝を飾った日本。スーパーラウンド初戦のベネズエラ戦で選手の油断を感じた大倉監督は、「その雰囲気じゃ、勝ったとしても何かが残る大会にならないぞ」とゲキを飛ばしていたが、決勝戦の後には「今後につながる大会だった」と手応えを示した。6連覇への期待も抱かせる大会となったが、“絶対王者”は女子野球のさらなる発展にも大きな役割を果たすことになりそうだ。(後編に続く)

記事提供=Full-Count
写真提供=Getty Images

NEWS新着記事