「人生観や世界観まで変わる」 侍ジャパン・吉井コーチが説く国際経験のススメ

2022.5.16

2023年春に開催予定の「第5回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」を目指す野球日本代表「侍ジャパン」が、昨季まで北海道日本ハムを率いた栗山英樹監督の下、動き始めている。3月にはチャイニーズ・タイペイとの強化試合が新型コロナウイルスの影響で中止となったものの、指揮官は各地の球場で視察を繰り返し、アマチュアを含めた選手の発掘に忙しい。

写真提供=Full-Count

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現役時代に日米球界を経験し、今季は米コーチ留学もする国際派

 2023年春に開催予定の「第5回ワールド・ベースボール・クラシック™(WBC)」を目指す野球日本代表「侍ジャパン」が、昨季まで北海道日本ハムを率いた栗山英樹監督の下、動き始めている。3月にはチャイニーズ・タイペイとの強化試合が新型コロナウイルスの影響で中止となったものの、指揮官は各地の球場で視察を繰り返し、アマチュアを含めた選手の発掘に忙しい。

 このチームで投手陣の舵取りを任されたのが、吉井理人投手コーチだ。現役時代は近鉄のストッパーとして頭角を表し、ヤクルトでは野村克也監督の下でプレー。さらに、日本球界で初めてFA権を行使しメジャー移籍を果たし、ニューヨーク・メッツなど3球団で通算32勝を挙げた。世界の野球を見てきた吉井コーチは、この大会に並々ならぬ意欲を示す。

 大役を引き受けた裏には、大望があった。吉井コーチはWBCを「サッカーのワールドカップみたいなもの」と表現し、「日本だけではなく、世界中で野球人気が上昇するような大会にしたい」と力を込める。今季もロサンゼルス・ドジャースにコーチ留学するなど、国際的な野球観を持つことでは日本でも有数の存在。その上で「世界的に見れば、野球はマイナースポーツ」という危機感を抱いている。

 野球人気を引き上げようという時、監督やコーチ、選手たちができる最大の貢献は、人々の心を動かす素晴らしいプレーや試合を見せることだ。「日本代表にも『すごい選手がいる』と思ってほしい。そういう選手を選びたい」という考えは、自ずと侍ジャパン投手陣の構成に反映されることになる。

国際大会で広がる視野 「人生観や世界観まで変わる」特別な経験

 吉井コーチの現役時代は日本のプロ野球選手が世界と戦う場はほとんどなく、「日米野球」がわずかな機会だった。近鉄時代に1度出場したことがあるものの、目を見張る経験をしたのはそれよりずっと前、箕島高(和歌山)からプロ入りして間もない“修行時代”だった。

「まだ2軍で四球を連発している頃ですね。日米野球を見たら、すごい先輩たちがボコボコにやられていたんです。『何や、この世界は』と驚いて、野球へのスイッチが入ったところがあります」。いつか、ああいう選手と戦ってみたいという想いは、後にメジャーへ挑戦するモチベーションともなった。

 2007年限りで現役を引退し、コーチとなってからも、選手が国際経験で「変わる」場面を目にしてきた。北海道日本ハムで出会ったのが、ダルビッシュ有投手(現サンディエゴ・パドレス)だ。2009年のWBCで大会途中からクローザーに転向し、日本の世界一に貢献したダルビッシュ投手は、チームに戻ってくると変化が見えた。

「それまでは『アメリカなんて……』とか言っていたのが、WBCから帰ってくると質問が世界を意識したものになっていた。国際大会では人生観や世界観まで変わることがあるんです」

 国際大会に対する考え方は、選手や所属球団によって異なる。それでも吉井コーチが「出られるなら出た方がいい。いろいろな意味で」と言い切るのは、自分や教え子が他文化と出会った時に生まれた変化を実体験として持つからだ。

吉井コーチが思い描く侍ジャパン投手陣構想とは…

 WBCでは数多くのメジャー選手たちが、出身国や地域の誇りを背負って戦う。吉井コーチは現在の日本の投手力を「メジャーでも、すごいパワーを持った投手は各チームに1人、2人くらい。平均すれば日本とそんなに実力は変わらないと思う。日本でやっていることをそのまま出せれば、通用する投手が多くいる」と高く評価。現役選りすぐりのメンバーを相手に、日本は特色を生かした戦いで勝機を見出したい。

「短期決戦なので、ストライクを先行できないと優位に戦えないでしょう。少しずつ変わっているとはいえ、メジャーではストライクゾーンの中で勝負する投手がほとんど。一方、日本の投手はゾーンの外も上手く使って勝負する。そういう投手もいるのがいいチームだと思う」

 ベースとなる考え方を踏まえ、吉井コーチの口からは先発候補として山本由伸投手(オリックス)や森下暢仁投手(広島東洋)の名が挙がる。さらに「タイブレークのルールが採用される可能性がある。監督との相談になりますが、走者を置いてもしっかり投げられる、専門職の投手が必要でしょうね」と、リリーフのスペシャリストも選ぶつもりだ。ここで求められるのは、打球を前に飛ばされない能力。平良海馬投手(埼玉西武)や松井裕樹投手(東北楽天)といった活きのいい投手の名前が浮上する。

 さらに“一芸”に秀でた投手の可能性も探りたいという。投げたボールの回転軸や回転数といったデータを有効活用。「世界の平均値から外れている投手なら、勝負できる可能性がある。一見そこまで凄そうではないのに実は打ちづらい、という投手を見つけたい。見た目がいい投手は、実は平均値に近いんですよ」と“秘密兵器”の発掘にも意欲的だ。

 例として挙げるのが、千葉ロッテで指導してきた益田直也投手だ。「非常識なボールを投げている。サイドスローから、オーバースローのようなボールが来ます。回転数が非常に高いんですよね。ここまで残している数字を見ても、地味だけどスーパースター。こういう投手がメジャー(の打者)にどう通用するかも見てみたいですね」。過去には2006年のWBCでアンダースロー・渡辺俊介投手(元千葉ロッテ)ら個性派が活躍してきた歴史もある。

 データ活用にも知見が深く、国際的視野を持つ吉井投手コーチが中心となって選ぶ侍ジャパン投手陣。どんな顔ぶれになるのか、今から楽しみだ。


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