WBC連覇の陰でのしかかった重圧 小笠原道大氏が振り返る2度の“世界一”への軌跡
2026年3月に開催される「WORLD BASEBALL CLASSIC™」(以下WBC)。野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いる井端弘和監督が目指すゴールは、日本にとって2度目の大会連覇だ。

写真提供=Full-Count
2006年と2009年のWBC連覇に貢献「見えない空気の重さが…」
2026年3月に開催される「WORLD BASEBALL CLASSIC™」(以下WBC)。野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いる井端弘和監督が目指すゴールは、日本にとって2度目の大会連覇だ。
最初に連覇を遂げた2006年と2009年。打線の礎として活躍したのが、北海道日本ハム、読売、中日で19年の現役生活を送った小笠原道大氏だ。セ・パ両リーグでMVPに輝いた好打者は、周囲から寄せられる連覇の期待は「見えない空気の重さというか、もうずっしりとあるんですよ」と振り返る。
MLB機構のバド・セリグ前コミッショナーが音頭を取り、2006年に「野球の世界一決定戦」として初開催されたWBC。日本、米国、キューバ、韓国など16チームが参加したが、一体どんな大会になるのか、何を期待するべきなのか、誰にも予想できなかった。
「みんな頭の中に『?』が浮かんでいたと思います。選手も同じ状況でした。当然、シーズン開幕が控えているので怪我はしたくない。ただ、選手ですから置かれた状況で最高のパフォーマンスをして、勝つことだけを心掛けていました」
出国前と帰国後で違った日本の熱量「0から100になっていました」
王貞治監督の指揮の下、アナハイムが舞台となる第2ラウンドへ進んだ日本は、初戦で米国と対峙する。手に汗握る接戦で、日本は痛恨のサヨナラ負け。8回に日本の勝ち越し機が不意になる“世紀の誤審”もあり、一気にファンの視線を集めた。第2戦でメキシコに勝ったものの第3戦は韓国に敗れ、1勝2敗で敗退の危機。だが、最終的には日本、米国、メキシコが1勝2敗で並び、失点率が最も低い日本が2位となり、すんでのところで決勝トーナメント進出を決めた。
「日本での応援に火がついたのは米国戦くらいからだったと思います。ただ、自分たちの勝手な思いですが、現場としては王さんが監督ですから負けるわけにはいかない。気持ちも上がるし、士気も上がるし、テンションも上がる。だからもう1回、先(決勝トーナメント)に行けるとなった時、もう一段ギアが上がりました」
準決勝では大会3度目の顔合わせとなる韓国との対戦となった。ここまで韓国に2敗していた日本だが、負けたら後のない大一番で投打がかみ合い、6-0の完封勝利。決勝のキューバ戦は途中、5点リードを1点差まで詰め寄られたものの、9回に4点を加えて10-6とし、頂点を掴み取った。
「色々な紆余曲折あったので、それを乗り越えた、ハードルを越えたということで、みんなの喜びはものすごく大きかったですよね。どんな大会になるのか想像がつかない中でも、やっていくうちに代表である責任を受け止め、優勝を掴んだ。帰国した時の日本の熱量は出発時とはまったく違い、0から100になっていましたが、それだけの反応があったことで、最終的には『行って良かった。勝って良かった』と思いました」
連覇への期待とプレッシャー「それまで経験したことがなかった」
初代王者として迎えた2009年の第2回大会。この時、日本代表を率いたのは、当時読売で指揮を執っていた原辰徳監督だった。小笠原氏は2007年に北海道日本ハムから読売へFA移籍。打線の主軸としてリーグ2連覇の中心にいたところ、「原さんが代表監督になるということで二つ返事でした」と2度目のWBC出場を決断したが、前回とはまったく違う心持ちだったという。
「周囲はみんな『1回目に優勝したんだから2回目も勝つでしょう』と期待する。期待するのは当たり前ですが、代表チームに関わる人たちにしか分からないプレッシャーというか、目に見えない空気の重さというか、もうずっしりとあるんですよ。ペナントレースとはひと味どころか、まったく違うプレッシャー。それまで経験したことがなかったので、余計に重く感じました」
日本中から寄せられる期待に応えるべく大奮闘した原ジャパンは、第2ラウンドで敗者復活戦に回りながらも決勝トーナメントに進出。準決勝で米国に9-4で勝つと、決勝では大会5度目の対戦となった韓国と延長までもつれながらも5-3で悲願の連覇を成し遂げた。
「結論は『いい経験ができた。行って良かった』。勝ったから余計にそう感じましたが、負けたとしてもいい経験になっていたと思います。のちに野球に携わるにあたり、色々な世界を経験できたことは大きかった。見えない重圧に対する自分の葛藤であったり、表に見えている部分での勝負であったり、色々なことを体感できたことはすごく大きなプラスになりました」
WBC出場は「最高の選手たちの集合体で」
時は流れ、2026年には第6回を迎えるWBC。回を重ねながら、当初の狙い通り「野球の世界一決定戦」としての地位を築き上げた。小笠原氏も「WBCが目指す舞台として確立されたことは間違いない」と頷く。同時に、世界的にスポーツの多様化が進み、野球人気に陰りが見えてきた状況で「この発想が出たことがすごい。新しいことを始めるために大きなエネルギーを使って動いた人たちがいるから、今があるわけですよ」と感謝の気持ちを忘れない。
「最高の選手たちの集合体がWBCに出場するチームだと思います。今の現役選手たちには『来年は自分が出るんだ』という思いで取り組んでほしいですね。ただ、まずはNPBの長いシーズンがあってこその代表チーム。はっきり言えることは、選手はしっかりと日々の試合で自分にとって最高のパフォーマンスを出し、応援してくれる人たちを魅了し続けることが大事。まずはプロ野球に入り、1軍で結果を出してレギュラーを掴んだりタイトルを獲ったり。その先に侍ジャパン入りがあり、WBCでの世界一があるという順でやってもらえたらと思います」
井端監督が選ぶ「最高の選手たちの集合体」は、どのようなメンバー構成になるのか。シーズン終了後に見込まれる代表メンバー発表が今から楽しみだ。
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