あの激戦をもう1度 2006年・第1回WBC™ 諦めない心で掴んだ初代王者の座

2022.6.6

2023年3月に開催予定の「ワールド・ベースボール・クラシック™」(以下WBC)に向け、野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いることになった栗山英樹監督。昨年12月の就任以来、プロに限らず、社会人、大学生など幅広いカテゴリーでの視察を重ねながら、最強の侍ジャパン結成を目指して準備を進めている。

写真提供=Getty Images

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来春には第5回大会を開催予定 3大会ぶりの頂点目指す侍ジャパン

 2023年3月に開催予定の「ワールド・ベースボール・クラシック™」(以下WBC)に向け、野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いることになった栗山英樹監督。昨年12月の就任以来、プロに限らず、社会人、大学生など幅広いカテゴリーでの視察を重ねながら、最強の侍ジャパン結成を目指して準備を進めている。

 3月には初陣となる予定だった「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2022 日本vsチャイニーズ・タイペイ」が開催中止になるなど、コロナ禍の影響により、栗山監督と侍ジャパンに与えられるWBC本番までの準備期間はごく短いものとなりそうだ。だが、10年率いた北海道日本ハムでは数々の苦難を乗り越えながらパ・リーグを2度制し、2016年には日本一へと導いた人物。それだけに、3大会ぶりの優勝がかかる来春のWBCも期待は高まる。

 今季プロ野球が幕を閉じる秋には、栗山ジャパンの動きが本格化する見込みだが、その前に今月から毎月第1月曜に、過去のWBC4大会で日本代表/侍ジャパンが見せた勇姿をプレーバック。日本中を興奮の渦に巻き込んだ激闘を振り返りながら、第5回大会に向けて胸の鼓動を高鳴らせていこう。今回は2006年に開催された第1回大会を振り返る。

「野球の世界一決定戦」として2006年に開始、第1回大会は16チームが参加

 MLB機構のバド・セリグ前コミッショナーが音頭を取り、2006年、WBCは「野球の世界一決定戦」として産声を上げた。日本、米国、キューバ、韓国など16チームが参加。日本、米国(アリゾナ、フロリダ)、プエルトリコが舞台となった第1ラウンド、米国(アナハイム)とプエルトリコでの第2ラウンド、そして米サンディエゴでの決勝トーナメントと全19日間にわたり、各地で熱戦が繰り広げられた。

「侍ジャパン」として常設化される前の日本代表を率いたのは、王貞治監督(福岡ソフトバンク監督)だった。松井秀喜外野手(ニューヨーク・ヤンキース)、井口資仁内野手(シカゴ・ホワイトソックス)らの出場は叶わなかったが、イチロー外野手(シアトル・マリナーズ)、松坂大輔投手(西武)、藤川球児(阪神)ら最強の日本代表にふさわしいメンバーが集結。初代王者の称号をかけた死闘の道のりは、日本にとって実にドラマに溢れたものとなった。

世紀の誤審、アナハイムの奇跡… 決勝進出までに生まれた数々のドラマ

 東京ドームで行われた第1ラウンドで、日本は中国、チャイニーズ・タイペイに圧勝した一方、韓国には2-3と惜敗。2勝1敗のグループ2位で通過し、アナハイムが舞台となった第2ラウンド初戦で米国と対戦した。“野球の母国”とも呼ばれる米国は、ロジャー・クレメンス投手(ヒューストン・アストロズ)やデレク・ジーター内野手(ニューヨーク・ヤンキース)らメジャーリーグのスター選手を揃える豪華布陣。優勝必至の意気込みで大会に臨んでいた。

 両者ともに一歩も譲らず、3-3の同点で迎えた8回表に“世紀の誤審”が生まれた。1死満塁の絶好機で岩村明憲内野手(東京ヤクルト)がレフトへ飛球を放つと、捕球を確認した三塁走者・西岡剛内野手(千葉ロッテ)がタッチアップして生還。日本の勝ち越しかと思われたが、米国のバック・マルティネス監督の抗議を受けたボブ・デービッドソン球審が、西岡の離塁が早かったと判断し、アウトとなった。

 勝ち越せなかった日本は痛恨のサヨナラ負けを喫し、第2戦ではメキシコに勝ったが、最終戦で再び韓国に敗れて1勝2敗。翌日の試合で米国がメキシコに勝てば第2ラウンドで敗退が決まるという絶体絶命の時のことを、中継ぎの1人、藤田宗一投手(千葉ロッテ)がこう述懐したことがある。

「韓国に負けた後のミーティングで、王監督がボソッと『まだあるから』とおっしゃったんです。でも、みんな日本へ帰るつもりで準備をしていたら、メキシコが(米国に)勝った。すぐに『あ、これや。監督が言っていたことは、こういうことか』と思いました。何があるか分からない。諦めないということですよね」

 結局、日本、米国、メキシコの3者が1勝2敗で並んだため、3者間での失点率が最も低い日本が2位となり、決勝トーナメントへ進出。この「アナハイムの奇跡」で日本国内の熱気も急上昇した。

決勝では韓国と3度目の顔合わせ、初代王者に導いた“神の手”

 迎えた準決勝。対戦相手は3度目の顔合わせとなる韓国だった。第1、第2ラウンドでは接戦を演じながら日本が連敗。張り詰めた投手戦となった3度目の対戦は、0-0で迎えた7回に試合が動いた。7回表の日本の攻撃。1死二塁の先制機が訪れると、王監督は今江敏晃内野手(千葉ロッテ)に代わり福留孝介外野手(中日)を打席に送った。この試合まで打率.105と不調だった福留選手だが、勝負強さを買った王監督の期待に決勝2ランで応え、日本を決勝へ導いた。

 決勝はキューバとの対戦となった。日本は初回に4点を先制すると、先発マウンドに上がった松坂投手が先頭打者弾を浴びながらも4回を1失点。打線は5回にも2点を加えてリードを広げた。だが、6回に守備の乱れなども絡んで2点を奪われると、8回にもフレデリク・セペダ外野手に2ランを献上。6-5と1点差まで追い上げられ、最終9回を迎えた。

 日本の打線は6回から3イニング連続で3者凡退と、試合の流れはキューバに傾いていた。だが、1死一、二塁と追加点のチャンスを作ると、打席に立ったイチロー選手が一二塁間を破る鮮やかなライト前ヒット。二塁走者の川崎宗則内野手(福岡ソフトバンク)は一気に本塁を目指した。好返球もあってタイミングはアウトだったが、川崎選手が紙一重で捕手のタッチをかいくぐり、右手でホームベースを触って追加点を挙げた。この見事な走塁は「神の手」と呼ばれ、今も語り継がれる名シーンとなった。

 9回に4点を加えた日本は10-6でキューバに勝利。世界一、そして初代王者という栄光に、日本中が歓喜に沸いた。最優秀選手は3勝無敗、防御率1.38と圧倒的な投球を見せた松坂投手が受賞。優秀選手として松坂投手のほか、イチロー選手と里崎智也捕手(千葉ロッテ)が選出されている。

 たびたび迎えた逆境をはねのけながら、最後まで諦めない心で戦い続けた王ジャパンの激戦は、観る者に野球が持つ魅力や価値を再認識させると同時に、WBCという新たな大会の価値を高めることになった。

※()内は当時の所属球団

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