侍ジャパン常連・甲斐拓也も感じる日の丸の重圧「醍醐味と言えるレベルじゃない」
いまや球界を代表する捕手へと成長を遂げた福岡ソフトバンクの甲斐拓也捕手。野球日本代表「侍ジャパン」の常連になり、昨夏の東京では正捕手として稲葉ジャパン悲願の金メダル獲得に貢献した。育成選手から這い上がって描いてきたサクセスストーリー。だが、日の丸を背負って戦う国際大会の大舞台は、とてつもないプレッシャーに押し潰されそうになりながらの日々であり、決して「楽しめるわけがない」ものだったという。
写真提供=Full-Count
福岡ソフトバンク育成選手から侍ジャパン正捕手へ成長
いまや球界を代表する捕手へと成長を遂げた福岡ソフトバンクの甲斐拓也捕手。野球日本代表「侍ジャパン」の常連になり、昨夏の東京では正捕手として稲葉ジャパン悲願の金メダル獲得に貢献した。育成選手から這い上がって描いてきたサクセスストーリー。だが、日の丸を背負って戦う国際大会の大舞台は、とてつもないプレッシャーに押し潰されそうになりながらの日々であり、決して「楽しめるわけがない」ものだったという。
侍ジャパンのトップチームに初めて選ばれたのは、稲葉篤紀前監督の初陣となった2017年の「アジアプロ野球チャンピオンシップ」だった。「僕は今まで代表選手みたいなものに縁がなかったので、選ばれたということ自体が考えられないことでした。うれしいと思った反面、嘘でしょとも思いました。僕が行っていいんですか、そんなところに選ばれていいんですか、と思いました」。選ばれたことへの喜びはもちろんあった一方で、それ以上に驚きの方が大きかった。
初めて侍ジャパンのユニホームに袖を通した瞬間は鮮明に脳裏に焼き付いている。「ジャパンのユニホームを着て、まず何日間か宮崎で練習があったんですけど、自分がジャパンのユニホームを着ているっていうこと自体がもう変な感じ、不思議な感じでした」。日本、韓国、チャイニーズタイペイの3か国で戦ったこの大会。甲斐捕手は初戦と決勝の韓国戦でスタメンマスクを被って頂点に立ち、その後も稲葉ジャパンの中心メンバーとして招集され続けた。
侍ジャパンとして戦う醍醐味は「いや、あるのかな……」
2017年からの5年間で様々な強化試合や国際大会に参加してきた。2018年に行われた「日米野球」のような大会は「楽しめた」というものの、侍ジャパンとして戦う醍醐味については「いや、あるのかな……」と言葉を詰まらせる。「勝ったから、やってよかったと思いますし、醍醐味と言えると思うんです。でも、そういうのを抜きにすれば、醍醐味というレベルじゃないな、と思います。楽しんで、とか、ジャパンのため、とも言いますけど、それ以上にプレッシャーとか重圧が凄くて、楽しめるわけない」というのが正直な心中だ。
その強烈な重圧を嫌というほど味わったのが昨夏の東京だ。稲葉ジャパンの集大成となる大会では、金メダル獲得が唯一無二の目標だった。日本の全ての野球ファンが注目するビッグイベント。これまで所属する福岡ソフトバンクでは日本シリーズに幾度も出場し、侍ジャパンでも数々の強化試合や「プレミア12」にも出場してきたが、これまでのどんな大舞台とも比にならないほどの重圧を感じたという。
會澤の代表辞退で高まったプレッシャー「これは、ちょっと違うぞ」
「プレミアでも、とてつもないプレッシャーがありました。責任もありますし、重圧もあるんですけど、そこまではなかった」という甲斐捕手に東京でより一層の重圧を与えたのが、「プレミア12」で主にスタメンマスクを被った會澤翼捕手(広島東洋)の怪我による招集辞退。「プレミアは會澤さんがメインで出るんだと思っていて、僕は何かあった時に途中で代わったりという感じでした。でも、本来選ばれるはずの會澤さんが来られなくなって、これは、ちょっと違うぞと。そういった意味で僕の中で重圧は半端ではなかったです」。本大会が始まる前からプレッシャーに押し潰されそうだった。
「もちろん1軍の試合に初めて出た時はめちゃくちゃ緊張しましたし、今でも日本シリーズに出る時はめちゃくちゃ緊張します。それでも、体に異変が出ることはありませんでした。ですが、昨夏の決勝の日だけは吐き気がしました。怖かった。表現的には怖かったです」
もし侍ジャパンが負けてしまったら……。自分のミスが敗因になったら……。どうしても頭に浮かんでくるのは最悪のシーン。「それを考えると恐怖でしかないし、その場面が来るかもしれないというだけで、もう怖かったです」。プレッシャーと恐怖心に立ち向かいながら、必死に戦っていた。
栗山新監督も絶大な信頼「僕は彼にやられまくった」
もちろん、国際舞台は自身を飛躍的に成長させてくれる場でもある。甲斐捕手も「間違いなく成長できる場だと思います。キャッチャーとしての幅が広がったと思いますし、あれ以上の緊張はもうないでしょうし」と話す。村田善則バッテリーコーチからインコースの使い方やその考え方を学び、打者ごとに明確に違う特徴などの気付きもあった。捕手として一皮も、二皮もむけた実感がある。
そんな甲斐捕手にかかる期待は大きい。新たに栗山英樹監督を迎え、船出をする新生・侍ジャパン。栗山監督は「甲斐拓也という選手の凄さを誰が一番知っているかというと、ホークスの皆さんもそうだけど、僕は彼にやられまくったので(よく分かる)。彼によってサインが変わるくらいのキャッチャーであるのは間違いない」と話すほど絶大な信頼を寄せている。栗山ジャパンでも、正捕手の筆頭候補となるのは間違いないと言えそうだ。
栗山ジャパン最大の目標は2023年に予定されている「第5回ワールド・ベースボール・クラシック™」だ。「もっともっと成長していかないといけないなって思います」という甲斐捕手だが、「実際そこまでは考えられないというのが素直なところ。今は本当にホークスのことしか考えていません。自分もその時にどうなっているか分からないですし、不安な毎日を送っているわけなのでそこまで考えられません」とも話す。まずはホークスをリーグ優勝、日本一奪還に導く。そしてその先に、世界一を決める戦いが待っている。
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